『おちょやん』解説

『おちょやん』灯子は非常に「したたか」!? 実在の九重京子“目線”で見る、史実の不倫妊娠劇

2021/04/26 12:30
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

第一印象は「着物、袴で薄汚れた人」

 大阪だけでなく、東京でも歌謡ショーの舞台をこなしたそうで、若き日の森光子とも共演したそうです。森光子の歌といえば……、晩年の彼女が、かぼそい声、少々あやしい音程、うつろな瞳で歌っていたのを思い出す読者もいるかもしれません。本当に歌手でもあった頃の森光子を知るのが、九重京子だったという話です。

 少々脱線しましたが、渋谷天外と九重が出会ったのは偶然でした。OSKのキャリアの延長では九重の将来は行き詰まったと見た松竹芸能社長の意向で、新しい路線が模索され、松竹新喜劇の仕事が彼女に割り振られたようです。

 ドラマでは九重をモデルにした朝比奈灯子(小西はるさん)は、最初から松竹新喜劇の大ファンでしたが、史実の九重は新喜劇女優になることがイヤだったようで、社長から今後の方針と渋谷を紹介されたときも、ほとんど上の空でした。

 後に夫となる渋谷天外の第一印象も、「着物、袴で薄汚れた人」というだけでした。実際、渋谷天外は風呂嫌いで有名で、入浴は1カ月に数回程度だったそうです。

 それでも九重の入団は決まりました。そしてOSK出身の“お嬢様女優”の九重を、新喜劇のメンバーたち(とくに男性陣)は大歓迎です。ある男性メンバーは、「(九重は)やせ型で、きれいで、はっきり言って、僕ら好きだったですね。お酒も強かった」などと当時を振り返っています。

 本人も新喜劇の舞台をこなすほどに、渋谷天外の舞台に立つ喜びを感じるようになり、「入団して一年、なんとか皆さんについていけるようになり」、渋谷たち幹部俳優から、「食事にも連れて」いってもらうことが増え、劇団生活を楽しみはじめます。渋谷に意識されたのもこの頃でしょう。

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