[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

歴代4位の韓国映画『国際市場で逢いましょう』が、韓国人の心をかき乱す理由――「歴史の美化」と「時代に翻弄された父親」の残像

2020/01/31 19:00
崔盛旭

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。このコラムでは、『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)の共著者であり映画研究者の崔盛旭の解説のもと、映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『国際市場で逢いましょう』(ユン・ジェギュン監督、2014)

『国際市場で逢いましょう』/ビクターエンタテインメント

 1,400万人以上の観客を動員し、韓国での興行ランキング歴代4位に輝いた『国際市場で逢いましょう』(ユン・ジェギュン監督、2014)。一人の男の人生を描きながら、朝鮮戦争やベトナム戦争など韓国現代史を盛り込んだ同作は、韓国国内を熱狂させた。ややもすると地味な作品となりがちな構成だが、家族のために自らを犠牲にする父親像に、同世代の観客はもちろん、その背中を見て育った子どもや孫にあたる世代からも共感を得て、空前の大ヒットにつながった。 

 ユン監督自身は本作を「あくまでも私の父の物語」であるとし、政治的な解釈に対しては距離をとっていたというが、公開当時に本作をめぐり政治的な議論が巻き起こったことも興行的には追い風になった。本作を何回も見たという当時のパク・クネ(朴槿恵)大統領が主人公の愛国的精神を評価し(彼女の父親であるパク・チョンヒ<朴正煕>政権の時代を描いているので当然ではあるのだが)、映画『弁護人』(第2回のコラムを参照)を冷遇した保守派メディアが「あの時代の苦労があったからこそ今の韓国がある」とこぞって取り上げた一方で、映画の半分を占めるパク・チョンヒ軍事独裁時代を「美化した」との批判が一部の評論家から上がったのだ。同じ時代を「ノスタルジア」と見るか、「悪夢」と捉えるかは人によって違うだろうが、民主化を求めて軍事独裁と闘ってきた人々にとっては、同作は時代を「美化」したとしか思えないだろう。

 だがいずれにしても、本作が多くの観客に感動を与え、支持されたのは確かな事実である。それは多分、激動の歴史に対して抗うこともできず、ただ目の前の生活と家族のために身を粉にして尽くすといった、無数の平凡な父たちを合わせたような「父親像」を描き、観客それぞれが自らの父をそこに見いだすことができたからだろう。

 私自身も例外ではない。私の父も、10歳で朝鮮戦争を体験し、若き主人公が当時の西ドイツへ出稼ぎに出たように、私が幼い頃にイランやサウジアラビアへ出稼ぎに出たりしたのだ。今は亡き父の人生は、死ぬまで家族のために捧げられたと言っても過言ではない。映画の中で妻ヨンジャが主人公ドクスに向かって「あなたの人生なのに、なぜあなたがいないの?」と涙ぐむ場面があるが、そのまま父に聞かせたいと思った。ドクスに何度も父の姿が重なって見えたのだ。

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