「タレント本という名の経典」

「素敵やん教」が持ち得なかった要素を組み込み、進化し続ける”ブンシャカ教”

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KY』(ワニブックス)

――タレント本。それは教祖というべきタレントと信者(=ファン)をつなぐ”経典”。その中にはどんな教えが書かれ、ファンは何に心酔していくのか。そこから、現代の縮図が見えてくる……。

 記念すべき連載1回目は、これぞまさに”教典”と呼ぶのにふさわしいブンシャカ教の聖典、『KY』(神児遊助著、ワニブックス)を紹介したい。「ブンシャカ」とは上地雄輔(ブログ・著書は「神児遊助」名義)が2010年夏にリリースしたシングル「ミツバチ」(ミュージシャンとしては「遊助」名義……ってあーもうめんどくせーなおい)のサビで高らかに歌い上げられるオノマトペ「♪ブーン ブーンシャカ ブブンブーン」に由来しており、一部ネットユーザーの間では上地自身を揶揄し、転じて彼のファンも含めて「ブンシャカ」と呼ばれることがある。

 ブンシャカ教といえば、ご存知「素敵やん教」の分派ととらえて間違いない。去る8月23日、暴力団との親密性を裏付けるメールの存在を理由に芸能界を引退した「素敵やん教」の教祖・島田紳助が引退会見で語った「グル(父ちゃん)と弟子(上地)」の糸を引くようなネバついた関係性に背筋が凍った人も少なくないのでは。

「昨日も上地雄輔が(自宅に)来て泣いてたんですけど、『父ちゃん父ちゃん』と言いながらね。みんな僕の子どもたちですから。『お父ちゃんは引退しても、子どもたちの成長をこれからも見守るから』と」「上地は、昔から言うとるんですけれども、『一生父ちゃんを守るからね』と……」(会見場、凍てつく)。まさにグルから弟子、しかも教えを引き継がせる一番弟子に対するシャクティーパットではなかろうか。ちなみに、各新聞社サイトに掲載された「島田紳助謝罪会見全文」ではこのくだりがカットされており、吉本興業と上地の所属事務所によるリスクヘッジの跡が見える。

 一方、この紳助の発言を受けて上地は、会見の翌々日の8月25日、本著『KY』のネタ元でもある自身のブログで、

「『お父ちゃん』なんて書いてまた不謹慎て書かれても報道されても、間違いなく大事な大事なオイラの父ちゃんは父ちゃんです。」

と、グルへの絶対忠誠を誓い、

「大事な人のそんな姿を、黙って見てられる程できた人間でもない無責任でバカなオイラにお父ちゃんの周りの人達から『雄輔!今は見守るんだぞ!!絶対変な事すんなよ!』て、暴走を止める連絡がスンゲー来て‥テレビの前で拳を握って正座しながら見てました。無力な自分が悔しくて情けなくて」

 と、”大人の事情”から、困難に面したグルに対して何もできない自分を悔い、今すぐグルのもとへと駆けつけたい心情を吐露している。しかし父ちゃん父ちゃんって、この件に関して実際の父ちゃん(横須賀市議会議員・上地克明氏)はいったいどう思ってるんだろうか。

 さて、そんな上地雄輔が同8月に上梓した、20分で読み終わるライトな経典『KY』だが、その中にも「素敵やん教」の影響が随所に色濃く出ている。

「自分を疑ってどぉーすんねん!/夢や目標、したい事がない、もー見つかんないよぉーって人。/…ゆーてる時点で/それ夢ですやーん!!」
 
 など、神奈川県出身の上地が不慣れな関西弁を用いて、少しでも「素敵やん?」の教えに寄り添いたいという思いが見て取れる。

 また、

「欲があるなら、夢と呼ぼう/やってもやらなくても後悔します。/けどやった方が納得します。
/後悔 昨日に置いてきな。/反省 ポケットに入れときな。」

 などは誰かさんの、財欲・権威欲・色欲を”夢”という名の包装紙にファサーッとくるむやり口や、「なりふりかまわず女性マネージャーや若手芸人をどつき回したんも、やらないで後悔するよりやって納得したほうがええからや」という詭弁を軸に成り立つ倫理観を彷彿とさせる。それからこの『KY』というタイトルも、「人がなんと言おうと自分の決めた道を突き進め。空気なんか読むな。KYであれ」というようなことを言いたいんだろう、たぶん。ブンシャカ教は「素敵やん教」の「夢・感動押し」の流れを汲み、紳助の持ち得なかった「イケメン」「天然」「純真」という上地のパッケージキャラクターが存分に機能して、F1/F2層をターゲットにさらなる発展を遂げていった。

 ”夢”。どうやらこのマジックワードが、ブンシャカ教を読み解く鍵のようだ。上地とそのクルー(上地はファンをこう呼ぶ)は”夢”で繋がっている。上地のブログには日々万単位のクルーが「夢に向かって走るゆうちゃんから、毎日勇気もらってます♪」「ゆーくんのまっすぐな生き方大好きです☆ ○○(自分の名前)も見習って、自分の夢あきらめないからっ!!!!」などといった熱い熱いコメントを寄せている。中には「白昼夢」とか「夢想」とか「酔夢」のほうの”夢”で繋がっているファンも少なくない、というか圧倒的多数のように思える。自と他の、「自分」と「ゆうちゃん」の境界をなくし、同化しようとしている。「ゆうちゃんの喜びはアタシの喜び、ゆうちゃんの悲しみはアタシの悲しみ」「ゆうちゃん、ほら、空見て? 深呼吸して? アタシたちクルーとゆうちゃん、おんなじ空でつながってるよ☆彡」……じつに面白い。余談だがこの「深呼吸」というフレーズは上地のブログ内でキーワードになっており、「空見て深呼吸」「深呼吸してからの…ヨッシャ!!」といった具合に頻出する。上地式呼吸法であり、ブンシャカ教の儀式と思っていい。

 特に目を見張ったのは前述8月25日、紳助会見後初の投稿直後の、クルーからのコメントである。「ゆーちゃんの大切な紳助パパ。だから私たちにとっても大切」「ゆぅ君が紳助さんの言ってること信じるんだから、私も信じる」「紳助さんを助けてあげて。 あんなに多才で心がきれいな人が引退なんてありえないです……神様お願いします。助けて」 ……人それぞれ感じ方はあると思うが、とりあえず、島田紳助を「心がきれいな人」と形容する人を、私は生まれて初めて目にした。
 
 上地自身もまた、”夢”の中にいるのかもしれない。”がむしゃらに”、”無邪気に”、そしてときどき(権威に取り入るという)本能的な嗅覚を働かせながら突っ走ってきたら、いつの間にか何十万人ものクルーがついてきた。なんかキャーキャー言われてる。熱中症になっても待っててくれるクルーがいる。クルーが求める「ゆうちゃん」にならなきゃ。あれ? 俺が「ゆうちゃん」で「ゆうちゃん」が俺で?……あれ? ま、いっか……という具合に。

 ともあれ、このように「素敵やん?」の教えを自らのクルーに浸透させることに成功した上地雄輔。後ろ髪引かれる思いで芸能界を去っていった島田紳助も、自らが育てた弟子の成長をさぞかし頼もしい思いで見つめていることだろう。何しろ「神」の「児(こ)」だしな。自分で言っちゃってるしな。親が政治家だしな。小泉孝太郎と幼なじみだしな。今後ブンシャカ教がどのように展開していくのか、ますます目が離せない。
佃野デボラ(タンブリング・ダイス)

「KY」

夢から覚めるっていうのも、素敵やん?

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