“ジェンダー”を考える2019年映画レビュー

【2019年映画レビュー】フェミニスト視点で「オススメ」「イマイチ」作品は? 北村紗衣氏に聞く

2019/12/29 16:30
北村紗衣(きたむら・さえ)

 世界各国の“男女格差”を測る「ジェンダーギャップ指数」が、世界経済フォーラム(WEF)によって報告された。これは、経済・政治・教育・健康の4分野を分析し、男女平等の度合いを国別でランキングにしたもの。2019年は153カ国が調査対象で、日本は121位となった。この結果は、昨年の110位から急落し、06年の調査開始以降“過去最低”となっただけでなく、先進国そしてアジアの中でも最低水準である。

 17年に「#MeToo」運動が世界中に広がり、日本でもフリージャーナリスト・伊藤詩織氏をはじめ、女優やモデル、大手企業の女性社員が続々と性被害やセクハラを告発。これまで“泣き寝入り”するしかなかった被害者たちが声を上げたことにより、性的いやがらせなどの撲滅、男女平等を訴える動きがネット上で活発になった。それから約2年が経過したにもかかわらず、日本の「ジェンダーギャップ指数」はさらに下がっている。これは逆に考えれば、世界的に男女平等の意識が高まっているのに対し、日本が“遅れている”ということだろう。

 この問題は、一体どうすれば改善に向けて前進できるのか? そのヒントとなるような“映画”を、ジェンダーやフェミニズムの視点から、3名の方に選出いただいた。2019年に劇場公開、またはネット配信が始まった映画に絞り、「ジェンダー意識が高いオススメ作品」「ジェンダー意識が低いイマイチ作品」として、それぞれ1本ずつ紹介する。

 今回は、武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授であり、フェミニスト批評を専門とする北村紗衣氏が登場。年末年始の時間を使ってゆっくりと観賞し、これからのジェンダーはどうあるべきか、考えてみるのはいかがだろうか?

ジェンダー意識が高いオススメ作品

『ある女流作家の罪と罰』……中年女性・レズビアンを“ステレオタイプ”に描かず、厚みのある主人公に

 2019年に公開・配信された映画の中で、筆者がジェンダーの観点から最も面白くてオススメできると思った映画は、マリエル・ヘラー監督の『ある女流作家の罪と罰』だ。この映画は作品自体の評価がとても高く、アカデミー賞をはじめとするさまざまな賞の候補になったにもかかわらず、日本では劇場公開されておらず、配信のみとなっている。あまり人目に触れる機会がない作品なので、ここでぜひ紹介しておきたい。

 同作は、実在した女性詐欺師、リー・イスラエルの回顧録に基づく映画だ。リー(メリッサ・マッカーシー)はそこそこ才能も業績もある伝記作家なのだが、スランプ気味である上、狷介な性格が災いして仕事はクビ、お金に困ってにっちもさっちもいかなくなってしまう。そんなリーが思いついた生計の手段が、有名な文人や俳優などの手紙を偽造し、古書店に売ることだった。伝記作家として、調査対象の特徴をとらえることについて自信があったリーは、巧みな文体模写で“贋作者”として活躍するようになる。

 この映画の独創的なところは、レズビアンの中年女性であるリーが、ひどく人好きのしないとっつきにくい性格であるにもかかわらず、ありがちな感じの単なる“イヤな女”として描かれていないことだ。リーは家中散らかしてもろくに掃除せず、強いこだわりがあって妥協できない。かわいげのあるヒロインとは言い難い人物である。ところが、この映画はしっかりした脚本とマッカーシーの演技のおかげで、リーが非常に奥行きのある人物に見える。だらしなさ、変なこだわり、毒舌、人間関係に対する臆病さ、倫理的に問題のある決断、愚かな判断など、すべての欠点が非常に人間味のあるものとして提示されている。

 そもそも、アメリカ映画は中年女性を描くのがあまりうまくなく、さらにレズビアンの女性ともなるとステレオタイプなつまらない人物像になりやすい。そんな状況の中、これだけ愛嬌のないワルな中年のレズビアン女性を、しっかりとした厚みのある複雑な人間として観客に提示できたのはすごいことだ。

 この映画は、リーの唯一の友人であるゲイのジャック・ホック(リチャード・E・グラント)についても、丁寧に描いている。ジャックはリーと同様、欠点だらけの中年男だ。女性主人公の映画に登場するゲイ男性の役柄というのは鬼門で、だいたいは「なんでかよくわからないが、どういうわけだかヒロインを助けてくれる都合のいいキュートなゲイ友達」になってしまいがちであり、これを風刺した『ロマンティックじゃない?』という映画まで作られているほどだ。しかしながら、ジャックは「ヒロインを助けるゲイ友達」ポジションでありながら、キュートさなどみじんもなく、ステレオタイプを脱した複雑な人物になっている。

 『ある女流作家の罪と罰』は、ちょっとした加減で陳腐になりそうな陥穽がたくさんあるにもかかわらず、そうした罠に落ちなかった。派手な場面はあまりないが、画期的な作品だといえるだろう。物語の展開も面白く、大人がじっくり楽しめる映画だ。

ある女流作家の罪と罰
映画から教わることがたくさんある

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