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「女子力」を鍛えた女子は幸せになるの? 努力のその後

2020/02/02 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 先日、中学からの友達にこの連載を見せたところ、「原宿って昔から物事をナナメに見ているところあったもんねー」という感想をいただきました。ナナメ? え、そうなの? 自分ではむしろ真正面から見ているつもりなんだけど……と、若干びっくりしました。

 ということで、もしかしたら私が最近考えている仮説も、他の人からみたら、「ナナメ」、あるいは荒唐無稽と感じられるものなのかもしれません。その仮説は、「女子力を鍛えると、(結果的に)労働時間が長くなり低賃金になるのではないか」というものです。

「女子力」は努力して高めるもの
 さて、「女子力を鍛えると、労働時間が長くなる」仮説を述べる前に、まずは「女子力とはなにか」という点を明らかにしておく必要があるでしょう。

 「女子力」を理解すべく私が参考にしたのは、名古屋市立大学人間文化研究科准教授・菊池夏野さん著『日本のポストフェミニズム 「女子力」とネオリベラリズム』(大月書店)の第4章<「女子力」とポストフェミニズム――大学生アンケート調査から>です。

『日本のポストフェミニズム 「女子力」とネオリベラリズム』(大月書店)
 「女子力」は、今(2020年)から約10年前、2009年にユーキャン・流行語大賞にノミネートされた新しい言葉で、その言葉を取り上げるメディアによって定義は微妙に異なります。皆さんも、「料理上手」「美容に熱心」「男性を虜にする仕草」「隙があること」など、様々なイメージを持っているのではないでしょうか。

 しかし菊池さんは、先行研究では「女子力」を女性をエンパワメントし「良妻賢母規範から脱却させる力を持つもの」としていると分析し、そのような見方が妥当であるか考察しています。菊池さんが大学生782名にアンケート(2013年)を実施し、「女子力という言葉のイメージ」を調査したところ、下記の結果が出たそうです。

・女子力という言葉において内面と外見どちらを重視するか?

男女ともに内面が多かった。しかし女性の方が外見を選んだ割合が多い

・女子力が高いと聞いてイメージすることは?

男女総合:1位から5位は「家事、服装、メイク、髪型、マナー」

女性:1位から3位は「メイク、服装、家事」

男性:1位から3位は「家事、マナー、服装」

・女子力が高いと有利になるものは?

1位から3位は男女変わらず、「恋愛、男性に対する人間関係、結婚」

 つまり、メディアの発信する情報の受け手側である大学生たちにとって、「女子力が高い女性」というのは、「美しさや家事能力、マナー、などを身につけている、または身につけようとしている女性であり、そういった女性は恋愛や結婚で有利になる」イメージがあるようです。

 女子がこういった「女子力」を向上させようとすることについて、よいと思うか? という問いに対しては、58%が思う、40%がどちらでも良い、と答えており、思わない、はわずか2%でした。自分を磨き努力していくこと=いいことである、という考えの人が多いようです。

<女子力とは、結果を得られなくても、努力すること自体に価値があるものなのである。たとえば女子力の高さと「生まれながらの美人、美貌」はイコールではない。美は家事能力の向上を目指して日常的に自発的に管理されようとする心身のあり方、内面性が「女子力」なのだ。>(『日本のポストフェミニズム 「女子力」とネオリベラリズム』P123より)

<また、「女子力」は向上させることによって「恋愛」や「男性との関係」「結婚」などで有利になると考えられており、基本的にはヘテロセクシャルな「男性」中心的価値観の中にある。ただしセクシーであることや性的に積極的であることといった性的含意よりも「家事」という無償労働的側面が大きい>(同P141)

「女子力」を受け入れられない
 よりよい「女性」であろう、そうなろう、と「努力する」ことは「いいこと」。そう言われると、反論しづらいですよね。しかも当の女性にとって女子力向上は、結婚に有利だと考えられているわけで、メリットしかないとも言えます。けれど、そうではない。

 たとえば「女子力」の代表的なものは、部屋を綺麗にしたり、料理を作れたりする「家事」能力です。女性だけに「家事」能力が求められ、「女子力」という言葉で「女子だからできて当然」「できた方がモテますよ」と宣伝されたころで、私はすんなり飲み込めません。これは「ナナメ」だからなのでしょうか。

 「男性が内心NGだと思っている女子のファッション5選」的な記事は2020年現在もネットに溢れていますが、そうした情報に「うるせー、てめーのために着てるんじゃねえわ! 好きなもの着させろ」と反発する女性もいますよね。私もそうです。

 「女子なら男性に好かれることが大事だと思うでしょ?」
 「家事能力を魅力的だと感じて結婚相手に選ばれることが最大のメリットでしょ?」

 そんな価値観をYESと受け入れることが「素直」な態度で、NOと跳ね除けることは「ナナメ」なのかもしれません。

ポジティブな「女子力」のネガティブな側面
 「女子力」を向上させることがさも良いことかのように宣伝している媒体は多くあります。そしてその宣伝は成功していると言えるでしょう。見た目だけじゃなくて中身の美しさが大事、でも見た目の可愛さも大事、カワイイは努力で作れる、努力して幸せになろう!……いかにもポジティブで素敵な女性の価値観、みたいですよね。否定したらやっぱり「ナナメ」扱いされると思います。

 でも「女子力」には負の側面もあるのではないでしょうか。同書では「女子力」について、<これは、あらゆる社会構成員に、トップを目指して競争に邁進することを要請するネオリベラリズムの思想を体現した語彙といえないだろうか。>(同P123)と考察しています。

 とはいえ、実際に「女子力」を向上させるべく努力している女性、「女子力」を良いものと捉えている人にとって、ネオリベラリズムの思想なんてどこか遠い世界のもので、どうでもいいものかもしれません。

 そこで冒頭に提示した私の仮説「女子力を鍛えると、(結果的に)労働時間が長くなり低賃金になるのではないか」です。「女子力」を向上させることで、その女子の労働力は不当に安く使われる可能性がある、と私は考えます。

 「女子力」を鍛えるべく努力した結果、そんな女性の「内面」に惹かれた男性に「選ばれて」結婚したとしても、ワンオペ家事(や育児)になる可能性、高くないですか? 家事能力の高さを買われて「選ばれて」いるのですから、そうなりますよね。女性自身も家事や育児を「自分の役割」と考えているので、夫婦共働きでも「正社員+ワンオペ家事」「パート労働+ワンオペ家事(+ワンオペ育児)」といった、「どんだけ働くねん!」状態になりかねません。そしてそれは、どれだけ過酷であっても、その家庭において「彼女の役割」です。「パート労働+ワンオペ家事(+ワンオペ育児)」で正社員の夫よりも実質労働時間は長く(そして賃金はかなり安く)なっているのに、なぜか「食わせてやってる」扱いされる女性も少なくありません。

 専業主婦になったとしても、夫が死んだり離婚することになった場合、働いていない(実際は家事労働しているが、企業側からは働いていない期間だとみなされる)というブランクがあるため、キャリアを一から構築するか、キャリアアップを見込めない職場で低賃金で働かなければならない、という可能性がでてきます。「自分だけは大丈夫」とは言えません。

 だから「女子力」じゃなくて「稼ぐ力」を身につける努力を……と言いたいわけでもなくて、そもそも努力が絶対正義であるというのも思い込みかもしれないのですが、ともかく「女子力」の向上は女性の幸せを保証するものではないと私は考えます。

 それに、家事や気配りを女子特有の力、女子なら身につけておくべき力であり、無料でするべきサービスだとしておくこと……って、結局、誰にとってメリットがあるのでしょうね? 「女として生まれたのだから女子力は必須」なんでしょうか? なぜ? 「ナナメ」ではなくて、正面から問いたいのです。

最終更新:2020/02/02 20:00
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