『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~

徘徊、幻覚、記憶障害……変わりゆく祖母と介護家族の葛藤を描いた『わたしのお婆ちゃん』

『わたしのお婆ちゃん 認知症の祖母との暮らし 』(講談社)

 東日本大震災で津波に実家を流され、同じ場所に家を再建するまでを描いた『ナガサレール イエタテール』(太田出版)が刊行されたのは、あの日から2年の月日が流れた2013年3月のことだった。震災を描いた作品としては異例とも言える朗らかさを湛えたこのマンガは各方面で話題を呼び、かく言う筆者も、心底悲しいことも大変だったこともたくさんあっただろうに「私はこのトーンで行くのだ」という作者、ニコ・ニコルソン先生の強い意志と、「家族の再生」を見事に描ききったその筆力に、深く感動させられたものだった。

 作中、元の場所に家を建て直したいと強く願ったのは作者の祖母=婆ルだった。そんな婆ルに認知症の症状が現れたのはまさに震災直後のこと。そこからさらに5年以上もの時が過ぎていく中で、婆ルの症状が進行する様を描いたのが『わたしのお婆ちゃん 認知症の祖母と私』(講談社)だ。

 現在、実家に暮らすのは祖母と母の2人。東京で1人働く作者は、当初は部外者として婆ルの介護に関わり始める。久しぶりの帰省、3人で食卓を囲む最中、突然母親がつぶやいた。「もうね お母さんと一緒に死のうかと思って」(P3)。婆ルの症状はちょっとした「ぼけ」であり、そのうち治るものと思い込んでいた作者は、母の言葉をなにかの冗談だと考えて軽く笑い飛ばすのだが、事態はずっと深刻だったのだ。

当事者が駆り立てられる介護への義務感

 徘徊。幻覚。記憶障害。排泄障害。ままならない意思疎通。突然怒りだす婆ル。実家で過ごすうち、自身の見込みが甘かったことを作者は思い知らされる。優しくてチャーミングだった婆ルはどこへいってしまったのだろう。読み進める中で、作者とともに私たちもまた、否応なしに介護の当事者となっていく。

 思えば癌や心臓病を、プロの力を借りずに家族の力で治そうなどとは誰も考えないのに、しかし認知症となると人は「私がやらなければ」という義務感に駆られてしまいがちだ。作者も、その母もそうだった。母は言う。「私はまともに家族も築けず出戻って 仕事も中途半端で何も成し遂げてないのに 親の1人ぐらい看取れなかったら 本当になにも無いじゃない」(P142)。「そんなことない」と娘は思うのだが、その場で反論することは叶わなかった。

 ページをめくるごとに「あなたならどうする?」と問いかけてくるようなマンガである。しかしそれは決して強迫的ではなく、ともに考えましょうという等身大の眼差しからのものだ。終盤、母娘が出したひとつの結論を、あなたはどう考えるだろうか。同じテーマを扱った逢坂みえこ先生の『母はハタチの夢を見る』(講談社)もぜひ併読を。

小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14架を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「FRaU」「SPUR」「ダ・ヴィンチ」「婦人画報」などで主に女子マンガに関して執筆。2017年12月12日OA『マツコの知らない世界』(TBS系)出演。

私のお婆ちゃんが知らない人になっていくのが苦しい

しぃちゃん

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