その他

SDGsは環境問題だけではない 遅れをとる日本のジェンダー平等

2021/06/25 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

 2021年、SDGs(Sustainable Development Goal)は6周年を迎える。

 テレビ番組やファッション誌で特集が組まれるなど、SDGsの認知度は高まっているものの、17の目標のうち日本の取り組みが不十分だとされている分野も存在する。その一つが「ジェンダー平等」だ。

 ここ数年、日本でもジェンダー平等への“意識”は高まっているように感じるが、なぜ“取り組み”は不十分なのか。現状の問題点や今後の改善策について、SDGs市民社会ネットワーク理事の長島美紀さんに話を聞いた。

長島美紀(ながしま みき)
SDGs市民社会ネットワーク理事 認定NPO法人Malaria No More Japan理事、合同会社ながしま笑会代表、政治学博士。 大学で研究活動の傍らNGOに関わったのをきっかけに、これまでさまざまなNGOや財団の広報・キャンペーン業務を経験。08年より20年まで早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターではコーディネーターとしてマラソン元日本代表の瀬古利彦氏のチャリティ駅伝大会の運営に10年以上にわたり従事。12年より理事を務める認定NPO法人Malaria No More Japanでは「ZEROマラリア2030キャンペーン」を運営している。

日本のSDGsの現状
——まず、SDGsの17の目標のうち、日本ではどの目標に取り組んでいる企業が多いでしょうか。

長島美紀さん(以下、長島):外務省が運営している「Japan SDGs Action Platform」では、企業や団体でのSDGsの取り組みが紹介されており、数としては「⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「⑫つくる責任つかう責任」「⑬気候変動に具体的な対策を」「⑰パートナーシップで目標を達成しよう」が多いと感じます。つまり傾向としては、環境問題、消費、再生エネルギーに取り組んでいる企業・団体が多い印象です。

 一方、国際レポートである「Sustainable Development Report(持続可能な開発報告書)2021」によると、日本が遅れをとっているのは、「⑤ジェンダー平等を達成しよう」「⑬気候変動に具体的な対策を」「⑭海の豊かさを守ろう」「⑮陸の豊かさも守ろう」「⑰パートナーシップで目標を達成しよう」の5つです。

 少し前まで、日本で環境問題への取り組みというと、木を植えるとか、ゴミ拾いをするといったものが主流でした。それらも大切なことではあるものの、地球温暖化や生態系の変容といった環境全体の問題に意識が向くようになったのは最近です。環境問題に取り組んでいる企業は多いにもかかわらず、遅れをとっているのはそこに理由があると考えられます。

——SDGsの一環として環境問題を押し出す企業は多い一方で、「ジェンダー平等」については言及しない企業が多いように感じます。

長島:環境問題やエネルギー問題は「温暖化」「脱炭素」と言われるように、「どう解決するか」がわかりやすいと思うのですが、ジェンダーについては、具体的な解決策がわかりにくい部分があるからかもしれません。

 一方で、社会全体のジェンダー平等への“関心”は高まっているように感じます。と言うのも、日本政府は2019年の年末に「SDGsアクションプラン2021」を策定しているのですが、そのパブリックコメントではジェンダー関連の要望が多く見られました。

 また、「人権問題」の枠組みで見ると、消費者のサプライチェーンへの意識の高まりも見られており、モノづくりの現場で搾取がされていないか、ということにも注目が集まっています。つまり、「意識は高まっているけれども、取り組みは遅れている」のが現状です。

 一方で、高齢者や障害者、少数民族、海外にルーツにある人など、社会的に弱い立場の人を「~できない人」と、弱者として切り捨ててしまう風潮の強さも感じます。

 今は何不自由なく生きている人でも、怪我や病気でいつ同じような状況になるかはわからないのですが……。

 私自身、怪我をして松葉杖生活をしたことがあります。最初はタクシーに乗らざるを得ない生活でした。というのも、公共交通機関が誰にでも使いやすい環境ではないためです。エレベーターがなかったり、段差が多かったり……電車に乗れるようになってからは、優先席で寝たふりをされたこともありました。

 なぜそうした状態なのか考えたのですが、「見えない問題」にしがちだからではないでしょうか。

 車椅子を利用する方は存在しますが、怪我した当初の私のように、利便性が低ければ公共交通機関を使いません。そのため、外に出る機会が減り、見えない存在になっているのです。いざ見えたときには、社会の許容度が低いため、マイノリティにとっては生きづらい環境です。社会的に弱い立場の人への想像力を育む必要があると感じています。

——ジェンダー平等が前進しない理由として、環境やエネルギー問題に取り組んだ方が企業の利益に繋がりやすいという面もあるのでしょうか。

長島:そう捉えられやすいのですが、米マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(2015年)による調査では、全ての女性が男性と同じ条件で同じように働いた場合、世界のGDPは30%近く上がると言われています。EUでも女性の管理職登用を積極的に進めており、経済効果は高いと考えられています。短期的には、環境やエネルギー問題の方が経済的インパクトが大きいかもしれませんが、長い目で見ると、ジェンダー平等に取り組むことも企業や組織に有益と言えるでしょう。

——「ジェンダー平等やダイバーシティが経済的にも有効」とは数年前から言われていますが、その認識が日本にはあまり広まっていないように感じます。

長島:根本的な働き方の問題が改善されていないからではないでしょうか。先日、改正育児・介護休業法が成立し、男性版産休の制度ができました。一方で、「産休・育休が取得できるのはいいけれども、そもそもの働き方に問題がある」といった指摘もあります。

 男性が育児に参加するためには、残業なしで帰宅し、子どもに向き合える時間が必要です。また、2018年の「雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得日数は2週間未満が7割を超えているのですが、もちろん2週間で育児が終わるわけではありません。ここ数年で働き方の見直しはされてきているものの、生産性を高め、時間内に仕事を終わらせることが、日本全体ではまだできていないように感じます。育休と同時に働き方そのものへの議論も進める必要があります。

 また、そもそもなぜ女性の社会進出が難しいかというと、日本の働き方が長時間労働・残業が前提となっていて、フルタイム労働を諦めざるをえない環境だからです。そして、子育ては母親だけで担うものではないのに、なぜ母親が中心になるかというと、根本には男女の賃金格差や働き方の違いがあります。女性の方が非正規で働いている人が多く、非正規の方が賃金は低いですよね。家庭内の経済的コストを考えると、賃金の低い方が無償労働である家事・育児を担った方が効率が良い、そして、男性がずっと働き続けたほうがいいとなってしまいます。

——「イクメン」という言葉が流行した頃には、既に働き方の問題の指摘があったように記憶しています。つまり約10年前からそうした課題が改善されていないですが、今後、日本企業は働き方を改善していけるのでしょうか。

長島:新型コロナの影響でリモートワークが普及したことにより、状況は変わってきたと感じます。育児や介護のために、会社に通勤して働くことは難しくとも、在宅勤務が可能になることで働ける人が増えました。コロナが収束した後も、働き方の多様性を維持していけるかがポイントだと思います。

なぜ政治家や管理職になりたい女性は少ないのか
——では、国内企業や海外でジェンダー平等に取り組んでいる企業は、どのような取り組みをしていますか。

長島:働き方の多様化が見られます。小さなお子さんがいる人の時短勤務や、産休・育休後の職場復帰サポート、契約社員として働くなど、ライフスタイルに合わせた様々な働き方が推進されるようになりました。

 一方で多様な働き方を認めるだけでは、「マネジメント職に就きたい」「昇進したい」といった希望は叶えにくく、課題が残っています。海外ですと、EU加盟国では、2010年代から女性のマネジメント職に関し力を入れていて、役員割合を決めたり、国によっては罰則規定を設けていたりもしています。

 世界経済フォーラムが公表している2021年の「ジェンダーギャップ指数」によると、日本は156カ国中120位で、特に政治と経済の分野で遅れが目立ちます。

 日本でも女性議員の割合を増やすよう、2018年に施行された「候補者男女均等法」において、各政党に努力義務が課されているのですが、国によっては法律で定められている場合もあります。女性役員や女性候補者を増やすことで助成金がもらえるなど、インセンティブを付与することも必要かもしれません。

 また、クォーター制(会社役員や議員にあらかじめ女性の枠を設け起用すること)の話になると、日本では「議員や役員になりたい女性が少ないのだからいらない」といった意見が出るのですが、そもそも女性だけが立候補しにくい・なりたいと思えない環境が問題ですよね。政治においては、当事者として有権者の声を届けるという意味でも、同じ女性だからわかることもあります。女性が議員や役員になりたいと思えるような後押しも必要です。

SDGsは一つの目標を達成すればいいものではない
——SDGs市民社会ネットワークとしては、遅れをとっている分野に対してどのようなアプローチを行っているのでしょうか。

長島:SDGsでは「だれひとり取り残さない」ことが掲げられています。その観点から、女性、障害のある人、海外にルーツのある人など、声を届けにくい人たちの当事者団体と連携しながら、日本政府に声を届ける政策提言活動を行っています。

 SDGsは17のゴールで一つです。日本が遅れをとっている5つの目標について、達成されないゴールがあることで他のゴールにどう影響するか、映像を作成して伝える活動も行っています。

——17のゴール及び169のターゲットを見ると、正直、スケールが大きく感じてしまうのですが、取り組むと決めた目標以外については、どのような姿勢であるべきでしょうか。また、特にジェンダー分野で個人で何かできることはありますか。

長島:無理やり全部取り組もうとすると負担が大きくなってしまいます。なので、別々のゴールを紐づける考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。

 例えば、気候変動は、ここ数年の日本を見ていてもわかるように「想定外の災害」を招きます。そうすると、被災者は避難所に行く必要が出てきますが、避難所では男性がリーダーとなることが多く、女性の意見が反映されにくいがゆえに、生理用品のような女性が必要としている物資が届かないといった問題が生じたこともありました。

 また、公正な教育の点でも理系に進む女子や、大学院に進学する女性が少ないことについて、「なぜなのか」という視点を持つことで、教育とジェンダー平等のゴールの繋がりに気付くことができます。

 個人で出来ることとしては、「私もできる」と自信をもてるかどうかだと思います。ジェンダーギャップ指数でも示されているように、日本では、リーダーやマネジメント職に就く女性が少ない・就きにくい状況があります。そのため「自分にはリーダーはできない」「自分にはマネジメント能力がない」と考える女性も少なくないのですが、本来、同じような経験をしていたら性別関係なく誰がやってもいいはずです。

 ただ、ジェンダーギャップ指数では、女性の管理職割合が見られていますが、必ずしも管理職になる必要はなく、仕事・家庭・地域など自分が属するコミュニティの中で、自分が置かれている状況に対し、どう責任を持ってポジティブに関われるか、チームに対する意識の変革が大事だと思います。

 そのために、「自分の得意なこと・苦手なこと」について考えてみてください。小さなことでもかまわないので、「自分の得意なこと」を知っていることで自信につながります。また、自分の得意・不得意の線引きができると、チームで協力が必要なときに、自分ができることを伝えられますし、できないことを無理に抱え込むこともなくなります。

 今はボランティアやインターンシップで、やってみたいことが自分に合うか試すこともできます。就職してから「全然向いてなかった」と気付くと、合わないながらも続けるのか、転職するのか……とその後の選択のハードルが高くなってしまいますが、ボランティアやインターンシップを通じて自分の苦手に気付く経験ができることは、決してネガティブなことではないですよね。

——最後に、SDGsで日本が遅れている分野の目標について、今後どのような取り組みが必要でしょうか。

長島:まず、もっとデータが必要だと考えています。国としてSDGsに関するデータは出しているものの、抜け落ちている分野があったり、包括的なデータではないんですね。データを取り分析し、それをもとに政策に反映していくプロセスが大事なので、何が本当に足りていないのか、どんな対策が必要なのかを明確にする必要があります。 

 ただ、データで全ての声が拾いきれるわけではなく、データから抜け落ちた声ほど、支援を求めている人である可能性があります。例えば、アンケート調査をネット上で行ったとすると、ネットにアクセスできないほど困窮している人の声が届きにくいといった問題が生じます。

 今日出たお話の中でいうと、ジェンダー平等であったらLGBTQ当事者の声を聴いているかとか、男性の産休・育休に関してだったら本当に育休を取ろうとしている男性の声が反映されているかとか、今後、当事者や関係者の声を聴くプロセスはより重要になると思います。

最終更新:2021/06/25 20:00
アクセスランキング