崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

Netflix『D.P.-脱走兵追跡官-』に見る、韓国「徴兵制」の実態――「命令と服従」実体験を映画研究者が語る

2022/09/16 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。そんな作品をさらに楽しむために、意外と知らない韓国近現代史を、映画研究者・崔盛旭氏が解説する。

チョン・ヘイン&ク・ギョファン出演 Netflix『D.P.-脱走兵追跡官-』

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『D.P.-脱走兵追跡官-』でハン・ホヨル役を演じたク・ギョファン(Getty Imagesより)

 1988年12月中旬のある朝、私は玄関のドアを叩く音で目がさめた。ドアを開けると、軍服姿の若い男がニコッと笑って「召集令状です。おめでとうございます」と、赤紙を差し出した。この光景は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

 韓国では、現在も法によって男性に「兵役」の義務が定められる。私が受け取った赤紙(ちなみに、現在は白紙である)には、「1989年1月10日○時までに江原道(カンウォンド)・春川(チュンチョン)の○○補充隊集合」と書かれており、慌てて家族や友人に宛てて、手当たり次第に入隊の連絡を出した。そして、友人たちによる入隊祝賀会や出征式で酒漬けになったあと、数日後には頭を丸めて「娑婆」(軍隊では世間のことをこう呼ぶ)を後にした。

 休戦中とはいえ、南北に分断され対峙している朝鮮半島に生まれた以上、兵役は一種の運命として従うしかない。だが、若さを存分に堪能すべき20代の大事な2年半(現在は1年半に短縮)に及ぶ歳月を、国を守るという名分の下に捧げるのは「青春の足かせ」であり、これっぽっちもしっくりこないのが正直なところだ。

 入隊する覚悟はできていても、いざ足を踏み出すと、絶望のどん底に落とされたような気持ちになった。この絶望感は、赤紙を手にした韓国の若者ならば、誰もが抱く感情だろう。

 ありとあらゆる統制の中に「束縛」され、個人の意思も自由もまったく通用しない。そのため、入隊後は脱走や暴力を伴ういじめ、自殺者が後を絶たず、韓国軍が抱える最大の課題として社会を悩ませている。

 当コラムでは、これまで韓国社会に特徴的なテーマを多数取り上げてきたが、いつかは「軍隊」を取り上げたいと思っていた。私が服務していた33年前とは、服務期間から生活環境まで多くの点で変わっているはずだが、それでも軍隊制度の本質や感情的な問題など、変わらないことも多いのではないか。

 そこで今回、軍内部の問題に正面から迫り、大反響を呼んだNetflixオリジナルのドラマ『D.P.-脱走兵追跡官-』(2021)を取り上げ、個人的な体験も含め、韓国の軍隊について紹介したい。

『D.P.-脱走兵追跡官-』あらすじ

 全6話の本作は、軍隊の中でも最も深刻とされる「脱走兵」の問題をテーマにしている。D.P.とは、Deserter Pursuitの略語で、直訳すれば脱走兵追跡、またはそれを任務にする兵士=脱走兵追跡官のことを意味する。

 物語は、入隊して間もないアン・ジュノ(チョン・へイン)がD.P.に選ばれ、先輩のハン・ホヨル(ク・ギョファン)と共に脱走兵を探し出すという基本構図のもと、エピソードごとに脱走兵のさまざまな事情が描かれる。行方をくらました脱走兵の行動を推理して追いかけるスリリングな展開も見事だが、おのおのが脱走に至った背景を通して、軍隊の暗部や徴兵制に潜む根本的な問題を浮き彫りにしていく社会性の強いメッセージを含んだ作品だ。

 各エピソードは、実際に起こった特定の脱走事件やいじめとは関係ないそうだが、現に類似した事件が数多く発生していることを踏まえれば、軍隊の現実そのものであると言っても過言ではない。私から見ても、軍隊の現実をリアルに反映しているため、見る者の心に重いものを残すだろう。

 本作はとりわけ、入隊を控える男性やその恋人、家族など、当事者の間での関心や視聴率が非常に高かった。本作で描かれる問題は、彼らにとって決して他人事ではなく、ともすれば未来の自分自身の問題かもしれない。自然と関心が集まるのも納得だ。

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