「たけし『天才』」広告の闇【前編】

有名人をかたるフェイク広告「減らしていくことはできる」――「たけし『天才だね!』」減少した背景

2024/04/08 18:00
石徹白未亜(ライター)
写真AC

 SNS上での「有名人なりすまし広告」が社会的なニュースになっている。著名人になりすまして投資を呼びかけるフェイク広告で、堀江貴文、村上世彰、森永卓郎、中田敦彦、池上彰などの名前や画像を使って詐欺を行っているという。広告のニセ有名人に騙され、投資に応じ、その金を騙し取られたと訴える人が相次いでいることから、社会的な問題として浮上した。

 なりすまし広告はX(旧Twitter)、Facebook、Instagramで表示されているが、それ以前からウェブサイトでは有名人を騙った広告が跋扈していたのは記憶に新しいだろう。2020年にそれら広告の問題点について取材した記事を再掲する。

※2020年9月21日公開の記事を再編集しています。

目次

「たけし『天才だね!』」「マツコ驚愕」広告は法律違反だらけ?
広告では「500円で試せます」などと大きく記載されているが……
パソコンでは普通なのに、スマホで見ると怪しい広告になるケースも
たけし「天才だね」広告、実は9割以上削減!?
「医者が『何コレ…!?』と絶句するほど”脂肪肝”だった私」関係者が逮捕

 「たけし『天才だね!』」「マツコ驚愕」――これら言葉を使った広告を各種ウェブサイトで見たことのある人も多いのではないだろうか。

 2018年11月、朝日新聞が「勝手に芸能人名、広告掲載問題視」との見出しで、「たけし『天才だね!』」を筆頭とするネット広告について「実際にはテレビ番組で紹介されておらず、芸能人もまったく関わっていないものがあるとして、成功報酬型のネット広告の業界団体『日本アフィリエイト協議会』(JAO)が問題視」と報じた。しかし、それから2年近くたっても「たけし『天才だね!』」広告はいまだ目につく。

 こうしたウェブ広告にまつわる問題や対策の現状について、消費者庁をはじめとした官公庁と連携して情報交換を行い、アフィリエイト・ビジネスの健全な発展・普及を目指す活動を行う一般社団法人 日本アフィリエイト協議会の代表理事・笠井北斗氏に伺った。

「たけし『天才だね!』」「マツコ驚愕」広告は法律違反だらけ?

「たけしも絶賛」、果たしてどの「たけし」なのか?

――「たけし『天才だね!』」「マツコ驚愕」といった広告の、法律的な問題点について教えてください。

笠井北斗氏(以下、笠井) 多くの法律に触れているといえます。まず「景表法(不当景品類及び不当表示防止法)」ですね。これは簡単に言えば、誇大広告を禁止する法律です。芸能人が使ってもいないのに使ったと、読み手が誤認しかねないように書くことは禁じられています。

――「たけし」「マツコ」とは書いているのですが、「ビートたけし」「マツコ・デラックス」とは書いていませんよね。これも「アウト」なんですか?

笠井 法的にアウトの可能性が高いです。「たけし」「マツコ」と広告で見たら、ほとんどの人はビートたけしさんと、マツコ・デラックスさんを想像するでしょうから、「消費者を誤認させようとしている」といえます。

 実際に「マツコ絶賛広告」が出ていた記事を見てみると、マツコ・デラックスさんではなく、辛口の管理栄養士・松尾和美さんという、一部の友人にあだ名で「マツコ」と呼ばれている、という方が登場する内容だったということもありました。ちなみに、この広告を出していた通販会社はその後、消費者庁に行政処分されています。

 また、「たけし天才」の広告主が販売しているダイエットサプリにも問題があります。サプリメント・健康食品は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律、旧薬事法)において、医薬品のように効能、効果を記載することは禁じられています。サプリメントや健康食品なのに「飲むだけで脂肪が溶ける」「アレルギーが治る」と記載するのは、薬機法上、問題のある表現です。

――でも、このような表現は本当によく見かけますね。

笠井 そうなんです。さらに、このようなタレントの名前を使った広告では、芸能人の写真を許可なく使っているケースもありますが、これは「肖像権」上問題があります。ただ、最近は芸能人の写真をそのまま使う広告は、あまり見かけなくなりました。なお、アフィリエイト業界では著作権や肖像権の侵害行為を規約・ガイドラインで禁止しています。

広告では「500円で試せます」などと大きく記載されているが……

――たしかに、「たけし」も「マツコ」も写真は出ていませんね。景表法、薬機法、肖像権とすでに多くの問題点が見えましたが、ほかにもありますか?

笠井 こうしたタレント名を掲げる広告は、「健康食品、サプリメントの定期購入」を事業としているケースが多く、その販売方法において「特商法(特定商取引に関する法律)」に違反している事例も少なくありません。

 例えば、広告では「500円で試せます」などと大きく記載されていて、さも手軽に試せるように見えるものの、実は定期購入で最低6回は購入しないといけないことが、消費者からは見えづらい場所に小さく書いてあるようなケースです。500円は初回だけで、以降は一気に高額になり、解約もできず……といったものですね。こういった広告主の購入システムは、悪質でわかりにくいものも少なくありません。

 この点について、特商法では、「通販事業者は顧客に対し契約の内容をわかりやすく伝えなくてはいけない」と定めていますし、平成28年には「定期購入契約」に関する表示義務の追加・明確化も改正によって加えられているんです。

 しかし、芸能人の名前を使って広告を出している定期購入の事業者の中には、消費者を騙す意図をもって販売ページを作っているとしか思えない事例も少なくありません。

パソコンでは普通なのに、スマホで見ると怪しい広告になるケースも

――こうした不正広告を行っている側の手口には、ほかにどういった方法があるんでしょうか?

笠井 基本的に不正広告の場合は、商品を作って売る事業者と、広告代理店、広告ページを作る制作会社がグルになっていることが多いです。そして、制作した不正な広告ページをGoogleなど検索サイト、YouTubeなどの動画サイト、FacebookなどのSNSに大量に出稿して流すわけです。また、ターゲットにするのはパソコンサイトより、スマホサイトのほうが多い。ひどいケースだと、パソコンから見たら普通の広告なのに、スマホから見た時だけ違法広告になっていたりするんです。

――それって、どういうことなのでしょうか?

笠井 ユーザーがスマホで見ているか、パソコンで見ているかで、広告の表示を切り分けているんです。さらに、スマホの特定のアプリ、例えばFacebookのアプリから見た時だけ違法な広告を表示させる、というケースもあります。

――なぜ、わざわざそのようなことを?

笠井 いくつかの理由が考えられます。まず、スマホは画面が小さいので、ついつい利用者が「読み飛ばして」しまいがちな傾向があり、騙しやすいということ。そして警察、消費者庁、消費者センター、消費者団体、マスコミなど、不適切な広告を出す事業者に対し目を光らせている方たちは、基本的に「パソコン」でサイトを見ていることが多いんですよね。そのため、パソコンではクリーンな表示を装っている、とも考えられます。

たけし「天才だね」広告、実は9割以上削減!?

運用型の例。2つ並んで表示されることも

――こうした悪質な広告主に向けた対策は、現状どうなっているのでしょうか?

笠井 芸能人の顔写真や名前を使った悪質な広告は、アフィリエイト広告においては、今から2~3年前の最も多い時と比べて95%以上が削減されました。問題のある事業者を特定し、広告の出稿を禁止するなどの取り組みが進んでいます。

――でも、ネットではいまだにこの手の広告をよく見ます。

笠井 はい。95%以上削減できた、というのは、「アフィリエイト(成果報酬型)」において、なのです。私たちが見ているネット広告には、実は3種類あります。

■予約型
広告を出したい企業が、大手ポータルサイトなどの広告枠を購入し、掲載される広告。純広告やタイアップ広告という。

■運用型
SNS、動画サイト、アプリなどに設置された「ネット広告枠」に、プログラムが自動的に広告を配信する仕組み。そのため、SNS等運営側も自分のサイトに何の広告が掲載されているか把握できていないこともある。クリックや動画視聴の回数によって、報酬が発生する課金型の広告が主流。アドネットワークやレコメンドウィジェット広告等があり、ネットワーク広告会社が広告主を取り仕切る。YouTubeの動画広告、インスタグラムやLINEの広告なども含まれる。

■アフィリエイト
ブログやホームページ上に掲載されたアフィリエイトリンクをクリックした消費者が、広告主のページで購入や申し込みを行うことで報酬が発生する広告。広告主とアフィリエイターをASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー)がつないでいる。

――予約型は、広告を受ける媒体側がチェックすることで不正案件ははじけそうです。となると、運用型での不正広告が残っているから、ユーザーには「減ってない」ように見えるのですね。アフィリエイト広告では、不正広告削減のために、どのような取り組みが行われたのですか?

笠井 日本アフィリエイト協議会が呼びかける形で、アフィリエイター、広告主、ASPが三者一丸となって取り組みました。ASP事業者は、常にアフィリエイターのサイトを監視し、違法な表現で商品を宣伝していないかチェックし、アフィリエイターの皆様には、悪質な広告主の商品を紹介しないようご協力いただきました。また、広告主の皆様にも、違法な表現で商品購入を煽るアフィリエイターに対して、自社の商品掲載を許可しないようご協力いただいたんです。

――一方で、いまだ野放し状態の運用型のネット広告の現状については、どう考えていますか?

笠井 アフィリエイト広告で削減できたので、運用型のネット広告においても、減らしていくことはできるでしょう。というのも、悪質な事業者というのは数が限られていて、悪質な通販会社、広告代理店、制作会社は、ネット広告業界内でもう特定されています。例えば、違法広告が100あるとして、仲介してる広告会社は大体5社、その資金源になっている商品の販売会社も5社くらい。その事業者5社を取り次がないよう止めればいいだけなんです。

「医者が『何コレ…!?』と絶句するほど”脂肪肝”だった私」関係者が逮捕

――悪質広告の排除には、各方面からの対策が必要なのですね。

笠井 はい。第一に、消費者の方に問題を知っていただくこと。今回のようにマスコミを通して、知識をつけていただくことはとても大切です。第二に、悪質な通販事業者を潰していくことです。これは今、警察、消費者庁など関係各所がどんどん動いています。そして、3つ目は、いまお話したように、広告を仲介する広告会社や大手サイトが違法なものを取り次がないようにすること。まずは、影響力の大きいFacebookやインスタグラム、Google、YouTubeなどの大手プラットフォームが悪質広告主を突っぱねるようにしていただければ、消費者トラブルも激減させることができるはずです。

――警察、消費者庁の動きで摘発された事例は、どんなケースがありますか?

笠井 最近の事例では、「医者が『何コレ…!?』と絶句するほど”脂肪肝”だった私が、お酒も食事も我慢せずにわずか1か月で正常値まで下げた『最強健康法』とは!?」といった広告を出していた「ステラ漢方」の事例があります。

 7月に、ステラ漢方の広告担当者や担当広告代理店の社長ら計6名が大阪府警に薬機法違反で逮捕されました。ステラ漢方が販売するような「健康食品」が「医薬品」のように効能を説明することは、薬機法で禁じられています。

――関係者が行政処分された事例もあるんですね。

笠井 はい。ほかには、定期購入の契約をめぐり、今年8月に「麹まるごと贅沢青汁」の販売会社wonderに対して、消費者庁より6カ月間の業務停止命令、つまり「ビジネスをしてはいけない」という処分が下されています。消費者を誤認させるようなわかりにくい表記をしてはいけない、と定められている特商法に違反したケースです。

 ほかにも、3月に株式会社ニコリオが販売するダイエットサプリメントにおいて、景表法に違反していると、今後同様の表示を行わないよう埼玉県が措置命令を出しています。景表法は「誇大広告を禁ずる法律」です。

――警察や消費者庁が着々と動いていることがわかりますね。

笠井 はい。さらに行政だけでなく適格消費者団体も対策に動いています。二コリオの措置命令処分においては、埼玉の「埼玉消費者被害をなくす会」による尽力もあったようです。こうした消費者センター、消費者団体など関係各所による消費者を守るための適切な処分も、不正広告の抑止力になり、日々地道な活動が続けられています。

 我々アフィリエイト業界団体としても、消費者トラブルをなくすため『正しくアフィリエイトしよう!』という啓発・啓もう資料の無償公開や、「健康食品や化粧品の定期購入アフィリエイトの取り組み方指針」の公表等を行っておりますので、アフィリエイトやネット広告に関わる方にはぜひご覧いただければと思います。

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SNSの写真、広告に無断で使われた! 誇大・不正・悪質広告でネットユーザーが気をつけるべきこと

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2024/04/08 18:00
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