[連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第17回

自己愛、自意識にまみれた独りよがり女を描く『HER』

her.jpg
『HER』(祥伝社)

――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が”正しき女子まんが道”を指南します!

<今回紹介する女子まんが>
ヤマシタトモコ『HER』 全1巻
祥伝社/680円

 あれは7月だったでしょうか、本書を私は発売日に購入しました。そして読みました。「ふーん」と思い、本棚に差し込んで、そのままでした。あれから5カ月。それがまさか『このマンガがすごい!2011』(宝島社)のオンナ編第1位とは!

 ヤマシタトモコ先生はもともとBL畑で活躍していた方です。非 BLでブレイクしたきっかけは、昨年9月に刊行された『Love, Hate, Love.』(祥伝社)。28歳の処女と52歳の大学教授の恋を描いた本作は、作家の三浦しをんさんをはじめ各方面から絶賛され、また西炯子先生の『娚の一生』(小学館)と併せて「フケ専」というキーワードでも盛んに語られました。

 ところがどうにもこうにもピンと来ません。当時マンガ業界の周辺には「中村明日美子の次はヤマシタトモコ」的な雰囲気はありました。が、分からない。私の『HER』の第一印象は「幼い」でありました。描かれている女性はどれも幼く、しかしその幼さはおそらく、作者が意図しているものなのですが、それでもなお漂う「独りよがり」感に、強い違和感を覚えました。

 たとえば第1話の主人公は、おそらく服飾関連の企業に勤めるフリーターです。個性的なファッションで、目つきが鋭いため、男性からは敬遠されがち。顔も悪くない、ファッションセンスだっていい、なのになぜ私は選ばれないのか? そのミスマッチを作者は「靴」に例えます。そして最後に「裸足」が好きだと大声で言う後輩の男に、主人公は救われます。

 私はこの話が大嫌いなのですが、その原因としてまず第一に主人公が偉そうです。いわゆるアネゴ肌と言うのでしょうか。サバサバしたふりをして、実はいちばんねっとりしているという。「自然体」とか呼ばれた女たちがチヤホヤされた一時期に大量発生した類です。

 第二に「結局自分は悪くはない」というスタンスにイラつきます。それどころか「そんな自分がちょっと好き」です。この話は、その「ちょっと好き」を「好き」に格上げするための物語です。しかもそのきっかけが「少しだけ気になっていた男が自分ではなく、いかにも凡庸な女と付き合い始めたこと」だというのだからたまりません。

 そもそものスタート地点であった、「他人とはちょっと違う自分」は最後まで何ら変わることはないのです。こうした話の定石として、自分は自分で思うほどに特別ではなく、あなたには凡庸に見えるあの人にもスペシャルな何かはある……というエピソードがあって然るべきだと思うのですが、そこは徹頭徹尾偉そうな主人公。自分はなんら動くことなく、視点を少し変えただけで「私、OK!」ってのはあまりにもお手軽にすぎないか。最初から最後まで自分、自分、自分……ああ、まるで’90年代に流行った自意識過剰マンガを読まされているような気分です(そういえば画風もよしもとよしとも先生に似ています)! こんな女が近くにいたら鬱陶しいこと請け合い。絶対に友達にはなりたくないタイプ。たとえ自分が年上だったとしても、そんな強がりを決してかわいいとは思えない……のは私が幼いからでしょうか。

 『HER』に登場する女性たちは、第2話において象徴的なように成熟を志向しません。このままでいたい。女の子でいたい。その志向性は実は少女マンガ本来のものです。上っ面だけを差し替えた先祖帰り? マンガの幼児退行? ’90年代に多数デビューした岡崎京子先生のフォロアーたちと同じにおいを、私は『HER』から嗅ぎ取ります。

 問題はおそらく「自己愛」と「自己否定」のサジ加減なのです。エンタテインメントとして考えたとき、そのいずれかだけでは見苦しく、バランスが良すぎては物語にする意味がありません。その点において私が偏愛するオムニバス作品集は、よしながふみ先生の『愛すべき娘たち』(白泉社)、雁須磨子先生の『いばら・ら・ららばい』(講談社)、近藤ようこ先生の『見晴らしガ丘にて[完全版]』(青林工藝舎)の3冊です。『HER』を読んでいまいちピンと来なかった方、女性向けのマンガってこんなもんなの? と思った方は、ぜひこの3冊を読んでください。女子マンガの別の地平が、きっと見えてくるはずです。

 私はヤマシタ先生はまだ発展途上の作家さんだと考えています。『このマンガがすごい!』第2位の『ドントクライ、ガール(はあと)』(リブレ出版)のような秀逸な笑いのセンスもあり、『BUTTER!!!』(講談社)のようなグルーヴ感も描ける方です。絶対にもっと面白い作品が生み出せる作家なのに……いろいろと納得の行かない年末のランキングでありました。

小田真琴(おだ・まこと)
1977年生まれ。少女マンガ(特に『ガラスの仮面』)をこよなく愛する32歳。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割が少女マンガで埋め尽くされている(しかも作家名50音順に並べられている)。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。

『HER (Feelコミックス) [単行本]』

自己否定する目線は必要!

amazon_associate_logo.jpg

【この記事を読んだ人はこんな記事も読んでます】
現代と江戸のシャッフル? ギャップから笑いを生み出す『ちょっと江戸まで』
「笑い」という推進力を持つ”ネオ少女漫画”『海月姫』
“幸せウツ”に怯える女子に、新たな王子様像を示した『娚の一生』

今、あなたにオススメ



サイゾーウーマンのSNS

  • 「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

関連リンク