海外ドラマ『ハンドメイズ・テイル』7つのトリビア――「原作ではモイラは白人で、エミリーは名無し」「ジェーンの部屋に隠された意味」

2019/09/28 18:00
堀川樹里

6)原作では、ジューンの本名は明かされない

 名前を奪われ、ギレアドの司令官の所有物としての「オブ〇〇(司令官の名前)」という名で呼ばれる侍女たち。主人公のジューンも、シーズン1と2ではオブフレッド、シーズン3からはオブジョセフと呼ばれる。侍女、マーサたちは互いを見張り、不穏な動きをしたら密告するように命じられている。しかし、同じ「被害者」である彼女たちは次第に互いを信頼するようになり、自分の本名を明かし、名前で呼び合うようになる。ジューンは、司令官のフレッドや、彼の妻セリーナからも本名で呼ばれるようになる。しかし、ジューンが名前で呼ばれるのはドラマだけ。原作で、本名は最後まで明かされていなかった。

 とはいえ、原作ファンの間では「主人公の名前はジューン」という説が有力だった。小説の前半、レッドセンターで侍女候補たちが互いに本名を打ち明けるくだりがあり、「アルマ、ジェニン、ドロラス、モイラ、ジューン」という名前が登場。ジューン以外の名前は、後にキャラクターの名前として物語で使われた。主人公の一人称で語られる小説において、ジューンだけ使われなかったのは、主人公こそがジューンだからだとファンは推測していたのだ。

 ちなみに1990年に公開された映画版では、主人公の名前はケイト。原作ファンたちは「ドラマではジューンの名が採用された!」と喜んでいる。

7)小道具にも意味がある

 シーズン1~2で、ジューンが侍女を務めたウォーターフォード家。壁に飾られている絵画は、値打ちがあるものに見える。番組美術監督のジュリー・バーグホフは、「フレッドとセリーナが、(クーデター後に)ボストン美術館に行き、好きな絵を盗んできて飾ったという設定にした。自然が好きなセリーナは、きっとモネの絵画を選ぶだろうと思い、モネ風の絵を用意した」と明かしている。

 また、「通常、あまり天井には気を配らないのだけど、ドラマではジューンが天井を見上げるシーンがある。司令官の書斎の天井は、ルネサンス建築の天井を参考にし、中央にアメリカの地図があるデザインにした。地図を、フレッドがダーツ盤に見立てて使うことを想像しながら」とも告白。そのフレッドの書斎には、ギレアドで禁じられている「本、芸術品、セクシュアルな芸術品、アルコール」があるが、最新テクノロジーはない。司令官たちは、その特権により禁じられている物を所有できるが、環境汚染につながるテクノロジーだけは頑なに拒んでいることを、これらの小道具でも表現している。

 一方、ジューンに与えられた部屋については、「必要最低限のものしかないが、わざと机を置いた。これはかつて編集者だったジューンに、“ギレアドでは、もう二度と物を書くことが許されないんだ”と、人生の喪失を感じさせるために置いた。鏡の跡もわざと残した。“もう、おしゃれをすることは許されないんだ”と思わせるために」と説明。ジューン役のエリザベスも、「部屋には鍵がないの。自傷できるようなものも何ひとつない」ことに気づき、演技するにあたり役立ったと明かしている。

 最高のスタッフを誇る番組美術チームだが、最も制作に苦労したのは、スーパーの小道具だったそう。ギレアドでは女性が文字を読むことが禁じられているため、商品に貼るラベルにかなりの時間を費やしたそうだ。最終的に、ラベルには内容物の写真や絵だけでなく、絵文字表記も添えることにした。スーパーのシーンに違和感を覚えるのは、値段や商品名がわかるような文字が排除されているからなのだ。

最終更新:2019/09/28 18:00
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