高橋ユキ【悪女の履歴書】

63歳の“えぐり取られた女性器”――惨殺された「多情な老婆」、男たちとの肉体関係【神奈川“阿部定”イズム殺人事件:前編】

2020/10/03 17:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

「痴情関係の恨みから『お定事件』を逆に行ったものではないか」

 なにより雨戸をこじ開けた近所の者たちが一番恐怖したのは、みつの下腹部が鋭利な刃物でえぐり取られていたことだった。

 男性の下腹部を切り取った阿部定事件を否が応でも想起させる犯行態様について、新聞はさまざまに書き立てた。

「神奈川のグロ事件」
「お定を逆に」
「怪奇!開かずの家で多情の老婆惨殺さる」

 こんな見出しが躍る新聞記事には、「老人ながら極めて多情者でいろいろな浮いた噂もあるので犯人は痴情関係の恨みから『お定事件』を逆に行ったものではないかと見られている」とも記されている。

 みつの倒れていた部屋には食卓があり、茶碗などが散らかっていたことから、4日前の夕食どきに被害にあったと警察は推定した。時折流れる続報では、「グロ殺人事件につき、家の内外を大捜索の結果、まず室内から下腹部を切り取った血がこびりついている菜切包丁を発見、ついで付近の畑から顔を殴った石を発見」など記されている。

 また、えぐり取られた下腹部については「家の中にも付近にも見当たらぬので犯人はお定事件の場合のごとく持回っているのではないか」(当時の新聞記事)とされ、犯人の目星は全くついていないことが報じられた。

夫と別居中だったみつの“夜の顔”

 みつには13歳年上の夫との間に三男三女がおり、子どもはいずれも独立。事件の5年前から夫婦関係が悪化し、みつは二俣川村に家を借りて夫と別居を始めていた。

 そのうち、夜になると入れ替わり立ち替わり、みつの家に男たちがやってくるようになったのだという。このため最初に疑われたのは、生前のみつと関係のあった男たちだった。

――後編は月日公開

高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

傍聴人・フリーライター。2005年に傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。著作に『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)など。好きな食べ物は氷。

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Twitter:@tk84yuki

最終更新:2024/01/16 16:20
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