オンナ万引きGメン日誌

新型コロナパニックで「高級マスク大量万引き」! 保安員が驚いた「女泥棒の正体」とは……

2020/03/14 16:00
澄江(保安員)

「いくらなんでも怪しすぎる」女が高級マスクを次々とカゴへ……

 当日の現場は、昔ながらのスタイルで営業を続けるディスカウントストアK。地元民に愛される地域密着型の大型店で、長きにわたってお付き合いさせていただいているクライアント様です。入店の挨拶を済ませて店内の状況を見て回ると、この先「マスクが不足する」という報道に接したらしい多くの方々が、複数のマスクをカゴに入れていました。同一商品を大量に棚取りするのは、万引き犯に見られる代表的な挙動の一つ。しかも高性能マスクは、意外と高額で、被害に遭いやすい商品なので、それを複数取りしている全員が不審者に見えます。自分本位で勝手なことを言わせてもらえば、買い占め行為に至る卑しい気持ちから出るやましさのような雰囲気は、万引きする人の発する雰囲気と同じなのです。

(しっかり見極めないと……)

 買い占め目的の客が多いのか、平日にもかかわらず休日以上の大混雑をみせる店内で不審者の見極めを行っていると、しばらくして不気味な中年女性が目に止まりました。つばのついたスポーツキャップを目深にかぶったうえに、大きなサングラスをかけて、マスクをつけている女です。顔を隠すようにしているため、その年齢はわかりませんが、服装や身の回りの物などから判断するに30歳くらいでしょうか。その容姿はもちろん、肩にかけられた量販店の大きなトートバッグと、カートに載せられた精算済みカゴが不審に思えてなりません。

(いくらなんでも怪しすぎるわ)

 人混みを掻き分けながら、不自然なほどの早足でドラッグコーナーに入って行く彼女の後を追えば、日本製の高級マスクを次々とカゴに入れていきます。身を隠しながらも目を離さずに棚取りの状況を確認すると、続けて箱入りのマスクを手に取り、合わせて5箱(ひと箱30枚入り)のマスクを、カート上にあるカゴの中に入れました。まだ販売制限はかかっておらず、大量購入自体に問題はありませんが、しきりと後方を振り返りながら売場を離れて行く姿が気になります。すると、屋上駐車場に通じるエレベーター前で足を止めた彼女が、カゴの中にある商品をトートバッグに詰め替え始めました。この先にレジはなく、その緊張した面持ちを見れば、精算するつもりはないようです。

 全ての商品をトートバッグに入れ終えた彼女が、エレベーターに乗り込んだので、閉じかけた扉を開いて駆け込むように同乗しました。少し警戒されたようですが、構うことなく閉ボタンを押して、操作盤の前に陣取って到着を待ちます。これから捕まえる人と、二人きりでエレベーターに乗ると、お互いの鼓動が聞こえてくるような感じがするのが不思議です。

「どうぞ」

 開ボタンを押して先を譲ると、会釈ひとつすることなく私の前を通り過ぎた彼女は、駆け足に近い早足でカートを走らせました。出入口脇に停められた黒い軽自動車の脇にカートをつけ、大量のマスクを隠したトートバッグを後部座席に置いたところで、そっと声をかけます。

「警備の者です。そのバッグに入れたマスクの代金、お支払いいただけますか?」
「え? 払いましたけど……」
「では、レシートを拝見できますか?」
「いらないから捨てちゃいました」

 買っていないのだから、レシートがあるはずありません。レシートをどこに捨てたのか問えば、「忘れた」と答え、事務所への動向を促せば、行く理由がないと主張されます。数分間にわたり、やんわりと説得を続けてみましたが、何を言っても埒が明きません。仕方なく警察を呼ぶことにして自分のスマートフォンを取り出すと、明らかに動揺した様子をみせた彼女が、端末を操作する私の手を押さえて言いました。

「ごめんなさい。払いますので、警察だけは許してください」

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