[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『レッド・ファミリー』に見る、北朝鮮スパイの描かれ方の変遷とその限界

2020/03/13 19:00
崔盛旭

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

レッド・ファミリー

 『うつせみ』(2004)や『嘆きのピエタ』(12)など、奇抜な物語と過激な映像表現で「鬼才」と称され、世界有数の映画祭で数々の賞を受賞してきたキム・ギドク監督。そんな彼が製作・シナリオ・編集を手掛け、愛弟子のイ・ジュヒョン監督にメガホンを取らせたことで注目を集めたのが本作、『レッド・ファミリー』(13)だ。朝鮮半島南北分断の現実を北のスパイ団と南の一家族を通してユーモラスかつシリアスに描き、高い評価を獲得。日本でも第26回東京国際映画祭で観客賞を受賞している。

 韓国映画における「スパイ映画」は、朝鮮戦争直後の『運命の手』(ハン・ヒョンモ監督、1954)に始まり、昨年日本で公開された『工作 黒金星と呼ばれた男』(ユン・ジョンビン監督、2018)に至るまで、数えきれないほど作られてきた。それぞれの作品を掘り下げていくと、政権が替わるごとに、映画の内容やスパイそのものの描き方も変化していることがうかがえる。何よりも「反共」を国是としていた軍事政権下でのスパイ映画は、韓国に混乱をもたらし、社会転覆を狙って暗躍する北朝鮮のスパイを一網打尽にする物語がほとんどだった。映画に登場する北のスパイは、平気で韓国の人々を殺す殺人鬼であって、感情のある「人間」ではなかった。

 ところが90年代に入って民主化が進むと、スパイ映画にも変化が現れ始める。とりわけ、北朝鮮に対するそれまでの敵対政策から、平和と共存を目指す、いわゆる「太陽政策」への転換を打ち出したキム・デジュン政権と、これを受け継いだノ・ムヒョン政権下では、「我々は同じ民族」と訴える映画が量産された。スパイ映画のテーマが、イデオロギー(反共)からナショナリズム(民族的同一性)へと大きく流れを変えたのだ。『SPY リー・チョルジン 北朝鮮から来た男』(チャン・ジン監督、99)や『二重スパイ』(キム・ヒョンジョン監督、03)など、この時期に作られた映画において北のスパイは、もはや殺人鬼ではなく、喜怒哀楽の感情や内面を持つ一人の人間として描かれていた。

 このような流れは、保守派政権が続いたイ・ミョンバクからパク・クネ時代にも止めることはできなかった。かつての軍事政権時代とは比べ物にならないほど進歩した民主的社会と、それに伴う北朝鮮に対する認識の変化によって、国民は昔のような「北朝鮮=悪の塊」という単純で時代遅れのプロパガンダにはもう騙されなくなっていたからだ。こうした流れの中で作られたのが本作である。

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