映画レビュー[親子でもなく姉妹でもなく]

嫌われるのを厭わない女×いい子でいたい若い女――ふたりの女から見る『プラダを着た悪魔』

 業界最大手のファッション誌「ランウェイ」編集部に、ジャーナリスト志望のアンドレアが面接を受けにやってくる。ファッションにはちっとも興味がないが、ここでの修行が大きなステップアップになると判断している、「センスはゼロ」でも聡明そうな彼女を、編集長のミランダ(メリル・ストリープ)は「リスクを承知で」採用する。

 ミランダの第二秘書になったアンドレア(アン・ハサウェイ)は、まったく無知だったファッション業界の特異な構造と奥行き、「ランウェイ」の影響力の大きさを目の当たりにしつつ、プライベートの時間までミランダに呼び出されてこき使われる。

 同棲中の恋人・ネイトに職場の不満をぶちまけ、一方ではミランダの右腕ナイジェルに「彼女は悪魔」「必死に努力してるのを認めてほしいだけ」と訴えるアンドレア。大学まで優等生で来ただけに、被承認欲が満たされない苛立ちで一杯だ。

 見かねたナイジェルのアドバイスのお陰でオシャレに大変身し、やっと場になじみ始めた彼女だったが、ミランダの自宅に「ブック」(進行中の号の見本)を届けるという重要なミッションで大きなミスをする。進入禁止のエリアに入り、ミランダ夫妻のプライベートを垣間見てしまったのだ。それも、ミランダの双子の娘たちにうっかり気を許してしまったのが原因。

 ここでアンドレアには、仕事の鉄則ではなく、その場の人間関係や感情のほうに引きずられがちな隙のあることがわかる。

 翌日ミランダから突きつきられた、極めてプライベートな問題に関する無理難題はおそらく、処罰という名の仕返しだ。それにアンドレアは必死の思いで応え、ミランダの信任を得る。一方で、恋人ネイトとの関係は悪化していく。

◎誰からも嫌われず「いい子」でいたい
 仕事のせいでプライベートを削られていくのは、競争の激しい業界ならよくあることだ。特にアンドレアは、「何百万人が憧れる仕事」に就く女に試されている最中であり、静かに見守るのがパートナーの役割だろうに、ネイトは不満を隠そうともしない。恋人が仕事に邁進し変わっていくのが我慢できない、狭量な男と言える。

 アンドレアの友人たちも同じで、職場のおこぼれであるブランド品をアンドレアからもらって喜んでいたわりに、彼女の仕事の苛酷さには大して理解を示そうとしない。

 特に、マーク・ジェイコブスの新作バッグに狂喜していたリリーは、アンドレアが売れっ子のジャーナリスト、クリスチャンと親密にしていたのを大仰に非難する。真面目に仕事をすればするほど、アンドレアはプライベートで孤立していくのだ。

 急遽「ランウェイ」主催のパーティに同行することになったアンドレアは、第一秘書のエミリーを見事に補佐し、これまで上から目線だったエミリーに感謝される。

 以前よりファッションに関心をもつようになったとは言え、エミリーほどの強い憧憬や野心や、どこまでもここで生き抜く覚悟がアンドレアにあるわけではない。ただ職場で自分の存在意義が生まれ、他人の役に立てたことに手応えを感じているのだ。だから、エミリーの代わりにパリコレに同行せよとミランダから命じられた時、彼女は自分が抜擢されたことを喜ぶどころか、エミリーに遠慮して即答できない。これで彼女に恨まれるだろうことも怖れている。

 チャンスを掴み人より前に出ることで人に嫌われたくない、「いい子」でいたいという心情。アンドレアは人の気持ちを慮る優しい女性だが、それはつまり、仕事のステップアップよりも人間関係を気にしているということなのだ。

『あなたたちはあちら、わたしはこちら』
なぜ嫌われたくないのか? の自問から自意識が見えてくる

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