『アンアンのセックスできれいになれた?』刊行記念インタビュー

「この国は東電OLになった」北原みのり氏が語る、女性のセックス観の変遷

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「誰ひとり、心から自分をオバサンだと思っている人
はいない」と話す北原氏

 女がセックスを語ることがタブーとされていた70年代、一般読者をヌードにし、フリーセックスを叫び、レズビアン特集まで組んでいた「an・an」(マガジンハウス)。セックスを「女が自由になれる」突破口としてとらえ、女性たちの性意識をけん引し続けてきた。今、「an・an」が日本女性のセックス観にもたらした影響をまとめた『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)を読むと、多くの女性が渇望していたはずの”自由”が汚され、ねじ曲げられ、翻って私たちを不自由にさせているように思える。この本の著者であり、女性向けアダルトグッズショップを経営する北原氏に「an・an」のセックス特集の意味、女性における「セックスの自由」の意味を聞いた。

――「an・an」最新のセックス特集(9月7日号)はどうご覧になりましたか?

北原みのり氏(以下、北原) ここまできたのかと、笑うしかない気持ちになりました。「愛されるためにセックスを使うな!」と言いたいです。これ以上、女から”気持ち良さ”を奪わないで、と。

――本書(『アンアンのセックスできれいになれた?』)での指摘が、そのまま形となって表れていたように思います。一番顕著だったのが、「彼に喜んでもらうためのセックス」=「セックスのお仕事化」ですね。

北原 創刊時(1970年)の「an・an」では、「性」は政治的な文脈で語られていました。反社会のシンボルとしてセックスがあり、自由への憧れや希望がキラキラと語られていました。80年代になると社会から政治色が薄れていきますが、「an・an」が描くセックスも、読者の目線に近づいていきます。エロで、オバカで、過激な80年代的エロがたくさん語られます。89年の「セックスで、きれいになる」は、本当に画期的でしたが、あれは、それまでのエロとも違う、政治的でもない、ただただ「オシャレ」だったんです。私は当時高校を卒業したばかりでしたが、セックスをオシャレに、「私」を主語に語っていいのだということに驚きました。完全に女目線でセックスを語る土台を「an・an」が創ったんです。

――現在のセックス特集へ向かうターニングポイントはいつぐらいだったのでしょうか。

北原 97年に急に「愛あるセックスだけがあなたをきれいにします」と言い出します。コギャルの援助交際が社会問題になり始めた頃ですね。”東電OL”が殺されたのもこの年。それまでさんざん自由に! と騒いでいた「an・an」が読者を説教するような調子になっていきます。それからはずっと「カレに愛されるための」技術特集がメイン。それは一見、過激に見えるかもしれません。だってフェラチオのテクニックが絵付きでかわいく描かれていたり、女性向けのエロDVDが付録でしたしね。「きれいになろう」と言われるより、よっぽど役に立つ話かもしれない。でも、そこには「私がこうしたい」という思いがどんどん薄くなっていくように、私には感じられます。

――本書の中でも、「この国が東電OLになってしまったように感じた」という記述があり、とても印象的でした。

北原 今、再び東電OLが注目されています。東電OLが、いったいどんな人だったのか。いまだに私はわかりません。ただ、彼女が「東電は素晴らしい一流会社だ」と心から信じ、つねに組織の論理を優先し、女性である自分を決して生かすことのない会社なのに、それでも毎日誇りを持って働き続けていたのはなぜだったんだろう、と考えます。売春していたことではなく東電を辞められなかったことが、彼女の命を縮めたように思うのです。

 自分を損ない続ける会社であっても、「東電」という世間の評価の方を重視する感性は、彼女だけのものじゃありません。自分の頭で考えずに、自分の自由を奪うような生き方をする限り、この国は引き裂かれた東電OLなのだと思う。

 「an・an」がキラキラしていたとき、「an・an」は繰り返し、”自由に生きよう、個性的に、自分らしく生きよう”と言っていました。そういう価値がもう古くなってしまいました。なぜ「他人の価値感」に自分を合わせ、「カレに愛されるため」にセックスや快楽を考えるような時代になってしまったのかを、「an・an」を読みながら自分なりに追っていったつもりです。

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――北原さんがラブピースクラブ(女性向けアダルトグッズショップ)を開店されたのも97年ですね。

北原 女のセックスをどこまでも自由に考えたかったんです。今の「an・an」が推奨しているのは、「自分の快楽=彼に愛されるため=自分の価値」。そんなのおかしいじゃない! 自分の体は、自分のもの。愛されるためでも、値段をつけられるものでもないのにね。

 今は女性向けアダルトグッズショップも少なくありません。それでも多くのショップが、「彼に引かれない、かわらしいオナニーをしよう」とか「膣を鍛えて、結婚出来ました」と、自分が主語ではない快楽をビジネスとして提唱している。そしてそれが受け入れられている。どうしたものか、と悩んじゃいます。

――どこでエクスタシーを感じるかは個人の問題なのに、「膣トレ」によって「膣で感じなきゃ」「膣でイかなきゃ」という一義的な考えが押し付けられているように思います。

北原 15年前に初めて膣トレグッズを紹介した時は、「自分の体を楽しもう」というメッセージを送ったつもりでした。インナーマッスルを鍛えればオーガズムも深くなるしね。でも今は、そのオーガズムですら、”カレが喜んでくれるから”と喧伝されている。「膣を鍛えて、結婚出来ました」とかいうコピーを読んだときは憤死しそうになりました。そもそも「セックスが良かったら、こんなご褒美があるよ」という考え方自体がセックスに失礼だし、クリトリスに失礼、女に失礼。

――セックスを含め、自分に価値を付けたがる傾向は、「モテ」ブームとも関係があるように思います。

北原 「モテ」はもう10年くらいずっといわれてますけど、自分を商品にして他人に価値を認めてもらう生き方は苦しいのにね。そういう意味でいったら、ちょうど「an・an」が一番輝いていた時代に青春を送った40代のバブル世代の女性たちは、モテたいからキレイになるわけじゃなく、自分が堂々としているためにキレイであろうとしてますね。あくまでも主語は自分。世代の差を感じます。

――「キレイで若く」という願望は、特に40代女性を中心に盛り上がっていますが、下の世代からは「痛い」と見られがちです。どうしてそんなに現役にこだわるのか、と。

北原 それは同じ女性が言うべきことじゃないんじゃない? 現役からすんなり降りることが楽な生き方だと思うなら、今すぐ降りればいいと思う。年をとったら女から素直に降りてオバサンを自称できるくらいの開き直りが賢さだと思っているのだとしたら、その賢さは誰のためのもの? 私は、オバサンのくせに若作りとか言われても、ブスのくせにと言われても、他人からどう罵られても、自分の欲望に率直でありたいと思う。そういう女を貶めるような考え方が、女の生きにくさを深めると思う。

 最近、新大久保を取材する機会があったのだけど、中高年の女性が韓流にハマる理由がよく分かったんだよね。

――ババア差別しないから?

北原 そう! 日本にいるとババア差別をいろんな文脈で感じます。この国で女が自尊心を損なわずに生きること、年を取ることは本当に難しい。中高年女性が隣の国の胸板の厚い男たちに夢中になるのもよくわかる。しかも、胸板厚くて、背が高くて、セクシーでしょう。唯一の希望、韓流! という気持ちもよく分かるのよね。私は、他人に痛いと思われたくないというのも、愛されたいために自分を抑えるのも、同じことだと思う。どんなことを女が口にしようが、誰もあなたを罰しない。どんなセックスをしようが、誰もあなたをおとしめない。そういう安心と自由こそが、私の希望です。今、決めたけど、私は90歳になるまで生きて、毎年ご新規さん開拓をしてセックスしていくわ。そういうババアが増えることでしか、この国は変わらないでしょ。いつまでも「やりたい」と素直に言える女が増えたら、確実に社会は変わる。東電OL化したこの国に、生きる希望が見えてくるのではないかと、私は真剣に考えています。私は90歳までちんぽをくわえて死にたいですもん(笑)。

北原みのり(きたはら・みのり)
1970年生まれ。女性のためのアダルトグッズショップ「ラブピースクラブ」代表。主な著書に『はちみつバイブレーション』(河出書房新社)、『フェミの嫌われ方』(新水社)、『オンナ泣き』(晶文社)、『ブスの開き直り』(新水社)など。

『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)

雑誌「an・an」のセックス特集から垣間見える、女の生き方40年史。女性のためのアダルトグッズショップを経営する著者が、日本女性のセックス観の変遷を鋭くつづる。

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