介護をめぐる家族・人間模様【第43回】

「老後は弟の病院で世話になるつもり」夫を頼りにする義姉たちに戸惑う医者の嫁

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Photo by osuke WATANABE from Flickr

 仕事関係の人から電話があった。年下の男性なのだが、「すみません。風邪で声が枯れちゃって」と言う。ん? どこかで聞いたセリフ。そうだ、振り込め詐欺だ。怪しい! と身構えたものの、そもそも息子を名乗っているわけでも、お金を要求しているわけでもない。間違いなく、○○社の○○さんでした。失礼しました。振り込め詐欺適齢期(?)に近づいているせいか、過剰反応しすぎ?

<登場人物プロフィール>
牧野 君代(43) 専業主婦。病院長の夫、小学生と中学生の息子2人がいる。中部地方在住。
牧野 隆一(50) 君代さんの夫で医師。ベッド数200床の療養型病院の院長でもある。

■息子のために病院を建設した義父母

 牧野さんは、「結婚の勝ち組」と、友人たちから羨ましがられている。夫は地元有数の病院長。後継ぎとなってくれそうな息子2人も揃って、成績優秀だ。「牧野病院の奥様」として、家事と子どもの教育に専念している。

「玉の輿だと言われます。実際、いろんな意味で恵まれていると思います」

 牧野さんの夫が経営する療養型病院は「老人病院」とも言われ、慢性疾患を抱えた高齢者が、長期入院する病院なのだ。入院治療の必要はないにもかかわらず、多くは家庭の事情で自宅にいられず、病院で生活しているような状態で、「社会的入院」とも呼ばれ問題にもなっている。それでも需要は多く、開院した20年前から常に満床で経営も安定している。

「私たち家族は病院の敷地内で暮らしています。義母は私たちが結婚する前に亡くなっていましたが、義父は二世帯住宅で隣に住んでいます。高齢ですが、身の回りのことはまだ1人でできますし、何かあれば主人がすぐに行けるのでお互い安心ですね」

 20年前に開院したということは、夫が代々続く病院を継いだわけではなさそうだ。若くして開業し今のような規模にまで育てるのは、いくら老人病院とはいえ大変だったのではないだろうか。

「私がお嫁に来たときは病院も軌道に乗っていて、ベッドも増やしているくらい順調だったので、初期の苦労はよくわからなかったのですが、開院にあたってはどうも義父母がかなり関わったようです。主人は若いし、勤務医だったので資金だってありません。義父母は地元でスーパーを経営していたのですが、2人で休みなく働いて貯めたお金をつぎ込み、家や土地、店までも抵当に入れて、病院を作ったと聞きました。義父母は幼い頃から頭のよかった主人に医者になるように勧め、主人が医大に合格すると病院経営について猛勉強し、療養型病院に狙いを定めたんです。先見の明があるというか、義父母の思惑どおりでしたね。なによりこういう病院を持っていれば、いずれは自分たちも安心して最期が迎えられるとまで計算していたんでしょう。資金集めなどの苦労がたたって、義母が早くに亡くなってしまったのは誤算だったと思いますが、今の病院の発展を見て満足していると思います」

■義父はいずれ“ゴールド病棟”に

 それでも「老人病院」に、あまりいいイメージはない。6人部屋などに詰め込まれ、ベッドに寝かされっぱなし、という劣悪な環境が思い浮かぶ。いくら息子の病院だとはいえ、義父母がそんなところで最期を迎えたいと考えた、というのが今一つ納得できない。

「さすがにそこまでひどい環境ではありませんが、多床室が普通ですね。でもそれだけではありません。有料老人ホームよりも料金が高い“ゴールド病棟”というのも用意しています。ホテルのスイートルームのようですよ」

 しかも、そのゴールド病棟が牧野さんの病院のウリで、富裕層がこぞって利用しているのだと言う。義父母の病院経営の才覚には舌を巻く。なんだか将来に何の不安もなさそうに思える牧野さんだが、実は「そこはかとない不安」があるのだと言う。

「それほどしっかりした義父母でしたから、主人たち姉弟は小さいときからかなり厳しく育てられたらしいんです。スーパーは繁盛していたんですが、贅沢するどころか爪に火をともすような節約ぶりだったと主人は言います。それでも主人は末っ子だし長男なのでまだよかったようです。姉が2人いるんですが、義父母への被害者意識が強く、義父の顔を見に来ることもありません。上の義姉はずっと独身で、下の義姉はバツイチ。そして義姉同士は絶縁状態。2人とも離れたところに住んでいるので、特に問題はなかったんですが……」

 牧野さんは小さくため息をついて、言葉を続けた。

「2人とも主人のことはかわいいようで、主人にはよく連絡をして来ます。主人と私、子どもたちの誕生日とクリスマスには結構いいプレゼントを贈ってくれるんです。先日お礼の電話をしたら、上の義姉が『将来、隆一のお世話になるんだから、お安いものよ』って冗談っぽく言ったんです。うすうす、そんなことだろうとは思っていましたが、やっぱり本音を聞くと顔が引きつりました。どうも義姉たちは、小さい頃から親に苦労させられて、結局何の恩恵も受けられていないという思いがあるみたい。嫁の私だけがいいとこどりで、いい暮らしをさせてもらっている。だから老後は主人を頼るつもりだけれど、それも当然だということなんでしょう」

 そりゃ、弟の病院、しかも“ゴールド病棟”で老後が過ごせるなら、こんなに安心なことはない。牧野さんの「そこはかとない不安」は理不尽にも思えるが、シングルの義姉2人から老後をあてにされるとなると平穏でいられないのもまた道理だろう。

 それにしても、これだから医学部人気が衰えないわけだ。やっぱり持つべきものは医者の親族、か。

勝ち組=確約された老後ライフを持つ者、かもしれない

しぃちゃん

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