【特集:目黒事件から改めて虐待を考える】第4回

虐待した保護者、虐待された子のその後は――? 児童相談所の「措置機能」を考える

2018/08/20 19:00

「あの措置は正しかったのか」児童相談所職員の葛藤と願い

――親から引き離され、施設に入所したり、里親に預けられた子どもに、心のケアなどは行っていますか?

柏女 幼い頃に保護されたとしても、そのときのことを鮮明に覚えている子どもは多く、ある程度の年齢で「自分は親に捨てられたんだ」と解釈することがよくあります。そのため、児童養護施設などでは、子どもが社会に出るときに、誰をも恨むことなく生きていけるよう、自分の生い立ちを整理して心に落とし込む「ライフストーリーワーク」を行うことが進みつつあります。保護者はそばにいなくても、愛情をかけてくれる人は周囲にたくさんいるということを知る作業です。そういった面でも、特定の相手と愛着関係を育む里親は、根本的な信頼関係を築く上でも、将来家庭を築くときの学びとしても、とても重要な制度だと思います。

――柏女先生は、以前児童相談所に勤められた経験をお持ちとのことですが、子どもの措置を決めるということに対し、どう向き合っていたのでしょうか。

柏女 それが本当にその子どもの幸せにつながるジャッジだったのかということは、常に気にかかっていました。里親に預けられた子の家庭訪問に行った際、とてもかわいがられている様子を見て、ようやく「良かったんだ」と納得できたり。一方で、精神障害を持つ保護者から虐待を受けていた子どもを保護し、児童養護施設に託すという措置を取ったところ、保護者にとっては子どもが生きがいだったようで、自殺を図ってしまったんです。そのときは、「この選択は正しかったのか」「子どもを親元に戻していたらどうなっていたか?」などと葛藤しました。

 児童相談所は、よく「子どもの処遇を振り分けるだけ」なんて言われますが、判断一つひとつが、1人の子どもの人生を大きく左右するわけですから、その重圧は言葉では言い表せないほどです。正解がないことですから、なかなか難しい。子どもの気持ちを思えば、できる限り、親子関係を再構築して、親元へ返してあげたい……児童相談所としては、それが最良であると感じていると思います。そのために何ができるのか、考えていかなければいけませんね。

柏女霊峰(かしわめ・れいほう)
淑徳大学 総合福祉学部 社会福祉学科教授。同大学院教授。1976~86年、千葉県児童相談所において心理判定員として勤務し、その後、94年まで厚生省児童家庭局企画課勤務。石川県顧問、浦安市専門委員、厚生労働省社会保障審議会専門委員、内閣府子ども・子育て会議委員、東京都子ども・子育て会議会長、東京都児童福祉審議会副会長、流山市子ども・子育て会議会長も務める。

最終更新:2018/08/20 19:38
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