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K-POP女性アイドルが同性人気を獲得した理由。「ガールクラッシュ」な姿勢とは?

2019/12/23 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 ここ数年のK-POPシーンを語る上で重要なキーワードとなっている“ガールクラッシュ(女性が憧れる女性)”。

 それは、アイドルの成功に必要不可欠とされてきた「キュート」や「コケティッシュ」といった要素を意識せずに、心の奥底にあるものをストレートに表現する、もしくは他人に媚びを売らない態度と言い換えることができよう。

 前回のコラムでは、デビュー当初からガールクラッシュを重要なコンセプトと捉えて活動してきた若手3組をセレクトしたが、第2回は韓国におけるガールクラッシュの美学を作った中堅グループを紹介する。

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MAMAMOO

MAMAMOO『Wind flower -Japanese ver.-』(ビクターエンタテインメント)
 2014年に登場したR&B系の4人組で、歌唱力という点においてはK-POPシーンの中でも1、2を争う。

 マライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンを思わせるパワフルなボーカルとクールなラップを駆使して多彩なサウンドに挑戦。歌詞の面でもたくましく生きる女性像を打ち出して幅広い世代を魅了している。

 韓国ではガールクラッシュの代表格と言われることが多いが、最初からそういうイメージを強調していたわけではない。

 このグループは歌唱力の高いフィインとファサを中心メンバーとして結成され、デビュー曲のサウンドはレトロソウル風ということからわかるように、当初は音楽関係者やマニアもうならせる実力派として売り出した。

 彼女たちが本格的なブレイクを迎えるのは2016年、「You’re the best」が大ヒットした頃である。この曲の歌詞の一節を紹介しよう。

<可愛いふり セクシーなふり 美人なふり/そんなことしなくても私を分かってくれるあなた>

 そしてもう1曲、同時期にリリースしたタイトルもずばりそのものの「Girl Crush」では、以下のように歌っている。

<私はしない 恋のかけ引き/自分の感情に正直なの>
<他の人の視線は意識しない/Cause I love myself>

 こうした内容や表現を見ると、MAMAMOOがガールクラッシュ的な視点を意識的に歌詞に取り入れていることがわかるだろう。

 彼女たちを育成し成功に導いた作曲家のキム・ドフンは2016年3月、雑誌のインタビューで<デビュー時は“ミュージシャンが作ったミュージシャン”というコンセプトだったが、今は“大衆が作ったミュージシャン”に路線を変えた>と語っている。

 MAMAMOOの場合、ファンとの密接な交流を通じて自分たちに求められているのがガールクラッシュだということに気付いたと思われる。

 前述の2曲は「自分たちはガールクラッシュだ」と高らかに宣言したものであり、従来のイメージから解放されて自然体で歌い踊る4人のメンバーは後進に多大な影響を与えた。

 以降も迷わずに同じ路線を突き進んだ彼女たちは、やがて音楽以外のことでもファンを引き付けるようになっていく。

 ファサが下着をわざと見せた空港ファッションで話題を集め、フィインはネット放送中に不適切な表現を使って炎上するなど、常に話題にこと欠かない。

 こうしたトピックスもメンバーの飾らない姿を伝えるものとして、大方のファンは好意的に見ているようだ。実際、多少の失言・失敗があっても、MAMAMOOの人気は衰えるどころか上昇する一方である。

 音楽性の高さに加えて、ガールクラッシュ的な魅力を身に付けたことで幅広い支持層を手に入れたMAMAMOO。これからもジャンルの幅を広げながら安定した活動を続けていくだろう。

MAMAMOO「HIP」

Red Velvet

Red Velvet『SAPPY』(avex trax)
 大手の音楽会社・SMエンターテインメントに所属。多くのトップスターを輩出した同社の豊富な成功例を集めて作ったようなグループであり、少女時代の華やかなビジュアル、f(x)の抽象的・幻想的なコンセプト、SHINeeなどに代表される難易度の高いダンスを組み合わせ、K-POPを次のステージに導いた。

 サウンドの面では、複数の外国人コンポーザーが参加した作品が多く、それゆえに無国籍な香りが漂っているのが特徴だ。しかも曲作りは常にアグレッシブで、彼女たちの大ヒットナンバー「Russian Roulette」(2016年)や「Red Flavor」(2017年)で発見した“成功の法則”を再び使うことを良しせず、次々と新しいサウンドで攻めていく。

 2019年6月に発表された「Zimzalabim」はその最たるもので、マーチングドラム風のリズムに暴力的なアナログシンセが絡んだかと思えば、突然アイドルポップに変身。そしてサビは「ジムサラビム」と音程のないフレーズを繰り返す。これほどアバンギャルドな展開はメジャーシーンではめったにお目にかかれない。

 Red Velvetのこうした音楽に対するストイックな姿勢が、ガールクラッシュ的なイメージにつながっているのは間違いない。

 しかしながら、与えられた役割をクールに演じているような感じだったメンバーたちも、キャリアを重ねていくうちに素の表情を見せはじめている。

<今は自分のことをよく理解できるようになった。嫌いだった食べ物は同じように嫌いで、好きなものは同じように好きで、性格も昔と変わらない。それでいいと思う。何かをもっとしようとすることもなく、だからといってあまりしないこともない、ありのままの自分でいる人になりたい>

 これは韓国の雑誌『HIGH CUT』(2019年12月発売号)に掲載されたRed Velvetの末っ子・イェリのコメントだ。

 リーダーのアイリーンは人見知りゆえに積極的に発言しないタイプだったが、昨年は彼女のコメントで騒動が起きた。ファンミーティングの席で、フェミニズム小説と呼ばれる『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだと語っただけで、一部のファンがネット上で「失望した」「フェミニスト宣言だ」と言いはじめ、中には彼女の写真や関連グッズを壊している画像を投稿する者もいたほど炎上してしまったのだ。

 もちろん擁護派のほうが圧倒的に多かったようだが、それほどまでに世の中の人たちが何をどう考えているのか注目する存在になったと言えよう。

Red Velvet「Zimzalabim」

 MAMAMOOとRed Velvet。音楽のスタイルが異なるせいか、今まで親密な交流がなかったように見える2組だが、実は2018年5月に興味深いコラボレーションがあった。MAMAMOOのラッパー・ムンビョルのソロ曲「SELFISH」にRed Velvetのスルギがゲストとして参加、その歌詞はガールクラッシュ的な魅力にあふれている。

<まだまだ多い私のWish/世の中の基準に合わせるには/勝手気ままな方が似合う 似合う/Sometime being selfish/誤解しないで 悪い意味じゃないから/もう少し素直になる>

 曲調はリゾート気分満載の爽やかなボサノバ。そこにムンビョルのキレのいいラップとスルギのたおやかな歌声が乗ると、リスナーは得も言われぬ幸福感に包まれる。これはふたりにしか出せないテイストだろう。2020年はこのような同じ志を持ったアーティストによる刺激的なコラボレーションがもっと増えることを期待したい。

 次回は、MAMAMOOとRed Velvetが登場する以前に、同性に憧れられる存在として絶大な支持を得たK-POPグループをいくつか紹介しようと思う。

 お楽しみに!

最終更新:2019/12/23 20:00
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