[連載]まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」第16回

現代と江戸のシャッフル? ギャップから笑いを生み出す『ちょっと江戸まで』

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『ちょっと江戸まで』1巻/白泉社

――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が”正しき女子まんが道”を指南します!

<今回紹介する女子まんが>
津田雅美『ちょっと江戸まで』1~4巻(以下続刊)
白泉社/各420円

 少女マンガは時として受験勉強に役立ちます。『日出処の天子』(山岸凉子、白泉社)を読んで飛鳥時代を学び、『あさきゆめみし』(大和和紀、講談社)で源氏物語を学び、『ベルサイユのばら』(池田理代子、集英社)でフランス革命を学び、『エロイカより愛をこめて』(青池保子、秋田書店)で東西冷戦を学び……嗚呼、きりがありません。そうして私は受験勉強を乗り切りました。

 そんな中にあって、江戸時代はなぜか手薄な時代であります。もちろん川原泉『殿様は空のお城に住んでいる』(白泉社、『中国の壺』所収)や山岸凉子『神かくし』(秋田書店)、松苗あけみ『純情クレイジーフルーツ 番外編・大奥純情絵巻』(集英社・絶版)など印象深い短・中編はあるのですが、前出の大作群に比べると小粒感は否めません。

 ところがここ数年、江戸時代を舞台にした少女マンガが立て続けに登場いたしました。ひとつは、ご存知よしながふみ先生の大ヒット作『大奥』(白泉社)。そしてもうひとつが『彼氏彼女の事情』で知られる、津田雅美先生の新作『ちょっと江戸まで』であります。

 舞台はもちろん江戸時代……ではあるのですが、本作はちょっとしたパラレルワールドになっています。ここは「もしも江戸時代が21世紀まで続いていたとしたら」という設定のもとに描かれた世界。だから政治システムやファッションは江戸時代のままなのですが、「七拾壱(せぶんいれぶん)」というコンビニもあるし、「羅羅」という少女マンガ誌もあるし、「黒猫大和」という宅配便もあるし、女学生は「まっく」でバイトしています。鎖国はどうなったんだ! といった細かい突っ込みはさておき……。

 主人公は江戸町奉行を務める旗本・桜井貴晄(きおう)の妹・そうび。稀代のチョイ悪セクスィー旗本であった貴晄の父の隠し子として生まれ、身寄りを亡くして箱根の山奥で育てられていたところを、貴晄によって江戸に連れ出されてきました。そしていま1人、御三家である水戸家の跡継ぎ・廸聖(みちさと)。2人は名門・昌平坂中学で同級生となって出会うのでありました。

 本作で津田先生はさまざまな「ギャップ」を駆使します。21世紀「なのに」江戸時代、という設定からしてギャップ感あふれますが、さらにそうびは女の子「なのに」亡き父に似て男前でセクスィーです。廸聖に至ってはお堅い御三家の世嗣「なのに」女装好きのオトメンで(しかもかわいい)、自らを「ミッシェル」と称する倒錯ぶり。みなで「万惣」のホットケーキを食べに行ったり、廸聖はお騒がせセレブとしてスポーツ紙の格好のネタになったりと、性別や時代はさまざまにシャッフルされ、数多くの笑いを生み出します。

 よしなが先生は『大奥』でジェンダーを入れ替えることによって、史実とは異なる壮大なドラマを描き出しました。本作にはそんな壮大な物語こそありませんが、たくさんの笑いと、そして痺れる名台詞があります。たとえば廸聖は、不幸な生い立ちゆえに盗賊となった男・シュロにこう言います。

「おぬしの目にわしはさぞ恵まれ放題に見えるのであろうのう/じゃがこの世にそんなことが許される人間なんて本当におるかのう/少なくともわしは会ったことがない/皆自分に課せられた『宿題』を解いておるようなもの/わしがこのように生まれたのはわしの『宿題』/おぬしがそう生まれたのはおぬしの『宿題』/不幸自慢はやめて自分の『宿題』と向かい合え」

 いつもは軽薄「なのに」かっこいい……!

 笑いの中にさらりと「大切なこと」を織り込むテクニックは、さすが津田先生。極上のエンタテインメントでありながら、江戸時代の政治システムや身分制度に関するコラムも充実していて、受験勉強に役立つこと請け合い。ただし本作は飽くまでもフィクション。受験生のみなさんにおかれましては、「聖徳太子は超能力者でゲイ」と言った『日出処の天子』的勘違いにはどうぞご注意を。

小田真琴(おだ・まこと)
1977年生まれ。少女マンガ(特に『ガラスの仮面』)をこよなく愛する32歳。自宅の6畳間にはIKEAで購入した本棚14棹が所狭しと並び、その8割が少女マンガで埋め尽くされている(しかも作家名50音順に並べられている)。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。

『ちょっと江戸まで 1 』

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