怖いくらいの家族の絆

ホアキン・フィニックス、幼少期を過ごした「カルト教団」や兄・リバーの死について衝撃告白

2020/01/15 19:52
堀川樹里(ライター)
孤高な俳優のイメージが強いホアキン

 

 昨年公開された映画『ジョーカー』で、心優しい売れないコメディアンが悪のカリスマへと変貌する過程を熱演し、世界中で大絶賛されたホアキン・フェニックス。とはいえ、私生活は相変わらず地味でマイペース。“変わり者の天才役者”と称されるホアキンが出演した、米報道ドキュメンタリー番組『60 Minutes』が12日に放送され、ネット上で大きな話題となっている。19歳の時に亡くした兄リバー・フェニックスの死について語ったからだ。

 インタビューが苦手で、途中で帰ってしまうこともよくあるホアキン。今回自宅で受けた『60 Minutes』インタビューの聞き手は、ベテラン・ジャーナリストのアンダーソン・クーパー。彼もまた21歳の時に、兄を飛び降り自殺という形で亡くした経験を持つ。共通点があるからか、ホアキンはめったに語ることのないリバーの死についても淡々と語り始めた。

 「うちの家族は、エンタテイメントの世界からかけ離れた環境の中で暮らしていたからね。エンタメ番組なんか見なかったし、雑誌も買わなかったし。だから俳優としてのリバーが、そんなに有名なスターだなんて知らなかったんだよ」と明かし、「(リバーが突然死んで)最も気弱になっていた時に、頭上にヘリコープターが飛び交って。家の敷地内に忍び込もうとする人もいて。哀悼を妨げられたように感じたね」と、マスコミの執拗な取材のせいできちんと兄の死を悼むことができなかったとぼやいた。

 1993年のハロウィーン前夜、リバーが「The Viper Room」というクラブで薬物を過剰摂取し体調に異変をきたしたとき、そばにはホアキンと姉レインがいた。リバーが倒れてけいれんを起こして亡くなった時に、911に緊急通報したのもホアキンだった。兄弟仲がとても良かっただけに、兄を目の前で亡くした経験がホアキンの精神に大きなダメージを与えたことは想像に難くない。

 番組放送後にウェブで配信された特別版『60 Minutes Overtime』では、アンダーソンの「何年もの間、(自殺した)兄の名前を口にしたり、兄について話すことができなかった」という気持ちに、ホアキンは「自分に重ねることができる」と同調しつつ、「母や姉がリバーのことを語り、思い出を生かしてくれている」と明かした。さらに、「これまで自分が作り上げてきたすべての映画の中で、リバーとの何らかのつながりを感じてきた。(家族の)みんなが、彼の存在だけでなく、導かれているのだという感覚を覚えているんだ」と熱く語った。

 ホアキンは1970年代、亡き父と、母の意向でヒッピーファミリーとして世界中を巡り、ベネズエラでは「神の子供たち」というカルト・コミュニティ/教団で2年間生活していた。77年に一家は教団を脱退し、帰国。ロサンゼルスで暮らし始め、きょうだいはストリート・パフォーマーとして活動を開始。子役の仕事もスタートさせ、リバーは映画『スタンド・バイ・ミー』で、ホアキンは10歳でドラマ『Hill Street Blues』に出演し、その演技力が注目されるようになった。

 『60 Minutes』では、そんな子役時代のある日、撮影から帰ってきたリバーが、ホアキンに「おまえはオレよりも有名な役者になる」と予言。そして、「ぜひ見てほしい」と興奮しながら見せてくれた映画『レイジング・ブル』(80)が、ホアキンのその後の役者人生に強い影響を与えたことも明かした。

「自分の中の何かを目覚めさせてくれたんだ。突然、彼(リバー)と同じ視点で映画を見られるようになったんだ」

「『レイジング・ブル』で(主演の)ロバート・デ・ニーロが、フェンス越しに女性と会うシーンがあるんだけど、その時、女性の小指をつまんで握手するんだよね。細部まで美しく描かれているこの素晴らしい一瞬が(現在に至るまで頭に残り)……いろんな意味で、自分はそういうものを表現できないかと、常に探しているのだと思う」

 ホアキンの言葉の端々からリバーへの敬意が伝わってくる。しかしその兄を苦しめたのは、カルト・コミュニティの存在だった。リバーは91年に受けた雑誌「Details」のインタビューで、「神の子供たち」にいた4歳の頃にレイプされたことを告白。94年には「Esquire」誌のインタビューで、カルト教団を「人生をダメにする奴らだ」と憤りをあらわにしていたため、カルト教団から受けた性的虐待によるトラウマに苦しんで薬物依存症になり、死の遠因になったのではとささやかれている。

 今回のインタビューでも、ホアキンは「神の子供たち」のことを、「ヤツらはもちろん自分たちはカルトだなんて宣伝しないわけだよ。そんなこと言ったら誰も入団しないじゃないか」と苦笑いし、隣に座った母親の「私たちは牧師で、移動しながら生活をし、真理を伝授することで寄付をもらって暮らしていたの」というカルト時代の話を、複雑な表情で聞いていた。

 以前、「神の子供たち」の元信者が、「教団は男性信者獲得のため女性信者にセックスを強要したり、乱交したり、子どもへの性的虐待を加えていた」と告発し、物議を醸した。しかし教団は04年には「ファミリー・インターナショナル」と名を変え、いまなお活動をしている。

 いまは教団と縁が切れているが、そのことによって家族の絆はより深まったようで、今回のインタビューに、母親、継父、そして3人の娘たちも登場させていた。そして、静かでごく普通のシンプル・ライフを好む、中年男性の顔ものぞかせた。

 暴君として知られるコモドゥス帝、伝説的ロッカーのジョニー・キャッシュ、イエス・キリストと、難しい役を見事に演じ、アカデミー賞に何度もノミネートされるなど高い評価を得てきたホアキン。ジョーカー役で、今年のアカデミー賞主演男優賞の大本命と目されているが、受賞した際のスピーチでは、リバーにも感謝の言葉を述べるのだろうか? それとも先日のゴールデン・グローブ賞のスピーチのようにFワードを連呼し、オーストラリアの森林火災へのサポートや環境保護に関するスピーチを繰り広げるのか? 注目のアカデミー賞授賞式は現地時間2月9日に開催される。

堀川樹里(ライター)

堀川樹里(ライター)

6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴25年以上。

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最終更新:2020/01/15 19:52
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ホアキン、やっぱ修羅場くぐった目をしてるもん
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