「産まず嫁がず幸せに生きていく」足立区在住、女の幻想ぶっ壊す系ユニット『IKAZUGOKE』インタビュー

そこに生まれ育った人にとっては大変失礼な話だが、「東京都足立区」には不穏な気配がつきまとう。これは、かつて刑法犯罪の認知件数が東京都内で連続ワーストワンの時期があったことがイメージに影響している。2010年、2012年には都内ワースト1位から脱していたが、近年は再び増加。足立区区役所のwebページで公表されている<区内の犯罪発生状況(2017年9月12日更新)>によれば、『足立区における平成29年7月末現在の刑法犯認知件数は、3,930件となっており、3月から5ヵ月連続で、都内最多となっております』とのことで、やはり治安が悪いイメージは払拭しづらい。

 足立区下町エリア出身の著名人であるビートたけしが、「ワイルドな場所」「最低の街」と吹聴してきたことも、そんなイメージに一役買っている。しかし、そんな足立区に惹かれ、敢えて足立区在住を選択し、足立区発のパフォーマンスを志す女性がいる。ともにアラサー女性である北村早樹子さん(大阪出身)と飯田華子さん(東京出身)だ。2人はパフォーマンスユニット『IKAZUGOKE』を結成し、コント・歌・ラップ・紙芝居・罵倒……予測不能なライブパフォーマンスで観客を魅了している。

 そんな2人がmessyの「女という幻想をぶっ壊す!」というキャッチコピーに興味を持ってくれているという。足立区を愛し、「産まず嫁がず」を標榜する彼女たちが捉えている「女という幻想」とは? 何をどう「ぶっ壊す」のか? 渋谷区にお越しいただいて話を聞いた。

◎足立区には良い飲み屋と拘置所がある

いわく、IKAZUGOKEは「足立区在住の産まず嫁がずの行き遅れ2人が、コントやラップをするユニット」。北村さんの発案だという。

北村:IKAZUGOKEって英語で書いたら、HANATARASHIみたいでカッコイイと思ったんですよ。もともとギャルバンでアルバムを1枚作ってライブをすることになったので、バンド名にしようとしたんですよ。「北村早樹子&IKAZUGOKEってなんかHANATARASHIみたいでかっこよくないですか」ってプロデューサーのおじさんに提案したら「絶対に駄目!」ってすごい反対されて実現しなかったけど。

――絶対に?

北村:僕がせっかく集めた選りすぐりの女の子たちに変な名前付けるなよ、みたいな感じですげー怒られて。しょぼーんってなって飯田さんにこの話をしたら、「いや、いいじゃん、IKAZUGOKE最高じゃん、やろうよ!」と言ってくれて。

――そのプロデューサーのおじさんにとって、ガールズバンドの女の子は“駒”なんでしょうか?

北村:そうなんですかね。バンドの女の子同士で私らはおじさんの喜び組でなればいいんでしょ、みたいな感じで自虐的な会話をしたりしてましたね。やっぱりおっさんって、女の子に囲まれるだけで、嬉しいだけかなみたいな。『IKAZUGOKE』って自分たちをネーミングして私らは面白いつもりでも、そういうギャグが通じないというか。真面目に捉えて否定するみたいな。そういうのがむかつくなって思ってました。

――北村さんはおじさんが嫌いなんですか?

北村:でも恋愛対象はおじさんがいいんです。もう死にそうな年齢くらいの、財産もない優しいおじさん。

飯田:足立区にそういうおじさん、わりといる。

――だから足立区に? そもそもどうして足立区に住みたいと思ったんでしょう。足立区といえばたけしですよね。

北村:あ、やっぱそうなんですね。私はそのたけしとかいうの知らなくて。今のアパートは近所に東京拘置所があるのが決め手でした。東京拘置所が好きだったんですよ。建物も超かっこいいし、『実話ナックルズ』が好きなので……。こういう活動してたら、中央線沿線に住んでそうって思われがちで、特に高円寺とかに住んでそうって、よく言われるのがイヤで。飯田さんは私が引っ越した半年後に、偶然、足立区民になったんですよね。

飯田:やっぱり家賃が安いところが魅力でね。

――でも飯田さんのご実家は新宿区の大変アクセスも治安も良い場所だと伺っています。そのままご実家にいる選択肢はなかった?

飯田:なかったです。私、大人向けの紙芝居といってエロい紙芝居をやってるんですけど。親もライブに来てくれたりするんですが、でもなんかね、こういうのを夜中にしこしこ実家で作ってるのも、気まずいなあと。良い歳してね(笑)。大学卒業後に就職して会社員とエロ紙芝居の二足のわらじを履いていたんですが、親から「そろそろ紙芝居はやめたらどうですか?」って感じのことを言われまして。それをひとつのきっかけに、家を出ましたね。

――そして足立区に。

飯田:あ、実家を出てから、最初は赤羽に行ったんですけど。足立区に来たのは二年前くらい。赤羽では8年くらい、大学時代からの彼氏と同棲してまして。同棲解消のタイミングで足立区に一人で引っ越しました。

北村:飯田さんは綾瀬っていう街に住んでるんですけど、良い飲み屋がいっぱいあるんだよね。

飯田:うん、良い飲み屋はいっぱいある。

北村:私は小汚い飲み屋に集まるじいさんを観察するのが好きで、飯田さんはすっごく飲兵衛なので、本当にそういう飲み屋が好き。だから、女2人で大衆酒場によく行きます。でも飯田さんはやっぱり色っぽいから、そういう店にいると酔っ払ったじいさんに求婚されたりするんですよ。

――求婚!

飯田:スピードが早いんですよね、足立区は。

北村:早いです。もう結婚かよ!みたいな。店員さんに追い払われたのに、じいさん銭湯行ってからまた来て。もうしつこい!みたいな。でも飯田さんべろべろで覚えてない、私だけシラフなので全部覚えてるっていう。

――飯田さんはべろべろでもプロポーズを断ってるんですか?

飯田:どうだっだろう?

北村:上手いことかわしてたね!

飯田:あー、かわしてる感じあったね。

北村:でも、うまいこと喜ばしもしちゃうのよ。きっとね。つい。

飯田:うーん、ホステス気質っていうか。

北村:たぶんあの、言わん方がいいかな。

飯田:いやいや、いいよいいよ。

北村:飯田さんは銀座でホステスやっているので。

――銀座で!

北村:なので、たぶん、そういう男性を喜ばせるのが、お上手なんですよ。

飯田:そうなのかな。いや、なるべく無視するようにしてますけど、そういうのは。

――銀座は週にどれくらい出勤してるんですか?

飯田:週一回だけです。それに、ホステスなんですけど、エロ紙芝居やって、さらに接客もしてるんですよ。

――お店の客層はどんな感じなんですか?

飯田:まあ普通の、ちょっと有名な企業の課長部長クラスぐらいだったり。たまに社長さんとかもいらっしゃいますけど。

――紙芝居にはどういう反応をされる?

飯田:まあネタによりますけどね、エロいネタなんでね(笑)。ノリが良いお客さんだったら盛り上がりますし、あまりご興味を持たれない方もいます。ただこれは銀座だからではなくて、お客さんはエロ紙芝居を見に来てるんじゃなくて飲みに来てるわけだから。そりゃライブハウスでやるのと違います。

◎一回嫁いだし「もういいや」

――お2人とも「産まず嫁がず」とおっしゃいましたが、本当に産みたくない、嫁ぎたくないんですか。

北村:そうですね。でも私は一度、嫁いでたんです。大阪で大学を卒業してすぐに。IKAZUGOKEって言ってるけど、一回行ってすぐ帰って来たんですよ。

――どれくらいで帰って来たんですか?

北村:2年で帰って来たんです。大学の卒業式の日にそのまま入籍。高校のときから付き合っていた、5歳上のライブハウスのPAの男で、何もかも初めての相手でした。相手が焦っててもう早く結婚したいって感じだったから、大学卒業と同時に結婚してしまったけど……なんかね、私なんかと付き合いたいと思う人は誰もおらんやろと思ってたから、こんな機会もう無いやろうから一回してみてもいいかな、くらいの軽い感じで、しました。

――軽い感じで結婚してみて、いかがでしたか。

北村:失敗、大失敗でしたね。旦那さんも貯金3万しかない人だったし、私は喫茶店バイトだし、おまけに、機材をいっぱい買っちゃう人だったから、もうカードローン、カードローンで。あと、今思うと全然楽しくないセックスをさせられ。

飯田:楽しくないセックスだったんだ。

北村:夜の相手をさせられていただけだったっていう。

――当時は「セックスってこんなもんなんだ」と……?

北村:と思ってたら、やっぱり相手が違えば全然違うもんですね。東京に来てから楽しいセックスも知りました。大阪ではその旦那さんしか知らなかったので。というか、そういう生活が嫌で、家出のように出てきちゃった。大阪時代からサブカル歌手活動のようなことをずっとしていたので、東京にライブしに来たついでにそのままアパート決めて。「そういうことなので、別れてください」みたいな。

――飯田さんは赤羽同棲時代の恋人は、どんな男性だったんですか?

飯田:付き合ったのは12年、同棲8年でしたけど、まあ彼は大学院生なのにずっと家でネットゲームをしてて。私はとっくに卒業してたので働いてまして。でも生活費は折半だったのでヒモではなかったですが。

――8年間ずっとそんな感じだったわけでは……?

飯田:あ、彼は大学院を卒業して高校教師になりました。でもそれでじゃあ、結婚しようか、なんて気持ちにはならなかったですね。それで普通に別れて、赤羽よりもっと家賃の安い足立区に引っ越したんです。

――12年付き合っていたというと、高校卒業くらい、大学生になってすぐくらいからずっと、その一人の男性と?

飯田:そうですね。でも私、15歳のときから新宿の歌舞伎町へ出歩くようになったんですよ、グレたくて。

――グレたくて??

飯田:実家は本当に普通に、両親健在で、教育も受けさせてもらいましたし、真面目に育てられつつもさほど抑圧的でもない良い家庭だったと思うんですけど、高校に入ってからグレたくなって。中高一貫の学校で、生徒がみんないい子で、部活やバンドやったりして発散している。グレてる子が一人もいない。だからグレ方がわからないんですよ。周りにヤンキーの友達とかがいれば、悪の道に引きずり込んでくれるけど。

――誰も引きずり込んでくれない。

飯田:そう、だから、真夜中に自転車をこいで歌舞伎町へ行って、金髪のヅラをかぶって、18歳だと偽ってね。

――でも日本では、女子高生って「女子高生である」ことだけで、成人男性から高値がつけられている存在じゃないですか。値段がつけられて、高く売るっていう売買が……あってはならないけど、そういう援助交際と呼ばれるようなマーケットがある。グレようというときに、そっちの方向にはいかなかったんですか?

飯田:いえ、私はお金を稼ぎたかったんじゃなくてグレたかったんです。そういうマーケットへの参加の仕方もわからなかったし。

――グレてる、あたし今グレてる! みたいな気持ちになれましたか?

飯田:その格好で歌舞伎町を颯爽と歩いてるときは「あたしイケてる!」と思ってたけど(笑)、やっぱり、それだけじゃないじゃないですか。『今グレてる!』という高揚を得たかったけれど、『グレ』の象徴と思える不純異性交遊をしてもなんか『負けてる』ような気がしたんです。グレてるはずなのになんか負けてる、なんでこんな惨めな気持ちなんだろうなあって思っちゃって。自分から進んでやってるのに悲しい気持ちになっちゃってて、何してるんだろう、みたいな。だからそんなに長い期間はやらなかった、大学受験もあったし。

――その後、男性とセックスして、負けたような気持ちが胸の中にわかないような、そういうセックスってありました?

飯田:その12年付き合った彼氏ですかね。そういう日もあったかもしれないけど、まあ長いんでね。もともと「セックスでつながれる」という幻想もないんですよ。初体験も、友達に紹介してもらった男の子としただけで、「好き」から始まらなかったですからね。

◎女の欲望、家庭と男と美貌だけ?

――北村さんは結婚を、飯田さんは同棲を。お2人とも長く付き合った異性の相手と経験しているわけですが、それを経て「結婚願望がない」と言っているんですね。飯田さんは、12年も付き合って、結婚という発想にならなかったのは、どうしてだと思いますか。

飯田:なんででしょうね。そもそも結婚したいと思ったことがない。産まず嫁がずのIKAZUGOKEなので。

北村:男の人に食わしてもらうって気持ちがまずない。

飯田:想像がつかないかな。

北村:想像がつかない。

――ですが、「結婚=男が女を養う」って形だけではない。

北村:っていう形だけではないのは、私も飯田さんもよくわかってるんですよ。両親が、特に母親ががっつり働いている姿を見てきたので。でも日本の社会にある女の幻想っていうのが、そういう母の姿とは何か違うじゃないですか。女の幸せっていうか……女は産みたい、嫁ぎたいもんだって思われている。女は結婚したがり、そして子供を欲しがるもんや、母親になりたがるもんや、みたいなんが世の中で定義されている幸せの図ですよね。家庭=幸せみたいな。

――女の幸せは仕事以外のプライベートな部分にしかないと思われている?

飯田:それはありますよね。男に唯一の女として選ばれてこそ幸せになれるとかもそうだし。

――この間、安室奈美恵さんが引退発表した時に、「仕事で走り回る日々は終えて、これからは女の幸せだ」みたいなことをどこかのスポーツ紙が勝手に書いていたのを読んだのですが、仕事で走り回ることは女の幸せではないとされているんだなあって。

飯田:仕事って女の幸せじゃないってことにされてる。

北村:あー、されてる。

飯田:仕事をすごいやってると、女を捨ててるって言われる。

北村:うん、思われる。

――性別的に女と仕事がすごく遠ざけられてる感じが、ありますね。

飯田:まあ仕事もそうですけど、たとえば「女は美醜にこだわる」というのも女幻想のひとつですよね。「女である以上は、美しいと思われたいはずだ」って、女も男も思ってるじゃないですか。多くの人が。
だからたとえば、別に、あんまりその今の雑誌とかの綺麗じゃない格好、見た目とかで登場すると、「ああ、かわいそう。ブスでかわいそう」みたいな。別にブスでいいって思ってても、本当はこの人はブスで悲しいと思ってるに違いないみたいな。
おどけているけれども、心からブスでいいと思っているはずがない!みたいに……。
加齢で「劣化」って言われるのもそうかもしれないですね。それを本人は受け入れてるかもしれないのに、老いが見た目に現れていることを本人は嫌がっているに違いない、って第三者たちが決めつけている。うーん。

北村:うんうん。確かにそれはある。

飯田:あと、「女の美しさ」っていうのも、結構一辺倒っていうか。

――まず若さが重要視されますね。

北村:大事ですね。女は年をとるのが嫌に違いないっていうね。

飯田:でも30代になって、楽しいよね。だんだんそういう枷から解放されつつあるっていうか。

北村:なくなってきてるから。

――私も30代の方が楽しいです。それらって、男が/女がで分けることでもないとは思うんですけど、当事者である女性自身が内面化している部分は大きいですよね。幼少期からそういう文化で刷り込まれているというか。

飯田:そうなんですよ、女がね。そしてそれを強化するメッセージが無差別に溢れている。広告もテレビも。

北村:それこそ雑誌だってそうじゃない? ファッション誌はさ、私のようなちんちくりんが絶対に合わないようなさ、格好ばかりすすめてくる。働く女のスタイルみたいな、そういう雑誌は特に。そんなふうに決められた美に当てはまれる女の人なんて少数ですよ。

――メディアといえば、「結婚したら絶対幸せ」ってイメージで固めていることに違和感はないですか。

北村:それも恐い、本当に恐い。結婚や出産について、広告や雑誌はハッピーで薔薇色なイメージで彩るんですけど、でもその一方で別の雑誌やテレビ番組では育児ノイローゼですとか、不倫されて悩んでますとか、結婚したけど借金があってとかも取り上げてる。そういう記事と結婚したら幸せだよって記事の置き場所が完全に分断されてるというか別々になってて、いや、同じ結婚じゃないですか! みたいな。

――では、そうしたいろいろな「女の幻想」をぶっ壊すっていうことを、お2人は『IKAZUGOKE』としてやられていくんですか?

飯田:そんなに大仰なことは考えていなかったんですけど……私が他の女性に伝えられるのは、結婚しなきゃとか、綺麗でいなくちゃとか真面目に思わないで、もっと面白い世界もあるよってことくらいで。実際すごく楽しいので、今。
みんなが同じように持ってる「女はこう」って価値観を無視して、もっとふざけたり、嘘ついたりとかしていいんじゃないの? みたいな。

北村:私としてはですね、こんな格好して、コントとかアホみたいなパフォーマンスを見せつけることによって、バカバカしいと思われたい。以前、「君たちは人生一回しかないのにこんなことやっててバカなんじゃないかって思うけどそれがいい」って言ってくれた人がいて。

飯田:人生が二回あるなら、一回くらいふざけてもいいなって思うけど、一回しかない人生をなんでそんなふざけて……と。

北村:そうそう、なんでこんなふざけてんだよって言われて。私、それは褒め言葉やなってうれしくて。好き好んでこういう暮らしをしているんでね。

――好き好んで足立区を選んで。

北村:引越しを決めたときに、「普通、女一人で住む町じゃない」「危ないからやめとき!」ってすごい周りから止められたんです。だけど東京拘置所があるから私はここじゃなきゃイヤだと。それに、住んでみたら本当に、住みやすくて楽しい町です。物価も安いし。スーパーでジャガイモとかニンジンとかが1個10円ですよ。

飯田:まあ好き好んでこういう暮らしをしているけど、今は若くて健康だからいいだけなんですかね。60~70歳くらいになって、独居で、誰かに迷惑かけるっていうのがちょっと怖い。今は1人で暮らすのが本当に快適で。年取ったら、そうも言えないのかもしれないけど……。

北村:そうですね。体の自由がきかなくなってきたりするかもね。

飯田:まだそこまで体の自由がきかないってことがリアルに想像できてない。

北村:若いもん、だって。

飯田:まだね。だから、その状態で今は、一生1人で暮らせたら、いいな、快適だなって私は。それぐらい、私は一人暮らしが快適です。男とか家族と暮らしてるより断然いいなこれは、って。

――40年後に、日本社会がどんなふうになっているかなんて、わかりませんからね。1977年と2017年でも相当、環境が違ってますし。2057年なんて未来すぎて。

北村:そう、わからないですね。だからこそ今を楽しめばいいと思いますね。女という幻想に縛られて苦しむことなくね。

(構成:水品佳乃)

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