『おちょやん』解説

朝ドラ『おちょやん』倉悠貴演じるヨシヲは腐りきったヤクザ? 「弟」の名を隠し続けた浪花千栄子の意思

2021/03/13 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

職人や漁師がイレズミを入れていた?

 「鶴亀家庭劇」のモデルである「松竹家庭劇」が、大阪・道頓堀に誕生したのは昭和3(1928)年の話。昭和初期、「イレズミ=ヤクザ」という公式化された意味は、現代ほど強くはなかったかもしれません。ドラマが史実を反映する必要はないのですが、念のため。

 鮮やかなイレズミの技術が完成したのは、江戸時代以降の話です。ちなみに江戸当時、イレズミ=ヤクザものという公式はまったく存在しませんでした。意外かもしれませんが当時、イレズミは下着の代わりでもありましたからね。

 衣服が非常に高価だったのが江戸時代ですから、水で衣服が濡れる漁師や、汗で着物を汚しがちな飛脚などは、フンドシ一丁で仕事をしていました。「裸を見せるのが恥ずかしいなら、イレズミでも入れればいいじゃない」的な発想で、裸の仕事が多い職業の人ほど、立派なイレズミが入っているケースが多かったようです。

 あとは職人さんなど、「この道一本でオレは食っていくんだ!」という意地を示したい場合ですね。そこから転じて、「○○命」的に好きな異性の名前を腕に彫り込むケースが、男女ともにありました。

 逆に、江戸時代の武士たちはイレズミを入れることを嫌いました。「この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねえぜ!」と裁きの場で、もろ肌脱ぎになる時代劇の『遠山の金さん』は有名ですが、そのモデルである奉行の遠山金四郎景元は、むしろ「夏でも絶対に肌を見せたがらない人」として有名で、それが「イレズミが入ってるから、それを隠したいんじゃない?」といううわさを生んだ「だけ」なのです。

 また、正義のアウトローとして生きる「任侠」の人たちは、イレズミをむしろ喜んで入れたりするわけですが、悪事中心の「ヤクザ」になればなるほど、イレズミは嫌ったといいますね。そもそも「イレズミ=犯罪がバレて捕まったバカ者」という発想も根強いからでしょう。

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