崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

Netflix『ナルコの神』麻薬王逮捕の瞬間は、ドラマよりも劇的? 実際の事件と異なる点とは

2022/10/21 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『ナルコの神』制作のきっかけは、ある偶然だった!

Netflix『ナルコの神』あらすじ

 全6話から成る本作は、エイの輸出事業で儲けようと韓国からスリナムにやってきたカン・イング(ハ・ジョンウ)が、スリナムで牧師と偽りながら麻薬密売を牛耳るチョン・ヨハン(ファン・ジョンミン)に商売を潰されたところから展開する。カン・イングはその恨みを晴らすため、チョン・ヨハンの逮捕を狙う韓国国家情報院(NIS、かつてのKCIA)に協力して作戦を遂行するという物語だ。

 そこにNISの潜入捜査官や凶悪な中国ギャング団、アメリカの麻薬取締局(DEA)などが絡み合い、それぞれの思惑がぶつかり合って、すさまじい速さで息もつかせぬドラマが繰り広げられる。

 ファン・ジョンミンやハ・ジョンウ、パク・ヘス、チョ・ウジら、今の韓国を代表する俳優たちのみならず、台湾出身でアジアを股にかけて活躍するチャン・チェンまで加勢した、超豪華で個性豊かな面々が発するエネルギーに圧倒される作品でもある。

Netflix『ナルコの神』スリナム政府から猛抗議に遭う

 ちなみに本作制作のきっかけは、ハ・ジョンウが事件を報じた記事を偶然目にし、映画化したら面白いのではないかと長年の親友・ユン監督に相談したことに端を発するという。ちょうど前作『工作 黒金星と呼ばれた男』(2019)を撮影中だったユン監督は、その後、Netflixでの『ナルコの神』ドラマ化が決まると、『工作』に主演したファン・ジョンミンにも声をかけて、この豪華タッグが実現したそうだ。

 ところが、韓国語の原題を『スリナム』と名付け、実在の国を舞台に大統領と麻薬王の癒着をちゅうちょなく描いたこの作品は、製作段階からスリナム政府に猛抗議されていたという。大統領が薬物犯罪で服役していたことが事実とはいえ、自国が麻薬密売の巣窟のように描かれていれば、抗議もやむを得ないというものだろう。

 そのため、韓国外務省がわざわざ仲裁に入り、韓国以外の国では『スリナム』のタイトルを使わず、「麻薬=ナルコ」と「聖職者=神」を合わせた『Narco-Saints』(ナルコの神)を提案したという裏話もある。

 では、実際に起こった事件とはどのようなものだったのだろうか? まず、ファン・ジョンミン演じる麻薬王の牧師、チョン・ヨハンのモデルとなったチョ・ボンヘンの人物像から見ていこう。

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胡散臭い人間役、ファン・ジョンミンの右に出る者はいないよ
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