“ジェンダー”を考える2019年映画レビュー

【2019年映画レビュー】フェミニスト視点で「オススメ」「イマイチ」作品は? 北村紗衣氏に聞く

2019/12/29 16:30
北村紗衣(きたむら・さえ)

ジェンダー意識が低いイマイチ作品

『ROMA/ローマ』……女同士の関係性を美化しすぎ! “欠点”が映像美で隠されている

 一方、ジェンダーの観点からしてけっこうイマイチだったと思うのは、アルフォンソ・クアロン監督の『ROMA/ローマ』だ。Netflixで2018年に配信がスタートし、日本では19年に劇場公開されている。1970年代初頭、メキシコのコロニア・ローマを舞台に、家政婦として働く先住民女性・クレオ(ヤリッツァ・アパリシオ)の暮らしを描いたこの映画は、「ヴェネツィア国際映画祭」で金獅子賞、「アカデミー賞」で外国語映画賞など、多数の映画賞を受賞している。決してつまらない作品ではなく、それどころか計算し尽くされたモノクロの映像はきわめて美しくて、それだけでも見る価値はある。しかしながら、映像的に完璧と言っていいほど美しい作品には、しばしば美しさのせいで見えなくなりがちな“物語上の欠点”がある。この映画もそうだ。

 『ROMA/ローマ』の主な問題点は、先住民家庭出身の使用人・クレオと、ミドルクラスの雇い主たちの関係がやたらに美化されていることだ。クレオは妊娠した上、恋人のフェルミン(ホルヘ・アントニオ・ゲレーロ)に捨てられてしまうのだが、それを知った女主人・ソフィア(マリーナ・デ・タビラ)はそれほど衝撃も受けず、優しくクレオを受け入れて支援する。民族も階級も違い、雇用関係があるクレオとソフィアは対等ではないのだが、この2人の間にあるはずの権力の差は、まるで存在しないかのように描かれている。

 また、たとえ対等な友人や親戚であったとしても、非常に親しくしている女性が妊娠して、おなかの子に父親がいないとなれば、多少は人間関係に葛藤が発生してもおかしくないが、これもまったく描かれていない。困難を乗り越え、クレオとソフィアが女同士の絆を築くというような描き方であれば、もっと奥行きのある話になっただろうが、今のままでは階級の違う女同士の助け合いをロマンティックに描いただけの、きれい事にしか見えない。

 さらに問題なのは、この映画に出てくる女たちには“政治的な主体性”がほとんどないことだ。この映画において、男たちの住む世界というのは、葛藤に満ちた政治的空間である。主にフェルミンを通して、男たちの世界が暴力と愚かさに満ちていることが風刺されている。一方、女たちの世界は政治から完全に離れており、彼女たちが住む家庭は人々が助け合う理想化された美しい場所だ。女性たちが政治的意思を持ち、強い声を持って抵抗するようなことは、ほとんどない。皆、静かで優しく、穏やかだ。「男は政治的で暴力的」「女は非政治的で平和的」という描き分けは、ある種の“女性賛美”なのだが、一方で性差別的な構造を温存しかねないステレオタイプでもある。この映画の女たちが住む世界にも、あつれきの種になりそうなものはたくさんあるのだが、すべて覆い隠され、ただただ美しい空間として平坦にならされている。

 もともとアルフォンソ・クアロン監督は、妙にステレオタイプな女性賛美をしがちである。13年の『ゼロ・グラビティ』も美しい映画で、しばしば女性が活躍する作品だといわれるが、ヒロインのライアン・ストーン(サンドラ・ブロック)が、ハンサムな宇宙飛行士・マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)の幻想に助けてもらって地球に帰還するという、筆者の考えでは「そこまでして男の助けが必要か?」とツッコミを入れたくなるような作品だった。『ROMA/ローマ』でも、そんなクアロン監督の作家性が出ているといえるだろう。

次回……『劇場版おっさんずラブ』は「愛は性別を越える」を示す作品だった/男性ジェンダー研究家・國友万裕氏

北村紗衣(きたむら・さえ)

北村紗衣(きたむら・さえ)

北海道士別市出身。東京大学で学士号・修士号取得後、キングズ・カレッジ・ロンドンでPhDを取得。武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。専門はシェイクスピア・舞台芸術史・フェミニスト批評。

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Commentarius Saevus

最終更新:2020/01/08 11:05
ある女流作家の罪と罰
映画から教わることがたくさんある

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