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大人こそ性教育の“答え合わせ”をしよう 性教育YouTuberシオリーヌさんインタビュー

2020/01/05 20:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

「安全日には避妊しなくても妊娠しない」
「射精するときだけコンドームをつければ大丈夫」
「オーラルセックスでは性感染症対策は必要ない」

 これらは全て、誤った性の知識です。

 性についてしっかり学ぶ機会がないまま大人になったという人は、実は少なくないのではないでしょうか。

 大人だからこそ! 性の知識をもう一度、学び直してみませんか?

 助産師で性教育YouTuberのシオリーヌさんは、「コンドームの正しいつけ方」「正しい避妊法」「予定外の妊娠のときどうしたらいい?」などの性の知識を老若男女に伝えるべく、YouTubeで動画配信を行っています。

 シオリーヌさんに、性について抱きがちな誤解や、大人こそ性教育を学び直すことが大切な理由について聞きました。

シオリーヌ(大貫 詩織)/助産師・性教育YouTuber
総合病院産婦人科にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベントの講師を務める。性を学ぶオンラインサロン「yottoko labo」オーナー。 YouTuberとして性を学べる動画をYouTube配信中 !

まず、自分の体の仕組みを知らない

——シオリーヌさんが性教育YouTuberとして活動を始めたきっかけについて教えてください。

シオリーヌ:大学を卒業後、助産師として働いていたのですが、病院で妊婦さん達とお話していると、妊娠の仕組みや避妊法の活用など具体的なスキルを知らない方が多いとわかったんです。
 「妊娠週数って前回の生理から数え始めるんですね」「出産予定日って40週0日のことなんですね」「赤ちゃんって予定日にピッタリ生まれるものだと思ってました」と言うお母さんも多かったです。
 なかには、予期しないタイミングで妊娠された方や、妊娠という出来事に気持ちがついていけない方もいます。だから、妊娠する前に伝えなくてはいけないことがたくさんあると思いました。
 妊娠や出産はもちろん、セックスや避妊の方法を自分の力でしっかりと考えて選択できるようにするためには、中高生くらいの段階で知識を持っている必要があるんじゃないでしょうか。
 それで私にできることはなんだろうと考え、助産師3年目のときにネットで性教育にまつわる発信を初めて、
現在のような活動に広がっていきました。

——男女を問わず、セックスや避妊、生理などの知識が不確かなまま大人になった人は多いのではないかと感じます。

シオリーヌ:今の日本の不十分な性教育を受けてきたら、多くの人がそうなると思います。中高生くらいから、友達からの話やメディアで得た知識を一生懸命組み合わせて自分なりの答えを導き出すけど、それが正しいか間違っているのか教えてくれる人もいなくて、大人になってからも漠然とした知識の中、なんとなくセックスをこなしている人も多いですよね。

――それぞれが持っている性の知識も全然違いますよね。“答え合わせ”が必要だなと思います。

シオリーヌ:私の動画へのコメントでも「これを学校で教えてほしかったです」「ずっと勘違いしてました」というコメントをいただくこともよくあるんです。
 また、中高生など若い世代の間には、大人たちからセックスにまつわる知識を曖昧にしか教えてもらえないことへの不満のようなものがあると感じています。
 ネットや雑誌などでやんわりとした情報は入手できても、そこにある情報って玉石混交です。正誤の振り分けを自分でするのは難しいですし、教えてくれる大人も周りにいないので、子どもたちも戸惑っていると思います。大人としてはこうした状況を放ってはおけないですし、積極的に口を開いていかないといけないなと。

どんな性教育を受けられるかは「運ゲー」
——日本の性教育は未だに不十分で、今の小中高生たちもしっかりとした性教育を受けられていないのでしょうか。

シオリーヌ:学校で行われる教育は文部科学省が作っている学習指導要領に基づいて行われるのですが、中学校の指導要領には「妊娠・出産に関しては受精から出産に関しては扱うけれども、妊娠に至るまでの経過は取り扱わないものとする」という「はどめ規定」というものがあるんです。つまり、具体的なセックスの話はしてはいけないので、保健の教科書にも精子と卵子がどうやって出会うかという解説はほとんど載っていないんです。
 なので、たとえば「性感染症は“性的接触”によって感染します」という説明はあっても、性的接触の定義はどこにも書かれていないんですね。それだと、なにが性的接触に当たるのか、オーラルセックスやアナルセックス、キスによっても感染するのかどうか、わかりませんよね。

——解釈が子どもたちに委ねられているのですね。

シオリーヌ:ただし、性教育で取り扱う範囲はある程度、学校側の裁量に任せられているんです。 なので、熱意のある先生が子どもたちのためにより具体的な話をしている学校もたくさんあります。たとえば私と同世代の友人にも、公立高校で性教育の一貫としてコンドームを装着する練習をしたよという人もいます。
 とはいえ、どの学校に通うかによってじゅうぶんな性教育が受けられるかどうかが左右されてしまうのは、子ども達にとってはものすごいリスクですよね。

——中高の時にどんな性教育を受けるかで、その後の人生が変わる部分もあるのでは。

シオリーヌ:公立学校の先生は転勤があるので、熱意のある先生が異動になった瞬間に性教育の授業のレベルが下がってしまうこともよくあります。子ども達が必要な知識を平等に得るためには、学習指導要領自体がもっと発展的な内容に変わる必要があるだろうと思いますね。

性について話すこと≠自分のプライベートをオープンにすること
——シオリーヌさんが子どもたちに性教育の話をすると、どんな反応が返ってきますか?

シオリーヌ:未就学から小学校低学年あたりまでは、「赤ちゃんはどうやってできるんだろう」とか「どうしておちんちんがある人とない人がいるの?」とか、純粋な好奇心が強いので、セックスの仕組みを淡々と説明すると「へー!」という感じで終わります。教室内で照れやからかいの“笑い”が起き始めるのは、小学校高学年から中学生くらいまでという印象です。

——子どもが純粋な興味や疑問を持った段階であれば、性について「恥ずかしいこと」「いけないこと」というイメージにつなげずに伝えられるのですね。

シオリーヌ:普通に喋ることがすごく大事だと思うんです。大人の方が、性へのタブー視が強い場合も多いですよね。たとえばお子さんから「赤ちゃんってどうやってできるの?」って聞かれたときに身構えてしまう方もいると思いますが、自分はなぜ性の話題にギクッとしてしまうのか、そのタブー視はどこからやってきたのか、ぜひその価値観と向き合ってください。

――子どもから性への純粋な質問を受けてギクッとしてしまった時、どう答えればよいのでしょうか。

シオリーヌ:お子さんから「お父さんとお母さんはどうやって子どもをつくったの?」「セックスってどういう風にやるの?」と聞かれると、子どもに対して自分のプライベートをオープンにしなきゃいけないような気がして抵抗があるというお話をよく聞きます。親自身がじゅうぶんな性教育を受けてきてなかったので、性に関する話を「一般教養」ではなく「エッチなもの」とみなしていて慌ててしまう親御さんも多いんです。
 もし子どもに聞かれた時は、「精子と卵子は、セックスをする時に男の子についてるおちんちんから精子が出てきて、それを膣を通して子宮という所に届くんだよ」という仕組みを淡々と説明してみてください。
 もしその時、「じゃあ、お父さんとお母さんはどういう時にセックスするの?」と聞かれたら、「それはお母さんのプライベートの話なので言いたくありません~!」「お母さんとお父さんの大事なことだから、二人でしか話さないことなんだよ」って濁してもいいんです。
 親が自分自身のプライバシーを大切にしている姿をお子さんに見せることで子どもにも「あなたのプライベートを大切してほしい」と態度で伝えることができますよね。
 もちろん、「もし誰かに体を触られて嫌な思いをした時は相談してほしい」と伝えることも大切です。でも、それは親御さんのプライベートに踏み込むような話では決してないんです。

——プライベートなことへの質問に必ずしも答える必要はない、答えたくないことには「NO」と言ってもいいと伝えることにもなりますよね。

シオリーヌ:私も小中学校に講演に行くと、子どもたちから「先生は結婚してるんですか?」とか「彼氏はいるんですか?」とか、いろいろ聞かれるんです。そんな時、私はいつも「言いたくありません。初対面でそういうことを聞くのは失礼ですよ~!」って明るく返答しているのですが、その線引きはあっていいと思います。

——教養について話すことと、自分のプライベートをオープンにすることは違う。それがはっきり見えていれば、性教育について話しやすくなる人も増える気がします。

シオリーヌ: 私は動画でよく「性の話をもっと気軽に、オープンに!」と呼び掛けているのですが、それは「みんなが性に対して積極的になることを推奨している」わけではありません。
 私がオープンにしたいのは性について学びたいという気持ちをオープンできて、実際にオープンに学べ環境を作ること。そして、性について何か嫌なことがあったら本人が「NO」をオープンに言えるような社会にしたいんです。もちろん、性的なことに興味がない人だっていますし、一人ひとりが性に対する自己決定権を持って、 「YES」 も「NO」全てオープンに話せてお互いに尊重し合える社会になったらいいなと。そのために、性の話題にかかっているモヤモヤをとっぱらいたいです。

——性の話をオープンにすることの難しさというと、今年11月には大丸梅田店の新フロアで行われた、生理中の女性従業員が「生理バッジ」をつけるという取り組みがありました。

シオリーヌ:私は、「生理バッジ」自体の存在はどちらでも良いと思いました。たとえば妊婦さんもですが、マタニティマークをつけることで嫌がらせをされるのが怖いという人もいますし、マタニティマークをつけていることで配慮してもらえるメリットの方が大きいと考える人もいますので、目印があることで生きやすい人と生きにくくなる人と、どちらもいると思うんです。生理バッジも、つける本人がポジティブになれると思うならつければいいし、オープンにしたくないという人はつけなくてもいい。その選択肢は人によって異なりますよね。
 ただし、それが本当に本人の自由な選択かどうかというのが大事なポイントだと思うんです。取り組み自体はよいものでも、生理バッジをつけることでお客さんから理不尽なセクハラに合わないような環境が作られているか、そういうことが起きた時にきちんと守ってくれる体制があるのか、もしくはつけない選択をした人に対して圧をかけてくる上司がいないのかなど、いろんな問題があると思います。そうした諸問題がクリアになる土壌がまだ今の日本にできていないのなら、引き下げるという選択もありなのかなと騒動を眺めていました。

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——たとえば生理に対して「エッチなもの」という誤解もあると思いますが、それはこれまで生理の話がタブー視されてきた現実があるのだと思います。どうしたらタブー視が払拭できるでしょうか。

シオリーヌ:まだまだ性にまつわるタブー視は根強いと感じますが、ここ数年で、少しずつですが変化は起きていると思います。たとえば私のような性教育YouTuberを含め、YouTubeやTwitterで教養としての性について発信する人は増えています。
 ただ、私はこれを一過性の“性教育ブーム”で終わらせたくないです。性の話について誰もが「一般教養」の範囲として興味や関心を持って、筋トレやダイエットのことのように世間話ができるようにしたいですね。

※後編につづく

最終更新:2020/01/05 20:00
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