【特集:目黒事件から改めて虐待を考える】第4回

虐待した保護者、虐待された子のその後は――? 児童相談所の「措置機能」を考える

2018/08/20 19:00

人手不足が引き起こす「制度はあれど機能しない」問題

――児童相談所が、子どもの保護と保護者支援の両方を担っていることのほかにも、課題と感じることはありますか?

柏女 1つは、虐待の再発防止です。改善が見られた家庭でも、子どもが成長して反抗期を迎えたことや、引っ越し、保護者のパートナーの変更や転職/失職など、ライフイベントに何らかの変化が生じたことがきっかけとなって、数年後に再発するということも多い。だからといって、全ての家庭を10~20年と監視するわけにはいかないですし、親子を引き離し続けるわけにもいかないので、判断が非常に難しいというのが実際のところです。

 もう1つは、児童相談所以外で、ペアレンティングのようなケアを行う民間機関がまだまだ少なく、児童相談所自体もプログラムを習得したり実施したりする人手が不足している点です。現場では、10年ほど前から海外のプログラムなども取り入れながら、具体例を挙げたマニュアルを作成しているのですが、十分に機能しているとは言えないのが現状。また、人手不足によって、関係者一人ひとりの抱えている案件が多く、虐待を受けた子どもを見守るためのケースカンファレンスである「要保護児童対策地域協議会」の開催が遅れてしまうことも、問題視すべき点かと思います。これは再発防止にも通ずるところですね。

――「要保護児童対策地域協議会」とは、どのようなものなのでしょうか?

柏女 虐待を受けた子どもを守る地域ネットワークです。「保健師は成長の様子を月1回は見に行ってください」とか「保育所では親と子どもの様子をチェックしてください」など、それぞれの関係者に役割を与えて、毎月開催される関係者が一堂に会した会議で情報を突き合わせるんです。ただ、関係者の日程調整がうまくいかず、会議が先延ばしになってしまうことも少なくありません。会議で情報を合わせてみたら、2カ月近く、誰も子どもの姿を見ていないことが判明するといったことも起こり得ますし、もし会議が遅れて子どもの安全を確認できていない期間が長引けば、それだけ取り返しのつかない事態に陥る可能性も高まってしまいます。異変があれば、すぐに中心となっている人に情報が集まるようになってはいるものの、単独の機関では、会えなかっただけで「急を要する」と判断するのは難しいという実情があります。

――児童相談所は、「虐待通告から48時間以内に子どもの安全を確認する」というルールがあります。虐待されているかもしれない子どもに“会えない”というのは、もっと危ぶまれるべき事態なのではと思ってしまうのですが……。

柏女 保護者から「帰省させている」「風邪を引いている」などと説明された場合、無視して強権発動してしまうと、もし真実だったとき、保護者は当然怒りますし、何より児童相談所との関係修復がとても難しくなります。そのため、その日は会えなくても再訪問の約束をして様子を見るなど、児童相談所としても及び腰になってしまうんです。

 とはいえ、結愛ちゃんの一件がきっかけとなって、国から「会えなかったら、ためらわずに立入調査を」という緊急総合対策が出されたので、子どもの命を最優先で救う方向へ変わりつつあるとは思います。ただ、前述の通り、子どもを引き離す役割と保護者支援の両方を児童相談所が担っているため、反発する保護者への対応は今後もっと対策を練らなければいけないでしょう。保護者の立場になれば、子どもを取り上げた機関から支援を申し出られるより、ほかの団体に寄り添ってもらえた方が、気持ち的にも受け止めやすいでしょうが、そのためには、人手や運営費などの問題も生じてくるので、一筋縄ではいかないのが実際のところではないかと思います。

――児童相談所の抱える課題は後を絶たないですね。

柏女 児童虐待が起こった際、その対応の権限をどこが持つのかも、改めて考えるべきだと思います。現在、「専門職を集めやすい」との理由から、都道府県がその権限を持っています。しかし、それにより、都道府県と市区町村の間で責任の所在が曖昧になってしまったり、都道府県と市町村間で押し付け合いが生じて対応が遅れたり、範囲が広すぎることで目が行き届きにくくなっているので、市区町村が権限を持ち、“自分の地域の子ども”として責任もって育てていくことが望ましいと私は思っているんです。そうすることで敏速な対応が可能となり、より多くの命を救えるようになるのではないでしょうか。実際に、虐待を受けたのが高齢者や障害者の場合は、市区町村が対応しているので、児童の場合でも対応可能だと考えています。

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