[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

Netflix『梨泰院クラス』理解を深める3つの知識! 「梨泰院・財閥・クラス」の社会的背景とは?

2022/07/15 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。そんな作品をさらに楽しむために、意外と知らない韓国近現代史を、映画研究者・崔盛旭氏が解説していく。

パク・ソジュン主演 Netflix『梨泰院クラス』

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『梨泰院クラス』制作発表会に出席したパク・ソジュン(Getty Imagesより)

 コロナ禍で思うように外出ができず、在宅時間が増えたことによって動画配信プラットフォームが急速に浸透し、かねてより人気のあった韓国ドラマがますます見られるようになった。

 中でも2020年2〜3月にNetflixで配信が始まった『梨泰院クラス』と『愛の不時着』は、重苦しい現実から目をそらして没入できるエンターテインメント作品として、日本でも多くの人が“ハマった”のではないだろうか。この2作は依然として根強い支持を集めているが、ついにこの7月から日本で『梨泰院クラス』のリメーク版ドラマ『六本木クラス』(テレビ朝日系)の放送が始まった。

 『梨泰院クラス』の原作は韓国の人気ウェブ漫画で、日本でも『六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~』というタイトルで翻訳、ローカライズされ、3年ほど前から公開されている。ドラマ版『梨泰院クラス』は、韓国ではケーブルテレビでの放送だったが、回を追うごとに視聴率を上げ、大きな注目を集めた。

 『彼女はキレイだった』といったラブコメドラマや、以前のコラムでも取り上げた映画『ミッドナイト・ランナー』で人気を集めたパク・ソジュンが、原作そのままの“いがぐり頭”で主人公のパク・セロイを演じたほか、積極的なヒロインのチョ・イソ(キム・ダミ)と王道ヒロインのオ・スア(クォン・ナラ)という対照的な女性キャラクターや、ユ・ジェミョンが演じた憎々しい悪役である財閥・長家(チャンガ)の会長も登場。さらに、人種やジェンダー差別といった現代的なテーマなども描いており、ドラマの王道と新しい要素を織り交ぜた魅力的な作品である。

 全16話という見ごたえたっぷりの本作を一言で表すならば、「財閥という巨大権力の横暴に立ち向かい、仲間と共に闘う青年の物語」だろうか。不可能な相手にセロイたちがどう対峙していくかはドラマで楽しんでもらうとして、今回のコラムでは、作品への理解をさらに深めるために、「梨泰院(イテウォン)」という街の歴史的な成り立ちと、主人公が立ち向かった巨悪である韓国の「財閥(재벌、チェボル)」とは何か、そして「梨泰院クラス」というタイトルの意味について考えてみたい。

梨泰院はいつしか「国際的な街」に様変わりした

 本題に移る前に、まずは私の個人的体験から始めよう。大学入試直後の1987年12月、息の詰まるような受験勉強の重圧から解放された私は、数名のクラスメートと一緒に梨泰院のディスコクラブに出かけた。絢爛としたネオンサイン、そこかしこにたたずむ米兵たち、所狭しと踊る大勢の人々といった断片的な光景を今でも思い出す。初めての梨泰院は、「米兵の多いクラブの街」という印象が強く、ダンスにも疎かった私は、その後、梨泰院を訪れることはなかった。

 それから10年、大学生や軍隊、新聞奨学生を経てサラリーマンとなった私は、日本からの来客をソウルに案内した際、明洞(ミョンドン)や東大門(トンデムン)市場といった観光名所に続いて、再び梨泰院に足を踏み入れた。その時何より驚いたのは、梨泰院で働く人たちの流暢な日本語。たどたどしい日本語で必死に案内する私とは対照的に、街に並ぶ各店舗では日本語や英語、中国語の堪能な店員たちが外国人客を出迎えていた。いつの間にか、梨泰院は「国際的な街」に様変わりしていたのだ。

梨泰院(イテウォン)クラス オリジナルサウンドトラック
音楽だけは“完コピ”してる『六本木クラス』
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