『花祀り』が第1回団鬼六賞を受賞

「穴さえあれば女なんだ」、作家・花房観音が劣等感の末に見出した真実

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イベント出演前に対応くださった花房
観音さん

 第1回団鬼六賞受賞作である『花祀り』(無双舎)は、京都に息づく秘めやかな悦楽を艶やかに描いている。和菓子職人の見習いをしている美乃は、師匠である松ヶ崎にとある一軒家に連れて行かれ、そこで繰り広げられている「大人のたしなみ」に魅せられていく……。生前の団鬼六が同賞授賞式で直にその才能を称賛した著者・花房観音さんに、ご自身のセックス観を交えながら、本作品について聞いた。

――官能小説を執筆されたのは、本作品が初めてなんですね。

花房観音氏(以下、花房) そうなんです。男性を勃起させて抜かせることが目的である官能小説は自分には書けないと思っていました。ただ、大好きな団先生の名前が付いた賞で、先生自身が選考委員を務めるというので応募しました。

――女性作家の官能作品は生々しい性や現実的なテーマを書いている作品が多いですが、『花祀り』は非日常的な世界観を内包し、重層的な作品です。

花房 京都という舞台があったからだと思います。京都には今でも著名人や文化人が多く住んでいらっしゃいますから、地元の方には「このような世界は現実にあるのでは?」と聞かれることがあります。けれどすべて想像の世界で、まずは京都という舞台、そして和菓子……と設定を作り上げて行きました。

――作品を読んで驚いたのは、和菓子を作る手の動きの艶かしさです。

花房 女性は、男の人の指を見ると思うんです。タバコを吸っている指先とか……。洋菓子と違って、弾力があって指でこねて造形する和菓子は、独特のいやらしさがあるんじゃないかな、と思ったのがきっかけです。

――ストーリーの展開に目を向けて見ると、主人公・美乃と師匠・松ヶ崎の愛憎だけで十分に官能小説としては成り立ちますが、美乃が羨望と裏腹の憎しみの感情を抱いている女性・由芽を登場させていますね。

花房 「男と女の支配」の話だけにはしたくありませんでした。確かに美乃と松ヶ崎だけで話は成立しましたが、自分自身が書いていて面白くない。男女のなかにもうひとり女性が入ることで、女性が”勝つ”作品にしたかったんです。団鬼六先生の作品も、最初は女性が男性に攻められているのですが、いつの間にか男性が”攻める”というより、”後押し”をしているという展開になっています。団先生の描くSMは女性賛美なので、私も最終的には女性が勝つ物語にしようと思いました。他の賞であれば別の作品を書きましたが、団鬼六賞だからこの作品を書きました。賞自体が第1回なので傾向と対策もありませんでしたから、団先生の作品からヒントを得たという感じです。

――団先生とは異なる、花房さんご自身のオリジナリティーとは?

花房 京都を舞台にしたいというのは強く思っていました。あとは、美乃が由芽に抱く嫉妬の感情でしょうか。そうそう、意識したわけではないのですが、冴えないルックスでただ男性に攻められるだけだった美乃が最終的には美しくなり、攻める側に変わっていくという物語は女友たちに共感してもらえました。その分、自分でも「男性が書けてないな」という思いも。

――そうおっしゃいますが、『花祀り』で異常な性的嗜好を持つ僧侶・秀建を描いた、「花散らし」は圧倒的な世界観でした。

花房 『花散らし』は、とにかく書いていて楽しかったです。秀建は自分に近いキャラクターなんですよ。コンプレックスがあって、努力して、復讐をする。ただのエロ坊主じゃないぞ、という(笑)。

――総じて『花祀り』には、常識やモラルを超えた「性愛至上主義」のようなものを感じました。花房さんご自身はセックスをどのようなものだと考えていますか?

花房 根本はものすごく保守的な性愛観を持っています。両親の影響からか、処女を捧げた男性と結婚するものだと思っていましたし(笑)。けれどセックスにはすごく興味があったので、アダルトビデオを見て興奮をしていたり……すごく矛盾していましたね。セックス=愛という部分と、そうでない部分と。そういった混沌としたものがセックスではないかと。本当に不条理なもので、恋人とのセックスよりも、その日限りの相手との方が気持ち良いこともある。理屈じゃないですよね。そういう不思議な部分を持っているのもセックスの面白さだと思います。

――『花祀り』ほどの特異な世界はないにしろ、セックスと感情が折り合わない場面というのは多いです。

花房 人生を変えてしまう行為だと思うんですけど、どうしても女性の「性」はなかったことにされるか、逆にヤリマンや娼婦として語られるなど、両極端なんですよね。男性のセックス観は変わらずに保守的で「女性は、好きな相手とじゃないとできない」という考え方が強い。けれど女性からしてみれば、男も女も一緒なんです。それぞれの価値観が分かりやすく表れるのがバイブです。女性が作ったバイブは、機能的でオシャレなデザイン。男性が作ったバイブはとにかく太くて、イボイボが付いてたりする。女にとってのバイブは気持ちよくなるための道具なんですが、男性にとっては女を支配するための自分の分身なんですよね。

――ご自身にコンプレックスがあったというお話でしたが、処女喪失の際も男性にお金を払ったそうですね。

花房 初体験の時は60万円、クンニは20万円を払いました。金融業者が1社20万円しか貸してくれなかったので、3社に借りましたよ(笑)! そのときは本当に切羽詰まっていて、「私のことを相手にしてくれるのはこの人しかいない。この人が離れていったら私は生きて行けない」と本気で思っていました。処女を捨てられたということにホッとはしましたが、前戯もないただ挿れるだけのセックスでしたので、ぜんぜん気持ちよくない。処女を喪失する前からアダルトビデオを見てセックスに憧れを抱いていましたし、それなりの願望があったのですが、やはり自分には普通のセックスはできない、と感じました。ただ、その人に挿入されるだけでありがたい、と。

――なぜそこまで強いコンプレックスを抱いていたんですか?

花房 「人として、こうあるべき」という理想像が強かったんですよね。その理想像と自分自身を比較して、とてもしんどかったです。当時はインターネットが普及してない時代ですから、私だけがダメなんだと思っていました。処女ではなくなったことで楽にはなれましたが、根本的には変わりませんでした。処女喪失の彼とはわりと長い間の付き合いがありましたが、お金を支払わないと抱いてもらえなかったので、いわゆる「一晩限り」の男性もいました。彼らとセックスをすることで、私のことを普通の女性として扱ってくれる男性の存在を知ることができて、精神的にすごく救われました。それまでは「モテ」に対する劣等感が強かったんですが、「女って、穴があれば女なんだ」と気付いたんです。「セックスは生物学的なもので、穴さえあればセックスはできる」。そう気付いたら、すごく楽になれました。

――花房さんの彼は特異な例ですが、セックスレスなど「男性が相手にしてくれない」と悩む女性も多いですね。

花房 “お姫様”になり過ぎている女性が多いのでは? 男性は女性のわがままに対して寛大ですが、甘んじていると男性は追いつめられて疲れてしまう。極論を言うと、単純にセックスがしたければひとりの男性に執着しなければいいだけの話ですし。私も「その日限り」の相手とセックスしたこともありますが、ヤったからといって解決するわけではない。どうしても保守的な価値観が邪魔して、純粋に”セックス”という行為としては楽しめなかったのです。条件が合う相手で、互いにコミュニケーションができて、恋愛感情を持たずにセックスを楽しめる――セックスフレンドってよく言うけれど、そんなに割り切れるもの? と疑問に感じます。どちらかの感情が入ればすごく心がかき乱される行為ですからね。あとおざなりな扱いをされてますが、セックスが嫌いな人も多いですから。そういった人たちにはしんどい世の中だろうなと思います。

――女性が性欲をコントロールするのはとても難しいのかもしれません。男性は射精すれば満たされるけれど、女性はより複雑です。

花房 でも、いくら相性のいいパートナーやセックスフレンドがいても、性欲が100%満たされることはないと思うんです。それが生きるモチベーションになるのかもしれません。

――では、幸せなセックスって、どういうものなんでしょう?

花房 業界限定ヤリマンとか、セックスを理由にして自己顕示欲を満たしている女性は多いですね。そういう女性は本当にセックスが好きなわけじゃない。セックスを利用して優位な環境を作っている。そういったマウントの取り方が性欲なのか、セックスが好きなのかは疑問ですし、悲しいですよね。だったらひとりの男性とイヤというほどヤりまくって、奥の奥まで快楽を追求する方が幸せだと思います。
(いしいのりえ)

『花祀り』

「性の悦び」に抗うことは馬鹿げてる、と思わされる1冊です

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