オンナ万引きGメン日誌

「みんな死にました」スーパーの男子トイレで弁当を食らう万引き犯は、東日本大震災の被災者だった

2021/01/23 16:00
澄江(保安員)
写真ACより

 こんにちは、保安員の澄江です。

 政府による緊急事態宣言発令以降、お客さん以外の人は、なるべく現場に入れたくないというクライアントが増え、年明け早々から仕事量が減ってしまいました。長くご指名をいただいてきた店舗からの依頼も、一旦様子見となり、今月からお休みです。勤務中は、売場と事務所、それに警察署といった密な場所にしか身を置けません。お休みになったことで新型コロナウイルスの感染リスクが減り、個人的には少し気楽に思うところもございますが、今後の生活を考えると憂鬱になります。これほどまで不安な気持ちになったのは、東日本大震災発生以来で、夜な夜な友人に電話をかけて、寂しさを紛らわせることが増えました。今回は、数年前に捕らえた悲しき万引き犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京下町のベッドタウンに位置する総合スーパーY。深夜まで営業している地上3階建ての大型店舗です。長年にわたりお付き合いいただいている現場ではありますが、予算の都合上、年に数日しか保安員を導入できないため、来るたびに数件の捕捉がある多忙な現場といえるでしょう。居並ぶ団地群の脇道を抜ける最短ルートを辿って、総合事務所まで挨拶に伺うと、日本テレビの藤井貴彦アナウンサーに似た店長がうれしそうに出迎えてくれました。

「ああ、やっと来てくれた。ここ3カ月くらいのことなんだけど、3階にある男性用トイレの個室で弁当を食っているヤツがいてさ。お金を払っているとは思えないから、なんとかしてほしいんだよね」
「人着ですとか、来ている時間帯など、なにかおわかりのことはございますか?」
「ただ、個室内に飲食したあとがあるくらいで、なにもないんだよ。ほぼ毎日やられているから、防犯カメラのチェックをすれば、どこかに映っているだろうけど、確認する時間がなくてさ」

 さらに詳しく話を聞けば、酒やドリンクのほか、菓子、つまみ、デザートなどの空袋が散乱していることも多いといいます。ひどい時には1日3食、欠かさずに食べていかれることもあるそうで、清掃担当者にも注意を促しているとのことでした。聴き取り事実から被疑者像を想像すれば、おそらくはプータローさん(路上生活者のこと)の仕業でしょう。

 しかしながら、最近のプータローさんは、若くて身綺麗な方も多く、その判別が難しくなっています。被疑者につながる有力な情報は、決まって3階の男性トイレの個室内で飲食するという事実しかなく、捕捉するには自分のアンテナで発見するほかなさそうです。勤務時間中にやられてしまえば、自分の存在価値がなくなり、長きにわたり積み重ねてきた実績も失うことになりかねません。

万引きの文化史
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