[連載]海外ドラマの向こうガワ

ドラメディゆえに成功!? 末期がん患者をユーモアと皮肉交じりに描いた『キャシーのbig C』

2015/04/22 13:00

■ストーリーに緩急つけやすい「ドラメディ」

 60年代までのアメリカのテレビ界において、「コメディ」とは30分枠で放送される「観客の笑い声が入ったファミリー・シットコム」、ドラマは1時間枠で放送される「西部劇や刑事、SF、メロドラマなどシリアスな内容の作品」だと決まっていた。70年代に入ると、この定義が崩れ、1時間枠で放送される笑い声の入らないコメディや、30分枠で放送されるドラマが登場。笑いを取るだけだったコメディのストーリーラインは深みのあるものになり、長続きする作品へ変化していった。

 80年代になると、初のドラメディ成功例だとされる『Frank’s Place』(87~88)が「CBS」でオンエアされる。ニューオリンズのレストランを舞台に、人種差別や格差など難しく深刻なテーマを明るく軽妙に描いた作品は業界からも高く評価され、ワンシーズンで打ち切られたにもかかわらずエミー賞にもノミネートされた。そして、80年代後半からは『こちらブルームーン探偵社』(85~89)のようにユーモア、ヒューマンドラマ、恋愛がうまくミックスされたドラメディがヒットとなり、00年代になると『名探偵モンク』(02~09)など次々と人気作が登場。シリアスなテーマとユーモアを絶妙なバランスで混ぜ合わせたドラメディは、確立されたジャンルとなったのだ。

 本作品はシーズン4で完結しているが、シーズン3までは末期がん患者である主人公の奔放ぶりが見られ、死を受け入れようとする姿や家族への愛情が30分という放送枠いっぱいに描かれている。シーズン4だけ1時間枠で全4話という構成であるが、どんな状況になってもクスっと笑わせてくれるドラメディの要素は盛り込まれており、人生や病に対する皮肉もユーモアたっぷり。プロデューサーのジェニー・ビックスは、「本作はキャシーの避けることのできない死がテーマ。でも、死に向かうまでの彼女を描くのではなく、彼女の生き方を描きたかった」と明かしているが、最終話までキャシーの生が描かれており、辛口なテレビ評論家たちからも「脚本がしっかりしているため、とてもリアルで素晴らしい作品に仕上がっている」と絶賛された。

 同作の製作総指揮、ダーリーン・ハントは「主人公は末期がん患者だが、死ぬのは末期がん患者だけじゃない。死は誰に対しても訪れるもの。だから、がん患者やその家族、遺族だけにアプローチするのではなく、万国共通の誰もが共感できる物語にするよう心がけた」と説明しており、「死は、生まれるのはわかっているけどいつ陣痛が来るのかがわからない出産と似ている。自然分娩は人間がコントロールできないものだけど、死も同じ」と発言。彼女の思惑通り、軽妙に進むこの作品を見れば、いつか訪れる「死」に自然と向き合う、よい機会になるはずだ。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国→台湾を経て、現在は日本に帰国。数年後に来るだろう海外生活を前に、日本での生活を満喫中。

最終更新:2015/04/22 13:00
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