アイドルオタクのモヤモヤ

ASTRO・ムンビンさん死去……光と闇を持つK-POPアイドルをどう推せばいいの?

2023/06/27 18:00
雪代すみれ(ライター)
ASTRO・ムンビンさんの写真
Getty Imagesより

ジェンダーや人権をテーマに取材をするライター・雪代すみれさんが、アイドルに関する“モヤモヤ”を専門家にぶつける連載「アイドルオタクのモヤモヤ」。今回のテーマは、「K-POPアイドルの光と闇」についてです。

 高いパフォーマンスと洗練されたルックスでファンの心をつかんで離さないK-POPアイドル。煌びやかな世界に見える一方で、過酷な労働環境や体重管理などにより、アイドルが心身共に追い詰められる状況にあるという指摘が絶えない。明確な理由はわからないものの、今年4月にASTRO・ムンビンさんが亡くなった際にも、ネット上ではその背景に、K-POP業界の悪しき慣習が関係しているのではないかとの臆測が噴出した。

 「大好きなK-POPアイドルに、もっと活躍してほしい」という思いが、まわりまわってアイドルを苦しめることになってしまってはいないか――そんなふうに罪悪感を抱くファンは少なくないだろう。今回、K-POP業界の問題や、このような状況下でどのようにアイドルを応援すれば良いか、K-POPに詳しいライターのDJ泡沫さんに話を聞いた。

K-POP業界の問題の根本は、仕事とプライベートに境界線がないこと

――K-POP業界における厳しい事務所の管理、激務(K-POPアイドルは新曲のリリース時、短期間で多数の音楽番組などに出演するため激務となる。その期間は「カムバック」と呼ばれる)、過酷なダイエットなどが、アイドルの心身の健康を害していると一部で問題視されています。なぜこのような状況が生まれるのでしょうか。

DJ泡沫さん(以下、敬称略) K-POPグループはデビューするにあたって、寮でメンバーが一緒に生活することが基本です。ゆえにプライベートの境目がつきにくくなり、24時間事務所がメンバーを管理しやすい状況になることで、食事制限などの過酷なダイエットや激務などにつながるのだと思います。

――世界的に、ルッキズム批判やボディポジティブの機運が高まりつつありますが、K-POP業界では今もまだ「売れるために痩せなければいけない」という圧力が強いのでしょうか。

DJ泡沫 事務所によって違いがあり、中小ほどその傾向は強いと感じます。以前、元「公園少女」のMIYAがインタビューで、毎日体重チェックがあるのでほとんど食事をとらないことや、特にカムバック前の期間は常に厳しく体重管理をされていたことを話していました。新曲を出すタイミングで理想的なルックスにしたいため、カムバック前は女性でも男性でも水しか飲んでないといった話を聞くこともあります。

 ただ、大手事務所は練習生の数も多いので、最初から痩せ型の子に絞った上で、歌もダンスもうまい子をデビューさせやすいんですよね。それでデビュー後は自己責任に任せる事務所もあり、「事務所は何も言わないから、自分で管理しないと太ってしまって、そのまま人前に出るほうが怖い」と話す人も中にはいます。

 ですが最近は、アイドルが見た目について、自身の気持ちを主張する場面も見られるようになりました。生配信でファンから「太った」「むくんだ」などと言われたとしても、「なんでそんなこと言うの?」「カムバ前にはこのくらいにするから、今は太ってもいい時期なんだよね」等と言い返すこともあるんです。

――最近はIVEのレイが体調不良のため活動休止を発表し(現在は活動再開)、激務を心配する声が出ました。過酷な労働環境についてファンから是正を求める意見はあるのでしょうか。

DJ泡沫 実際にアイドルが休業すると、事務所に対する批判が噴出します。一方でK-POPはパフォーマンスのクオリティが高いと評価をされていて、加えて、特にカムバック中は活発な音楽番組などへの露出をファンは望みます。また、海外人気の広がりによって、より遠い国へ遠征しての活動機会も増えており、人気があるほどK-POPアイドルのスケジュールは以前よりもキツくなっている。それが枷(かせ)になっていることもあり、アイドルに「人間らしく生きてほしい」と言いながらも、縛りを緩くしてクオリティが下がったり、見られる機会が減れば不満に思うファンも少なくないと思います。

 そもそも韓国自体が激しい競争社会で、アイドルに対しても、「人気があってお金を稼いでるなら、休む暇なく練習すべき」という価値観を持っている人は少なくありません。人気がなければ尚更でしょう。「成長が見られないアイドルはいる意味がない」というような、己を律して邁進する子を尊いとする価値観もあります。

 レイが一時休業したのはカムバック期間です。この時期は新曲のパフォーマンスをほぼ毎日行うのですが、睡眠時間が1時間程度の生活が1カ月ほど続くことも。例えば、韓国では音楽番組のパフォーマンス部分は事前収録で、生放送前日の深夜にされることが多いのですが、その背景には、早い時間に収録をすると盗撮がリークされかねないという問題があって……。こうした特殊な事情のため、過密なスケジュールで対応せざるを得なくなっているようなんです。

 ちなみに、アイドルが寝てないということは、一緒に仕事をするスタッフも寝てないということ。マネジャーやスタッフの入れ替わりが激しいのも韓国の芸能界の特徴です。

レイが無事に復活してくれてよかった
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