[連載]海外ドラマの向こうガワ

ドラメディゆえに成功!? 末期がん患者をユーモアと皮肉交じりに描いた『キャシーのbig C』

2015/04/22 13:00
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NHK海外ドラマホームページより(2015年4月から放送中)

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディテールから文化論を引きずり出す!

 日本人の死因トップである「がん」は、アメリカ人にとっては心臓病に続く死因第2位という深刻な疾患であり、テレビドラマでも度々取り上げられてきた。『ER緊急救命室』(1994~2009)、『グレイズ・アナトミー』(2005~)などの医療ドラマでは、余命わずかな末期がん患者の苦しみを和らげる緩和処置しかできない医師の葛藤や苦しみながらも死を受け止める患者の姿など、「がん=暗くて悲しいイメージ」として描かれてきた。

 全米に数多くいるがん患者やその家族・遺族の心情を考えると、がんを明るくコミカルに描くことは難しい。しかし、末期がん患者が、不安に苛まれながらも人間らしく生きようとする姿を滑稽に描いた作品が、10年8月に米大手有料チャンネル「Showtime」で放送開始された。末期がんと診断された中年女性が、「これからは自分のやりたいことをやろう!」とワガママいっぱいに生きる姿を描いた、『キャシーのbig C いま私にできること』である。

 物語の主人公は、野暮ったい中年の高校教師・キャシー。生徒からは退屈がられ、夫とは倦怠期真っただ中、思春期の息子にはウザがられるという、ごくごく普通の兼業主婦だ。そんな彼女がある日突然、余命1年の末期がんだと診断され、一切の悔いが残らないように生きようと決意。老後のための貯金を全て下ろし、常識もモラルも無視して、豪快に人生を謳歌し始める。同時に息子に母親としてできるすべてをやろうとして嫌がられたり、ホームレス生活を続けている兄に世話を焼き始めたり、周囲にはがんであることを打ち明けられずにいるため、みな彼女の言動についていけず、大きな誤解も招くことも。しかし、キャシーはそれすら自然の流れに任せようとする。

 この作品が多くの人に受け入れられたのは、エピソードを重ねるごとに死が近づくという難しい設定であるもかかわらず、主人公が闘病している姿ではなく、誰にも遠慮せず自分らしく生きようという姿をブラックユーモアたっぷりに、コミカルに描いたからだろう。もちろん末期がん患者ならではの葛藤や絶望、死後の家族を考える主人公の愛情も描かれているのだが、これらの要素が絶妙なバランスでミックスされている“ドラメディ”だったからこそ、ここまでヒットしたのである。

 ドラメディとはロムコム(ロマンスコメディ)に続き、アメリカで人気が出たジャンル。ドラマとコメディの要素が混じり合った作品のことで、ここ10年ほどアメリカのテレビ界で主流のジャンルになっている。

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