“中学受験”に見る親と子の姿

中学受験で全校合格、しかしすぐ不登校に……「半狂乱になった」心配性の母親の告白

2023/12/09 16:00
鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

私立中を辞めて地元の公立中に転校、娘の“変化”

 それから、美香さんは舞華さんを見守ることを最優先課題とし、家の中で、指示語や命令口調、詰問する態度、そして、舞華さんの気持ちを一方的に決めつけ、先回りして行動すること をなくすように努めたという。すると、少しずつではあるものの、舞華さんから“リクエスト”のような言葉が出てくるようになったそうだ。

「すごく小さなことです。例えば、夕飯のメニューについて、前までは『何でもいい』と言っていたのに、『ポテサラが食べたい』と言われるようになったり、それに『〇〇のライブに行ってみたい』という希望を口にするようになったんです。考えてみたら、それまで舞華から『○○を食べたい』『〇〇に行きたい』と言われた記憶もないんですよ。いつも私から『〇〇食べる?』『○○行く?』って感じで聞いていたので……」

 美香さんはカウンセリングを受けているうちに、「私がいつも先回りしていたため、『舞華は自分の好きなことや何をしたいのかを、考えることすら なかったのかな?』と気づき、本当に反省しました」という。

 舞華さんは、ほとんど学校に通えないまま、中2の3学期を終えたそうだ。その時、学校側から「このままでは、併設高校への推薦資格は与えられない」との通告を受け、熟慮の末、地元公立中学に転校の手続きを取ったという。

「正直、『絶対に行かないだろうな』と思っていたんですが、口には出しませんでした。ところが、舞華がいきなり『私は変わる!』と言い出して、なんと中3の春から、地域の公立中に通うようになったんです。地元の塾にはずっと通っていたので、塾友はいたんですが、学校側が舞華と彼女たちを同じクラスにしてくれたんですよ。そのご配慮も 大きな後押しになったんだと思います」

 そして、舞華さん自身の強い希望で、芸術分野に強い高校に合格。「自分の好きな分野を思いきり学んでみたい」と舞華さんの思いは見事結実した。

「舞華に言われたんです。『ママが私のことを信用して任せてくれているのがわかって、頑張ろうと思った』と。特に、子どもの進路選択の時は、良かれと思い、親の気持ちを押し付けがちですが、それって“余計なお世話”なんですよね。中学受験当時の舞華には申し訳ないことをしました。でも、そのことに気づいて、舞華がいま自分の希望する高校に通えていることは本当に よかったです」

 最後に、美香さんが晴れやかな笑顔でこう言った。

「これからは、私も舞華を見習います。『私が本当にしたいことは何なのか?』を考えて、それをちょっとずつでも実行していこうと思っています」

 現在の舞華さんは不登校だった過去を忘れるほど、学校生活をエンジョイしているという。



鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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最終更新:2023/12/09 16:00
子どもを1人の人間として認めるってのも親の愛だよね
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