文化女子大教授×WWD編集長対談【第2回】

“かわいい”では拾いきれない、価値観の崩壊

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【第1回はこちら】

 第1回では、「Olive」による”かわいいカルチャー”の誕生までを語ってもらった。第2回では「Olive」が現代に与えている影響や、その精神を引き受けた「CUTiE」の意味、”かわいいカルチャー”の行く末をテーマに進める。

――話をうかがっているうちに、今の青文字系雑誌が「Olive」幻想から抜け出していないような気がするのですが。というのも、古賀さんが著作の中で指摘されてる、「Olive」的なモノ(リボン・フリルなど「少女」っぽい装飾志向、ボーイッシュなスタイル、小物・アクセサリーへの強い嗜好性)というのは、今なお「sweet」や「In Red」にも色濃く反映されていると思います。

古賀 まず、アクセサリーなどの嗜好性が高まっているのは、モードが行き詰っているからじゃないでしょうか。現在の日本で、【註1】川久保玲が出てきたような活気はもうないんですよ。うちの大学でも「KENZOになりたい」という学生はいないんです、もはやファッションが細分化されているから。一時期、ミニスカートが流行った時代は、どこもかしこもミニスカートを出したけど、そういった現象って、もうないでしょう? モード自体に大きな動きがないんですよ。

山室 それもありますよね。ファッションが作曲の時代から、アレンジの時代になっていますから。それとね、「CUTiE」が89年に創刊されたことによって、次のエポックに移ったと思うんだ。東京の若い女の子たちが「Olive」でストリートやスタイルMIXといった、リアルクローズを手に入れたわけですよね。もともとストリートは「人と違うこと」、つまり何かを足したり、デコしてオリジナリティーを表現すること。「CUTiE」以降、宝島が増殖させた、アナーキーやストリート、パンクにプラスされる”何か”=カワイイだったわけで、そこで”宝島スタイルの文化”が完成されたんだよね。

古賀 (「Olive」幻想から抜けきれない)もう一つの原因は階級差だと思います。ヒッピーやパンクは、社会の閉塞感から生まれたもの。「戦争に行きたくない」という思想を、言葉として言わないけど、着ることによって体制への抵抗感を表現したんです。そういう意味では、日本人の若者は恵まれているんですよね。それが”カワイイ”=自己満足の世界につながる一因なのかも。

山室 日本の価値観の崩壊といえるのが、90年代半ば以降の「アムラー」の出現ですよね。彼女たちは海外のコレクションを、自分たちの都合のいいように変化させた。グッチのトム・フォードのトロピカルシリーズなんて、それ自体はハイビスカスだったり、大柄のプリントだったりとエレガントなものだったのに、渋谷の109へ行ったらハワイアンレイが足されたり、頭に花をつけたりして、まったく違うものになっていた。

古賀 あのパワーはすごいですよね。彼女たちのアイデア の元というのは、影響が弱まったはずのパリコレのデザイナーのアイデアだったりするんですよね。でも全く違うものにしてしまうというのが、すごい。

山室 あのあたりから、パリコレ至上主義というのが崩れたんじゃないかな。援助交際が現象として出てきて、女子高生たちルーズソックスや制服などの自分たちのスタイルが「メディアにとっておいしい」と自覚したんでしょう。それまでのファッションというのは、例えば川久保怜を目指してストイックに、”モテ”を封印した価値観だったのに、それが崩壊したことによって、「”モテ”はありでしょ」という価値観に転換していった。その流れで、「CanCam」(小学館)なんかは、男のストライクゾーンを目がけた方向性に進んでいったわけだし。今の”モテ”思想の源流はそこかもしれないね。赤文字系雑誌は”モテ”というフィルターで、”カワイイ”をモードとは違った方程式を作り出したんですよね。

 だから僕は逆に「sweet」に関しては、ギャル文化中の純文学を感じるんですよ。梨花や安室奈美恵みたいに、人生に1回挫折した女性が登場し、そして再生していくという。男を意識するなんてことは、全く考えてない。

――確かに、「sweet」に関しては異性の目を排し、「他の人がどう思おうと、自分がかわいければOK」という世界観が見受けられます。

古賀 でも私は、最近の「sweet」は創刊のころと比べて、大きく印象が違います 。初めは「CUTiE」のお姉さん版かと思っていたのに、最近では赤文字系とはまた違う”欲望(むき出し)系 “になってきているにように見える。付録が宝島としての”当たるツボ”だったんだろうし、それが雑誌ビジネスの残る道だと思ったんだろうけど。

山室 でもここまで、ストリートカルチャーが大きくなって、「mini」「smart」「spring」と各雑誌に細分化されたことがすごいですよね。他の出版社も、正直ストリートがここまで力を持つとは思わなかったし、ようやくその力の大きさに気が付いたころには、すべて宝島の中で増殖されていた。

古賀 でも最近の「sweet」を見ても、「カワイイ」が「可愛い」という表記になっているんですよね。カタカナ表記が少なくなっている。

山室 「カワイイ」という言葉自体、現在どの位置にいるんでしょうね。この間、「Popteen」(角川春樹事務所)のモデルに会ったんですけど、彼女たちは「カワイイ」なんて言葉は使わない。「おっしゃ~」とか「ヤバい」ですよ。

古賀 私はもう、「カワイイ」は特別な意味を持たずに、相づちになっていると思います。

――古賀さんは書作の中で「大人」が介入することで、”カワイイ”が終わったと分析されていますよね。

古賀 大人が”かわいいカルチャー”を分かったということ自体、終焉を迎えたと思っています。もっと言うと、この本が求められたということ自体、”かわいいカルチャー”に一区切りがついて、歴史的に論じてもいいころになったのではないかと。でも、ロリータとか、ゴスロリなんかは微妙な問題があるから、なんとも言えないですけど。

――古賀さんはメディアが取り上げ、大人が介入することで、「文化」というものは衰退すると著作で書かれています。一方、メディアが取り上げないと、文化が成熟というジレンマもありますが?

古賀 でも、しょうがないんじゃないですか。介入して花開く部分もあるし、その文化が終わるか、変質していくというのは必然だと思います。カワイイに変わる、何かが出てくるでしょう。”カワイイ”は指す世界は広く から、衰えるのが早いのかもしれませんね。

山室 そうですね。この格差社会の中でファッションにおいても、「カワイイ」という言葉じゃすくいきれないところまで来ているんじゃないかと思っています。990円ジーンズとか、ファストファッションとか、否定するわけではないけど、美意識やファッションとしての感性が劣化してきていることは確か。もう「カワイイ」じゃ拾えない、「ヤバい」でしかすくえない価値観まで来ているんじゃないか、という危機感を抱いてます。

【第3回へ続く】

【註1】川久保玲……スタイリストを経て1973年に、コム・デ・ギャルソンを創設。81年にパリコレデビューし、世界中に大きな衝撃を与えた。

古賀令子(こが・れいこ)
 東京都出身。お茶の水女子大学卒業後、ファッション情報分析および商品企画業務に携わり、フリーランスのファッション・ライター/翻訳者を経て、2002年より文化女子大学教授。ファッション誌を主資料に近・現代ファッションを研究。著書に、『コルセットの文化史』(青弓社)。

山室一幸(やまむろ・かずゆき)
 上智大学理工学部卒業。1985年より「ファッション通信」(BSジャパン)の番組プロデューサーとして、20年以上にわたってパリ、ミラノ、ニューヨークを中心に世界各国のファッションシーン最前線を取材。2006年より現職。

「かわいい」の帝国(青弓社、1995円)
 主に紙メディア(女性誌)から、「カワイイ」文化の誕生から衰退までを辿った書籍。中原淳一から「アンノン族」、ロリータやゴスロリ、「かわいい男」の誕生など、年代を追って、社会情勢や価値観の変化などを「かわいい」のフィルターを通して、解説していく。巻末の「『かわいい』関連年表」は、女性誌を語る上での重要な資料をなりうる。

「かわいい」の帝国

「Olive」の影響、再考の価値ありです

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