コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

父親が老人ホームの女性スタッフにセクハラ!? 「同意しないなら退去」担当者が提示した条件

2020/12/27 18:00
坂口鈴香(ライター)

 しかし、返答に窮する中村さんに追い打ちをかけるように、ホームの担当者から「クスリを飲ませることに同意していただけなければ、ホームを退去してもらうことになります」と告げられたのだ。

「しかも、退去して他施設を探しても、おそらく今の父を受け入れてくれるような施設はないだろうと言われました。そのうえ、もし精神病院に入れても、今より面会できる回数は減るし、クスリももっと強いものになるだろうと言うんです」

 突然、“究極の選択”を迫られて、思考がまとまらなくなってしまったと中村さんは力を落とす。

「その2択だと、クスリを使うことしか選べませんでした。それでよかったのか、ずっとモヤモヤしています」

 中村さんの困惑は大きい。

 ホームからの電話を切ったあと冷静になって考えてみると、ホームの言うことが本当なのかもわからないし、クスリを飲ませるために脅しをかけているようにも思えて、憤りも覚える。

「父を自宅で介護していたときのケアマネに相談すると、クスリという対症療法ではなく、環境を変えれば改善するかもしれないと言われました。それに今のホームは他の入居者とのコミュニケーションが足りないのではないかともいうんです。確かに父が前にいたホームでは、アクティビティに参加したりもしていたし、スタッフも今よりはよくかかわってくれていました。そうやって父をうまいこと持ち上げてくれていたせいか、毎日楽しそうにしていたんです。今のホームは以前のホームより月額料金が10万円ほど安いんですが、こうしたかかわりの少なさが料金の差なのかなと思ったりします」

 中村さんはそう言うが、今のホームの月額利用料は30万円もするのだ。スタッフのかかわりが少ないとあきらめるような料金ではない。

「よく親を施設に入れたとたん、一気に認知症が進んだという話を聞きますが、こういうことだったんだと腑に落ちました」

 今のホームも、決して妥協して選んだものではない。両親が一緒にいられる残り少ない時間を悔いなく過ごせるよう最善を尽くしたつもりだっただけに、中村さんの落胆は大きい。

 ホームへの不信感が募った中村さんは、三度(みたび)父親のホーム探しをしようかと考えてはじめている。

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/12/28 13:44
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