『ゼロ年代の音楽 ビッチフォーク編』刊行記念 特別対談【後編】

ビッチ、ガーリー、小悪魔ageha……男性中心社会を突破しえる女性性とは?

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『百万円と苦虫女』/ポニーキャニオ

(前編はこちら)

■女性性を武器にする「ビッチ」という生き方

水越  『腑抜けども悲しみの愛を見せろ』(2007年)の姉もその意味では同じ苦しみの中にいたんだよね。彼女の場合は妹と違って昔ながらの「女の力」を使って抜け出そう としてた。『サイタマノラッパー2』にもそういう子が出てくるのね。まー、「ビッチ」だよね。で、男に人生を乗っ取られちゃってるんだけど、すごく後ろ髪引かれてる。『腑抜けども~』の姉が妹を徹底的に妨害するのにも、そんな後ろ髪を感じるところがある。

五所 あの姉は義姉も妨害してましたね。「ビッチ」からしたら、義姉=専業主婦という旧来型の安定の座も、妹=男に依らない新しい自律型の欲求も、どちらも割り切れない。

水越 ああ、そっちの関係もあったね。そういう「ビッチ」の心情と行動はやっぱり痛々しく感じる。自分の性を自分でコントロールできるという「ビッチ」の自負みたいなものがあるとしても、結局その性は経済に翻弄されていくしかない。そのことは昔から変わってない。50年代の映画『バターフィールド8』(1960年)でエリザベス・テーラーが演じる主人公が、男に遊ばれているのではなくて「遊んでいるのはあたしよ」って言うんだけど、結局は「妻の座」へのコンプレックスに 押しつぶされる「哀しい女」になっちゃう。

五所 男性との性愛を幸福に成就させる「ビッチ」っていたかな……。せめて、哀しくない「ビッチ」……。

水越 タランティーノの『デス・プルーフ』(2007年)はそうじゃない? 『テルマ&ルイーズ』(1991年)は崖に突っ込んで終わるけど、 15年後の『デス・プルーフ』の女たちはたくましかったよねー。あの女同士の会話とか言葉遣いがすごく好きだった。あの会話のなかに男性中心主義じゃない言葉の種があると思うし、現実の女たちはけっこうあんなふうに喋ってるんだよね。

五所 ほんとほんと。私、ラストシーンは一緒にガッツポーズしてます。「女こども」の「おしゃべり」って低級なものと見なされて、およそ言語として認められないんだけど、女たちが快活だわ、攻撃的だわ、楽しそうだわ、そこに満ちてる快楽が表れてるんですよね。しかも男への復讐劇にもなってる。『女囚さそり』(1972年)なんて苦しそうですからね。対極だ。

水越 『女囚さそり』! タランティーノ自身はこの作品が大好きだって言うよね。

五所 ただ「哀しくないビッチ」は稀かもしれないですね。「ビッチ」は性の自立がテーマである以上、見た目にも行動にもセクシャルなものが強調される。すると、逆説的だけど、男性の視線や存在が不可欠になって、結果的にそれに振り回されて「哀しい女」になってしまいがちな気がする。そういう意味では、性を強調しない「ビッチ」というのがあるんじゃないか。『百万円と苦虫女』(2008年)って見ました?

水越 見た見た。100万円稼いではそれを引っ越し資金にして次の場所に行くんだよね。彼女にとっての労働ってなんだったと思う?

五所 目的も生活もすごく地味。最初は、若い女が自分だけの経済を確立する話だと思ったんです。大事なことですよね。だけど彼女の場合、そういう遊戯だったのかなって。ラストを見ても、百万円に対しても男に対しても彼女の執着は見えなかった。わりと簡単に諦めがつくっていうか、結局は捨てちゃえるものだったっていうことなのかな、と。

水越 捨てたんだっけ? 追いかけて来た男と結局会えなくてまた旅立つんじゃなかったっけ? 男への執着で作った「前科」に押されて自発的に「フリーター漂流」の旅に出るだよね。目的は「お金」ではないんだけど、恋人がヒモみたいになることは許容しない。男にも頼らないけど、100万円稼いでは次へ行くことで、経済にも翻弄されない生活を志向してるようにも思えるんだけど。

五所 あ、なるほど。そもそも目的は「何にも翻弄されない」なのか。100万っていうのが彼女のエコロジーそのものに見えてて、それを諦めちゃったように感じたんですけど、むしろ超然としてるのかも。都市型ボヘミアン「ビッチ」なんて言うと無理があるのかな。

水越 社会として、勝間和代を称揚する一面がある一方、辟易する人たちも相当いる。これは資本主義がどうこうというのでもなくて、現在の社会では富や権力が回って来づらい人たち(持たざる者たち)への「不足を感じないままで暮らしてね」という要請があるということでもあるんじゃないかな。社会の安定のためにね、お金だけでなく、自分探し的な意味でも不足を感 じないで生きることを無言のうちに求められている。自分の意志で「降りてる」だけではなく、「600万円ゲーム」がもてはやされることで、ほかの方法による人生の拓き方が隠されてしまってるだけだったり…。そりゃあどんなものであれ、自分の意思なのかどうかを確信することは 難しいんだけど。

五所 そこなんですよね。節電ブームと同じで、実は根拠が希薄っていうか、お仕着せなんじゃないかって。

水越 そういう意味で『百万円と苦虫女』では「苦虫」の顔がもっと強調されてれば印象は変わったんじゃないかな。仏頂面を取り繕わないことって、特に若い女 には表現になり得る。この主人公は超然としすぎてて、例えば異常に強調される「前科」への罪悪感なんかも本気なのかどうか今ひとつ分からない。行動はボヘミアンだけど、心は引きこもり。でも自分の外部ではなく内部を広くすることで、自由になるために必要なお金を最低限に見積もることが可能になる。

五所 自分が持たざる者であることを直視しながら、内部を広げるのが難しいのかもしれないですね。エコ・省エネブーム、節約、占い、ソーシャルネットワー ク……持たざる者たちの外部を形成しているようでいて、日々の労働、奴隷の快楽っていう感じがする。そこでは、よくいえば皆とても行儀良く、悪くいえば相互監視的で、欲求や感情の手足をもいでるように感じる。

水越 確かに……。そうなんだよねー。勝間和代信奉もまったく同じことで、そうなると何やったって同じってことになってしまう。

■『小悪魔アゲハ』が取り戻したガーリーの一端

五所 さっき出たガーリーブームは端的に、内部の拡大、内面の確保といえますよね。ソフィア・コッポラはその代表格だけど。『マリー・アントワネット』(2006年)をとっても、内面を広げることが目論まれている世界観だけど、感情が切り詰められているように見えるのが不思議で、これはちょっと危険だなーと。

水越 そこにはさっき五所さんが言った言葉の問題というのがあるかもね。『マリー・アントワネット』は音楽も含めて、一瞬にしてその世界観を感覚的に伝え る。伝わらない人にはどんなに時間をかけても伝わらない。感情というのは実際に言葉にできる以上の重量を持つものだけど、あまりにも言葉にできなさすぎてて、切り詰められてるようにしか見えなくなる。

五所 身の回りの愛好するものをひたすら集めてみました! って言わんばかりの舞台セット、女子が連発する「かわいい」が過剰に溢れる世界観ですよね。たとえ ばこの国は、ゴダール作品見て「アンナ・カリーナのトレンチコートかわいい!」とかラース・フォン・トリアー見て「ビョークのワンピ&カーデかわいい!」な んていう、唯一の文化圏。ある意味で、その失語症的な一面突破がね、男性中心主義的な言論をシカトこいてるだけじゃなくて、その構造を暴き立てる 批評作用をもつんじゃないかなーって。そんな期待はしてしまうんです。

水越 その源流にはなるのかなあ。「かわいい!」は80年代初頭に出て来たんだよね。「近頃の女は”えー””うそー””かわいい!”しか言わない」って言わ れてた。同年代の友達と買い物なんか行くと今でも「かわいい!」の連発だよ。でも90年代以降、どんどん男性的言語の文脈に奪われて、クールジャパンの一 商品として陳列されてる。ガーリーのBサイドだったコギャルの系譜にある『小悪魔アゲハ』(インフォレスト)はようやくこの一端を奪い返したと言えるんじゃないかな。少なく とも作り手側は。そのことが、例えばその読者層に当たる女の子をどのくらい自由にするかは難しいところでしょうけど。

五所 読者層の実相については『ゼロ年代の音楽 ビッチフォーク編』でも話題にあがりましたよね。消費の追っ手は早いけど、そこに巻き込まれずに、かついかに奪い返せるのか。

水越 それは難しいよね、資本主義の強さと節度のなさは誰にとっても「想定外」だから……(笑)。これ言ったら話が最初に戻っちゃうか。
  まとめると、ロールモデルという考え方自体がとっくに崩壊してるんだよね。「母親のようにいきたい」と思っている娘は多いらしいけど、現実にはそれはもうほとんどの人には不可能なんだよね。男たちはすでに既得権世代と若者世代がずいぶんと憎み合ってるけど、女の中ではまだそうなってはいない。むしろ昔よりも世代間の葛藤は少なくなってるように感じる。それを数少ないアドバンテージにしていければいいのかな。

『ゼロ年代の音楽 ビッチフォーク編』

必読です

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