子宮摘出手術の付き添いを、独り身なので「便利屋」に頼もうと思ったけれど

 前回は、ヒトリ者で親戚とは絶縁、友人も少ない夢子でも手術・入院は可能なのか? というテーマで語ったよな。だがヒトリ者のあなたは安心していい。結論から言うと、そうした人らの付き添いがなくとも手術・入院は可能だ!

 そう、手術・入院には病気の体ひとつあればいい! 来るべき日に備え、いよいよ具体的に準備する時期がやってきたと考えた夢子は、鼻歌まじりに剃毛するのだった。夢子は体毛を見られるのがものすごく恥ずかしいらしい。日本では陰毛がないほうがむしろ驚かれるぞ、という俺のアドバイスは届かなかった。ヤツはこう言い張る。

「私が見られるのが嫌なんだから綺麗にするの!」

 剃刀を操りながら、夢子はふと思い出したように俺にこう言った。

「あ、そういえばさ。子宮がいなくなったら私、女じゃなくなると思う?」

 この言葉に俺はショックを受けた。

「まさかお前そんな血迷い事、信じてるわけじゃないよな?」

「思ってないよ。けどあまりにも世間がそう言ってるのを耳にするから、子宮自身はどう思ってるのか、知りたい」

子宮に女性性は宿っていない!
 俺は答えた。

「『女』ってのはなぁ、世間さまにならせてもらって『なる』もんじゃねえ。AV男優でも勃起しない時期を半年くらい経験する者もいる。心は女でも体が男に生まれついた者もいる。みんな必死で『男』や『女』やってんだよ。ならせてもらうんじゃねぇ、『やる』んだ。子宮がなきゃ女でいられないなら、女なんかやめちまえ!」

 さらに俺はこうも言った。

「俺は、お前の皮膚の一部が陥入してできた袋、ただの窪みだぞ。俺にお前の女性性は宿ってない!」

 剃毛の時とは違い、どうやらこの言葉は夢子の心にクリーンヒットしたらしい。

「たしかに!」夢子は大きく頷いた。そして何度も何度も「うん、そうだよね、その通りだ!」とつぶやくのだった。

 もし、これを読んでいるあなたにも「子宮がなくなったら女じゃない」という考えがあるならば、そんな考えは即刻捨てることをアドバイスしたい。

私に付き添いはいらない
 入院情報は友人のキャリーにごく簡単に伝えてあり、その時彼女は手術中の待機係になることを申し出てくれていた。だがそのありがたい申し出を夢子は断った。

 夢子の言い分はこうだった。大変なのは手術の確約を得るところまで。術中、医療スタッフはそりゃ大変だろう。けど、私はその間ぐうぐう寝ているだけだ。こんな楽なことはない。もしイレギュラー事態発生で、腹腔鏡手術を開腹手術に変更するだの死ぬだのしても、病院側に全部判断を任せると言ってあるから、私に付き添いはいらないのだ。

「そうは言っても、本当は誰か待機してたほうがいいんだぞ」とキャリーはなおも言ってくれたのだったが、夢子は頑固だった。自分は身寄りもいないし、死んでも誰も困らない存在だ。そんな人間のために、世界的企業のエグゼクティブであるキャリーを何時間も拘束するなんてできない。便利屋さんを頼んでも一時間6,000円かかる、キャリーの時給は6,000円どころではないでしょう! ダメダメダメ、そんな、もったいなすぎる‼

 俺は思う。この夢子の考え方には大いに歪みがある、と。1時間いくら稼げるかで人の価値は決まらない。人間というのは、何かの部品のじゃないんだ。こんな世知辛い時代ではあるがな、本来、人間は死んだら「ハイ火葬しましょう」では済まない。

 あとな、貧乏人根性丸出しで何でも時給で計算する癖は、エレガントじゃないからやめてほしい。夢子、お前、吝嗇(ドケチ)がすぎるぞ。時給で働いた時期が長すぎた弊害だなぁ。それにヤツが自分のことをまったく愛せてないのも心配だ。痛みが多すぎる自分の体にうんざりしてることも一因だろうな、うむ、すまん。これは俺にも責任がある。

 そのへんのセルフ・イメージが改善されて、考え方の歪みが矯正されることを俺は願ってるぜ。今回の手術はそもそも自分への敬意、信頼性、自信を取り戻す旅だもんな。

 夢子の決心は揺るがないように見えたが、結果として、ヤツはキャリーに待機係をお願いすることにした。それは、ネット上の見知らぬ友人からもたらされた助言のおかげだった。

 その人のことは、夢子は本名もどこに住んでいるかも、実際の性別すら知らない。ただ、ネット上の掲示板でここ数年、お互いの存在を認識しあっている、それだけの関係だ。ネット上の名前を「みみせん」というその人と言葉を交わしたことはここ数年で一、二度あっただろうか、なかっただろうか。それすらはっきり覚えていない。夢子はみみせんさんのオリジナリティとユーモアに溢れた書き込みが好きだった。

 その掲示板に夢子が「今度手術することになった」とだけ書き込んだ時のことである。みみせんさんは、自分も手術して退院してきたばかりだ、知りたいことがあれば聞いてくれと親切にメッセージをくれたのである。

 夢子は待機係問題について聞いてみた。

「友人が手術中の待機を申し出てくれているのですが、申し訳ないので断りました。みみせんさんはどう思いますか?」

便利屋に術中待機してもらった女性
 みみせんさんからのお返事にはこう書かれていた。

「どの科に入院ですか? それによって多少異なるかもしれないので……」

 なるほどと思い「女性科です」と答えると驚かれた。

「みちばたさん(夢子のハンドルネーム)、女性だったんですか! 私も女性科で手術・入院したんですよ」

 そう、夢子はネット上で男性だと思われていた。よくあることだ。夢子だってみみせんさんのことは男性かもしれないと思っていたが、みみせんさんの手術も子宮摘出だったとのことだから、きっと女性なのだろう。

 何度かのやり取りを経て、以下のことが判明した。みみせんさんも単身女性で出産未経験のひとり暮らし。近親者はみな遠方であるために、夢子も検討した便利屋さんを雇って術中待機してもらったのだそうだ。

 みみせんさんには、

「術後のパンツはへそに当たらないほうがいい」
「ベッドにS字フックをかけてて収納するといい」
「術後トイレに行っても沁みることはない」

そして、

「付き添いはお願いしたほうがいい」

など現場からの貴重な情報を教えてもらった。みみせんさんの言葉に夢子は説得力を感じた。それは見知らぬ人に対してのみ感じる種類の説得力だった。

これがシンクロニシティか!?
 さらにみみせんさんはこうも言った。

「知らない者同士だから寄り添えることもある」

 これは俺もたしかにそう思う。知人・友人には言いたくないことでも、たとえばバーでひとりで飲んでいる時に偶然隣あった見知らぬ人には言えてしまう、ということはあるもんだ。

 昨今、人と人の繋がりは希薄になったと言われる。たしかにそうかもしれない、夢子は家族との縁もなく、友人も少ない。地域や職場のコミュニティにも属していない。

 だが現代では、ネットなどを通して、今までなかった繋がり方が可能になってきている。その新しい人との繋がり方を心得ているか否かで、現代社会をサバイブできるかどうかが、決まってくるのかもしれない。

 みみせんさんも夢子と同じような状況にあり、似たような不安・心配と向き合ってきたのだ。夢子には「こんな経験しているのは私だけだろう」という不遜な思いがあったから、自分のように便利屋さんを検討し、実際に利用した人がいたことに驚いた。それ以上に不思議なのは、タイミングまでほぼ同じだったことだ。

 カール・ユングという心理学者によると、何かが起こる時、同じようなことは地球上のいろんな場所で同時に発生しているのだそうだ。インターネットはユングが言うところの集合的無意識そのもののような場所だから、みみせんさんと夢子の手術のタイミングが近かったのも当然なのかもしれない。

 自分の少ない繋がりの中だけでも、自分と同じ経験をしている人がいた。みんな語りたがらないから情報としては表面には出てこないし、絶対数としてはまだ少ないのかもしれないが、日本中で今もひとりっきりで子宮摘出に挑んでいる女性がきっとたくさんいる。夢子は確信した。

 ということは、夢子はひとりだけどひとりじゃないのかもしれない。

 夢子の祖母の時代、女性は結婚する相手も自分の意思で選べなかった。そういう時代だったのだからそれがいいとか悪いとか言いたいんじゃない。

自分の運命を自分でコントロールする
 だが、夢子の祖母に限っては、結婚を激しく悔い、しょっちゅう愚痴っていた。

「祝言の時、角隠しをつけた自分が大きく見える気がして、ずっと背を屈めて縮こまってたのよ。その時は、おじいさんより背が高く見えたらいけないと思ってたの。けど今思うともっと背筋を伸ばして堂々としてればよかった。あんなジジイに遠慮する必要なんて何もなかったのに!」

 何十年も過去の記憶でフレッシュに悔しがれる祖母の様子からは、結婚生活がどれほど苦労の連続だったかうかがい知れるのだった。この一件から、人生を変えるような出来事を人任せにしてろくなことはないと夢子は信じるようになった。自分のこれまでの経験からも、そう思う。

 祖母のような「女の波乱万丈人生」を再現しては現代に生きている意味がない。

 昔は、子宮摘出のための病院探しから入院、手術、リカバリーの工程を女性本人がたったひとりで実行することは不可能だっただろう。だけど今は21世紀だ。きっとやれる。ひとりでも大丈夫、自分の運命は自分でコントロールできる。

 安心と希望はあると夢子は思った。

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