[官能小説レビュー]

『おれの繭子』快楽のための規律を破ったとき、男女関係はどうなる?

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『花鳥籠』/無双舎

■今回の官能小説
『おれの繭子』深志美由紀(『花鳥籠』/無双舎より)

 男と女の間に存在するルール。それは当人同士しか理解し合えないことのほうが多い。

 それはSMの世界でも同じこと。男女間で主従関係を結び、緊縛や複数プレイなどで直接的に肉体的快感を与えることはもちろん、遠隔操作などで精神的にも快感を与えるSM。倫理を超えた行為から得られる快楽を共有し合うためには、その趣向の持ち主だけが理解し合える徹底した規律を守ることが大前提。けれど、もし越えてはいけないハードルを越えたとき、人はどうなってしまうのだろう?

 今回紹介する『おれの繭子』の主人公「おれ」は、知識と経験不足が災いし、いとも簡単にそのハードルを越えてしまった。

 仕事の調べものをするために立ち寄ったネットカフェで運命の女性・繭子と出会った「おれ」。迷路のようなネットカフェの本棚の向こうで、ミニスカートの中に指を突っ込み、淫猥な微笑みをたたえる繭子に誘われる。わけのわからぬまま個室ブースに押し込まれると、おもむろにズボンを下ろされ、露になった分身を飲み込まれたのだ。清楚なルックスからは想像も付かないテクニックに動揺しながらも、繭子に求められるままに写メを撮る主人公。

 どこか見覚えがある。果たしてどこだったか———曖昧な記憶をたぐり寄せようとしながらもあっという間に果ててしまうと、繭子は何事もなかったかのように彼を残して消えてしまう。混乱した思考回路と、初めて味わった至極の快楽。「おれ」がひとり残された個室ブースのパソコン画面には、会員制SMサークルの履歴が残されていた。

 もう一度、繭子に会いたい。「おれ」と繭子をつなぐたったひとつの糸は「APHRODITE」。それは、マゾヒストの女性とサディストの男性との秘密のサイト。淫らな女性たちの陶酔した無修正画像がリアルタイムで更新されつづけている。繭子はその住人であり、男たちからの命令を遂行することで快楽を得る“M女”だったのだ。そして主人公は記憶をたぐり寄せ、新婚当初にマンションを借りる際に担当してくれた不動産屋の新人社員が繭子だと確信した。

 繭子が勤務する不動産屋へ何度か足を運び、退社する彼女に声を掛けた。

「首を突っ込まないほうが、いいですよ。あなたの住む世界とは違うんだから」

 ぴしゃりと言い放ち、主人公を置いて去る繭子。しかし彼はとっくに繭子の世界に足を踏み入れてしまっていたのだ。

 繭子を抱きたい。主人公の生活と頭のなかは、そのことだけで埋め尽くされるようになる。「APHRODITE」に投稿される淫らな調教動画を舐めるように見ながら、繭子と自分に重ね合わせて高揚し、妄想する。貯金をはたいて「APHRODITE」に入会した主人公は、サイトのルールに従って、脅迫まがいの誘い文句で繭子をホテルに連れ出した。命令どおりに全裸にアイマスクを施した繭子の肢体を貪る主人公――しかし数週間後、主人公はどん底に突き落とされる。繭子が他の男たちに抱かれている動画を「APHRODITE」で発見したからだ。

 主人公は繭子の働く不動産屋へ行き、彼の独占欲に嫌悪感を露にする繭子に対してこう言うのだ。

「おれをあいつらと一緒にするな」

 そして主人公は、繭子を“おれのもの”にするための行動に出る――。

 男と女のルール。それはとても脆く、感情の振れ幅ひとつでいとも簡単にそのハードルを越えてしまう。ルールを守りながらの愛情こそが心の安住を得られるのか、それともハードルを越えてこそ究極の快楽を得られるのか? この物語は曖昧で危うい男と女の関係性を説いているのかもしれない。

『花鳥籠』

ルールは厳守!

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