[連載]海外ドラマの向こうガワ

現実に疲れたアラフォー女性を発奮させるドラマ『リゾーリ&アイルズ』


『リゾーリ&アイルズ』/ワーナー・
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――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディテールから文化論をひきずり出す!

 女の子が人形遊びをすることは、世界共通だといわれている。多くのアメリカ人女性も、幼い頃にバービー人形で遊んだ経験を持つ。凛とした表情にパーフェクトな体形、ロングヘアのバービー人形は、アメリカの少女たちの空想の世界で「優しい母親」や「厳しい教師」、そして「かっこいいキャリアウーマン」になるという。

 男女平等な国として知られるアメリカだが、一昔前は男尊女卑がひどかった。70年代に入り、女が外で男に伍してバリバリ働くのが幸せなことだという新しい価値観が生まれたのだが、その流れに乗り、男性社会で働くバリキャリウーマンを題材としたテレビドラマが登場するようになった。女性スパイが男勝りのアクションを繰り広げる『チャーリーズ・エンジェル』(1976~81)、男勝りのジャーナリストがアンカーとして活躍する『TVキャスター マーフィー・ブラウン』(88~98)、そして2人組の女性刑事が大活躍する『女刑事キャグニー&レイシー』(82~88)。バービー人形を「憧れのかっこいいキャリアウーマン」に見立てて遊ぶ少女たちが急増したのは、前出のような「男社会の中で、男性以上に仕事を完璧にこなすスーパーウーマン」番組が大きく影響していると伝えられている。

 90年代、2000年代も、まだまだ男性社会だとされる法廷や警察、CIA、FBIや政治、医療の世界で女性が活躍するテレビドラマが次々と制作された。しかし、ウーマンリブ全盛期に生まれたアラフォー世代は、ここにきて現実を見つめるようになってきた。キャリアに生きようとしても、親は「いつ結婚するのか」とうるさく、男性も「仕事はほどほどにして、家庭を大事にしてほしい」という人か自分の給料目当ての人が多い。いつの間にかシワも白髪もシミも体重も増え、おまけに体型も崩れてきた。理想と現実はあまりにも異なる。40歳まで仕事一筋でシングルを突き通すと、頻繁に心が折れそうな壁にぶち当たってしまうようになるものなのだ。

 そんなアラフォー女性たちが、かつてバービー人形を使い、バリキャリごっこをした懐かしい思い出を呼び起こすようなドラマが、2010年夏にスタートした。女性向けドラマを得意とするTNTネットワークの『リゾーリ&アイルズ ヒロインたちの捜査線』である。ドラマの舞台は、歴史の古い大都市として知られるボストン。市警察の殺人課で働く唯一の女性刑事リゾーリと女性主任検視官アイルズの2人が、権力を追う男性の多い職場で奮闘していく姿を描く物語である。

現実にいそうなキャラクターが、アラフォー女性を発奮させる

 中流家庭に育ち少年のような子だったリゾーリは、職場で女扱いされることは少ないが女性のため損をすることは多く、あきらめながらも憤りを感じている。過去の事件で重いトラウマを抱えているが表には出さないのも、隙を見せたくないと感じているから。また、うっとうしいと感じながらも家族思いで情にあつい女性であり、仕事にもそんな女性らしい優しさが反映されることがある。

 一方アイルズは、ハイソな家庭で育ち、良家の子が学ぶ寄宿学校から名門大学に進んだ才女。ネットで高級ブランドを購入し、殺伐とした事件現場にもスーツにハイヒール姿、バッチリメイクで登場する。人当たりはよいが実は生身の人間との付き合いがうまくできず友達も少なく、彼氏もいない。彼女も出生や育ちにトラウマのようなものを抱えている。死体ならうまく付き合えるし、助けてあげられるから――と検視官になった彼女は、性格も趣味も育った世界も何もかも正反対だからか、リゾーリには心を許すことができる。

 この作品は、中華系アメリカ人のベストセラー作家テス・ジェリッツェンの『外科医』にインスパイアされ、登場人物であるリゾーリ刑事とアイルズ検視医をW主人公とし、ドラマ化したものである。『外科医』は女性を生身の人間らしく、なおかつパワフルに描いたとして評価された作品で、『リゾーリ&アイルズ』放送が決定した時はファンから期待が寄せられた。テスもクリエーターとして制作に参加し、細かく注文を加え、ドラマは大ヒットした。

 ヒットの要因は、原作ファンに支えられただけでなく、アラフォー女性が憧れる、現実にいそうなキャリアウーマンを描くことに成功したからだとされる。2人のベタベタしていない、カラッとした男っぽい友情も視聴者の憧れ。ちなみに、アイルズのセリフの中に舌をかむような専門医療用語が多いのは、テスが実際に活躍していた女医だったから。医者なら何の気なしに医療用語をさらっと使うということを、ドラマでも実現させているのである。

 スリムな体形に豊かな髪を持ち、凛とした美しさを備えたヒロインの2人は、まさしくバービー人形のよう。おまけに高い知性と理性を持つ、「女性が憧れるタイプの女性」である。警察という権力社会の中で生きているにもかかわらず、リゾーリは出世への最短距離である曲がった道には決して進もうとはしない。アイルズも「何があっても絶対にウソはつかない」と頑固だ。不器用なまでに真面目な性格を持つ2人だが仕事はきちんとこなし、女性ならではの勘を働かせ、難解事件を解決に導く。現実に疲れたアラフォーの女性視聴者に、「女性は社会で大いに役立っているのだ」と再確認させてくれるのである。番組は2010年に「ウーマンズ・イメージ・ネットワーク・アワード」で最優秀ドラマ賞を獲得しているが、当然の受賞だと祝福する声が多く上がった。

 キャスティングもドラマをヒットさせた大きな要因であるが、製作総指揮者は「運が私たちに味方してくれた」と告白している。リゾーリ役のアンジー・ハーモンは、40歳になるモデル出身の女優。国民的クライムサスペンス・ドラマ『LAW&ORDER』(シーズン9~11)のカーマイケル検事補役でお茶の間に顔が知られるようになった。アイルズ役のサッシャ・アレクサンダーは『NCIS~ネイビー犯罪捜査班』(シーズン1~3)でNCIS特別捜査官役をレギュラーで演じていた経験のある、インテリ役が似合う39歳の女優。美人だが嫌みを感じさせない男っぽい性格を見事に演じている2人のおかげで、30~40歳代の女性から「こんな女友達が欲しい」と支持されるようになった。

 数多くの映画で刑事役をこなしてきた名脇役のブルース・マクギルが、リゾーリの元相棒である初老ベテラン刑事コーサック役を引き受けたこともラッキーだったと、プロデューサーは語っている。彼はこれまで何度もテレビドラマからレギュラー出演をオファーされたが、断ってきた。しかし、コーサック役には「強く惹かれた」「これまでの自分の経験が役立つと確信した」と出演を決定。彼がキャストに参加したことにより、ドラマの深みが増し、年配層を視聴者に取り込むことに成功した。

 また、制作サイドは意識はしていなかっただろうが、2人のヒロインたちの友情が「友情以上恋人未満のロマンチックな感じ」に見えると、ネット上では大きな話題になっている。リゾーリもアイルズもストレートという設定のようなのだが、ふとした仕草や表情、視線が絡む瞬間に互いを愛おしく感じ、性的に意識しているようなエロさが感じられるというのだ。この作品に夢中になってしまう女性同性愛者がエピソードを重ねるごとに増えているという点でも、静かに注目されているのである。

 働く女性たちを虜にする「完璧ではないけれど、バービー人形のようなカッコいい」ヒロインたちの魅力が堪能できる『リゾーリ&アイルズ』。ストーリー展開もテンポよいので、気がつくとドラマに引き込まれていたと驚くことだろう。現実的なキャリアウーマン像が描かれているこの作品を、あなたにもぜひ堪能してもらいたい。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして、海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

加齢って自分以外のことが疲れるのよね

しぃちゃん

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