芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

歴代4位の韓国映画『国際市場で逢いましょう』が、韓国人の心をかき乱す理由――「歴史の美化」と「時代に翻弄された父親」の残像

2020/01/31 19:00
崔盛旭

≪物語≫

 朝鮮戦争の最中、興南(フンナム)から避難する混乱のなかで、一人の少年ユン・ドクス(青年期を演じたのはファン・ジョンミン)は父(チョン・ジニョン)や妹と離れ離れになる。母(チャン・ヨンナム)と弟、末妹と共にドクスは釜山・国際市場で雑貨店を営んでいる叔母(ラ・ミラン)のところにたどり着く。休戦で朝鮮は南北に分断され、興南には戻れなくなったドクス家族は、そのまま釜山で暮らしていく。大人になり長男として家族を養うドクスは、弟の学費のために、親友のダルグ(オ・ダルス)と一緒に鉱山労働者として西ドイツに出稼ぎに出る。そこで看護師をしているヨンジャ(キム・ユンジン)と出会い、帰国後2人は結婚するが、その後も戦争中のベトナムに出稼ぎに出るなど、家族のために自分を犠牲にするドクスの苦難は続くのだった。

 本作は、韓国人なら誰でも知っている4つの歴史的な事件を背景にしている。1)興南撤収、2)西ドイツへの出稼ぎ、3)ベトナム戦争、4)離散家族探しだ。今回は韓国現代史をつなぐこれらの出来事について解説していこう。

 最初は朝鮮戦争の悲惨さを語る上で欠かせない「興南撤収」だ。興南は、北朝鮮の北東にある港町である。朝鮮戦争時、仁川上陸作戦の成功により破竹の勢いで北進していた米軍と韓国軍が、中国軍の参戦によって一気に劣勢に追い込まれた。米・韓軍は興南に兵士を集結させて海路で撤収しようと作戦を立てるも、同時に30万人近くの避難民たちが押し寄せてきた。彼らを見殺しにできないと、軍は船から武器を降ろし、避難民を乗せた。それによって1950年12月15~24日までの10日間で、10万人の避難民の命が救われたのだ。

 だがその混乱の中で、ドクスのように家族と生き別れになった人も多くいた。ラストシーンでドクスの孫娘が歌う、1953年の大ヒット曲「굳세어라 금순아」(がんばれ!クムスン)は、まさに撤収時の様子を歌にしたものだ。「興南撤収のときに離れ離れになったクムスンよ、僕は今、釜山の国際市場で商売をしているんだ。君はどこにいる? また会う日までがんばろうね」といった歌詞からもわかるように、大切な人と離れ離れになった悲しみを唄っている。多くの避難民の涙を誘ったこの歌は、後に映画やドラマにもなり、「クムスン」の名は、どんな労苦にも負けずにがんばる女性のシンボルとなった。本作はいわば、クムスンの男性版の物語と言えるかもしれない。ちなみにムン・ジェイン(文在寅)大統領の両親も、この時に米軍の船で避難し、避難先の巨済島でムン大統領が生まれたという。

 2番目の「西ドイツへの出稼ぎ」は、パク・チョンヒ政権下の1963~77年に行われた「鉱山労働者・看護助手の西ドイツ派遣」にあたる。「失業問題解決と借款契約」の建前のもと、延べ2万人が稼いだ外貨は、韓国経済に少なからず貢献したと評価されたが、内実はパク政権が打ち出していた「経済開発計画」を推し進めるための資金を西ドイツから借りる代わりに、労働者を派遣するというものだった。当時、戦後復興によりめざましい経済発展を遂げていたものの、炭鉱や看護・介護の分野で人手不足に陥っていた西ドイツと、開発のために資金を欲していた韓国が、お金と労働者の交換という取引を行った形だった。

 アメリカからは「クーデター勢力に金は貸せない」(※当時のパク・チョンヒ大統領はクーデターにより軍事政権を成立させた)と断られ、国交のなかった日本を頼ることもできなかった韓国にとって、西ドイツからの提案は渡りに船だったのだろう。すぐに鉱山労働の経験者を対象に募集をかけたのだが、なぜか大学生たちが殺到して世間を驚かせた。外国への渡航が自由ではなかった当時、どんな形であれ西欧の地を踏むことは若者たちにとって大きな憧れだったに違いない。映画でドクスは帰国するが、実際は渡航者の6割以上が現地で進学や就業を選択し、定着した。これが在独韓国人の出発点であり、現在もドイツには韓国人のコミュニティが残っている。

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