[連載]海外ドラマの向こうガワ

うつ病&パニック障害を患う2代目マフィアの抗争劇『ザ・ソプラノズ』

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――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 日本人がやくざ映画を好むように、アメリカでもマフィアを題材とした映画やドラマに魅力を感じる人が多い。住む世界はもちろんのこと、生き方、考え方や価値観、全てが異なるというのに、人々は作品の中のマフィアに共感し、心酔してしまうのである。

 「暴力的」で「非情」だと恐れられ、アンタッチャブルだとされているマフィアだが、”弱肉強食”の世界に生きる彼らに男たちはロマンを感じ、「憧れ」に似た気持ちを抱く。女たちも「一緒になったら絶対に苦労する」と思いながらも、「危険で野蛮」なマフィアの男たちにどこか惹かれてしまう。そんなアメリカ人の秘めたる思いを満たしてくれるのが、マフィアの世界を疑似体験させてくれる映画やドラマであり、よってこのジャンルの作品はヒットする確率が高いとされている。

 裏の世界に君臨し、独特の世界観を持つ犯罪組織、マフィア。多くのプロデューサーや監督が、マフィアに魅せられ、これまで多くの映画やドラマが制作されてきた。中でも、アメリカの政治や経済、芸能界までをも牛耳っていた、イタリアン・マフィアの概念を人々に植え付けた名作映画『ゴッドファーザー』シリーズが業界や世間に与えた影響はあまりにも絶大であった。

 1970年代に制作された、『ゴッドファーザー』パート1、2は、今なお絶えること無く、常に新しい世代のファンを生み続けている。世代を超えていつまでも愛される理由は、誰しもが持つ「愛」「憎」「欲望」を上手く混ぜ合わせ、人間の内面を深く掘り下げて描いたことにあるだろう。

 そんな『ゴッドファーザー』に代表されるように、マフィアを描いた作品は、人間としての苦悩を描いたものが多い。暴力シーンも「怒り」や「悲しみ」「憤り」などの意味が込められており、ただヴァイオレンスなだけではない。また、家庭崩壊などプライベートな「格好悪い」部分もスタイリッシュに表現されており、何もかもが画になる「芸術品」に仕上がっているのである。

 ダンディーで画になる男たちが主人公のマフィア映画やドラマに慣れていたアメリカ人に、大きな衝撃を与えたドラマが99年、アメリカの有料チャンネルHBOでスタートした。アメリカTV界に革命をもたらしたと高く評価される名作『ザ・ソプラノズ~哀愁のマフィア』である。

 ドラマの舞台は、ニューヨークの隣に位置するニュージャージー。大都会ニューヨークに比べて、「田舎臭い」「ださい」とアメリカ人が卑下するニュージャージーを拠点とする、イタリア系マフィア「ソプラノファミリー」2代目トニーが、抗うつ剤をボリボリ頬張りながら、時代の流れに負けまいと歯を食いしばり、マフィア・ファミリーと自分の家族を守ろうと苦悩し、奮闘する姿を描いたものである。

 ABCやNBCなどの大手放送局ではなく、お金を出さなければ視聴できないHBOは、日本でいうとWOWOWのようなものであり、加入者は少ない。そのため『ザ・ソプラノズ~哀愁のマフィア』シーズン1は350万人ほどしか視聴されなかった。しかし、斬新な内容に度肝を抜かれた批評家たちが大絶賛したこと、また、同時期に放送された『Sex and the City』の人気も手伝い、「本当に見たいドラマがある」「大人向けのTVドラマが見られる」とHBOの加入者は激増。シーズン4には、なんと1,000万人増の1,350万人が視聴し、ケーブルテレビとしては、まれに見ぬ高視聴率を記録した。

■マフィアの格好悪い日常と悩みにシンクロする視聴者

 主人公は、家庭では思春期にさしかかる子どもたちに疎まれ、気の強い妻にもまれている、どこにでも居そうな「気の良さそうなおじさん」。遺伝による「パニック障害」持ちで、鬱病も発症しているため、精神科医の治療を受け、アメリカ人の多くが服用しているプロザックが手放せない。男性の更年期ともいえる「中年の危機」を、真剣に捉えているアメリカ人にとっては、共感できる要素をいくつも持つキャラクターだ。

 そんな、普通のおじさんが、仁義に反した裏切り者に「この上なく惨い」制裁を加える時の、背筋が凍るような鋭い表情を見せる瞬間、視聴者はどのサスペンス・ドラマからも得られない刺激とスリル、そして爽快感に似た快感を味わい、ソプラノズ中毒に陥るのである。

 暴力やセックスシーン、口悪く下品な台詞も大きな話題を呼んだが、何よりも登場人物たちが「日々の生活」を通して考えることが、あまりにも自分たちと似通う点に、視聴者は最大の魅力を感じたといえよう。マフィアのボスである夫の不貞ばかりが気になる妻、自分勝手で自分が一番大事なトラブルメーカーな姉、愛する彼女が不妊だと知り結婚に躊躇する若い構成員、ゲイであることをひた隠しにする既婚中年構成員。初代ボスからファミリーに仕えている初老構成員は癌を発症し気弱になるし、権力を握っていた時期もあったが年老いて認知症になってしまう初代ボスのいとこも、シリーズを通して登場し、物語に深みを与え続けた。

 マフィアといえど、「殺し、脅し」を商売にしているだけで、あとは普通の人々とさほど変わりはない。そんな彼らの、「他人には見せたくない」「格好悪い」日常が、心の奥底に渦巻く複雑な感情と共に描かれており、ドラマにハマる視聴者が急増。主人公が受ける、精神科医とのセッションで明らかにされる潜在意識や母親の呪縛を、ノスタルジックでアーティスティックなフラッシュバックと共に描いたシーンは格別で、辛口な批評家も「ヒューマン、ヴァイオレンス、サスペンス、アート、そしてミステリアスな要素が、これほどまで見事に調和した作品はない」と舌を巻いたほどであった。

 また、しのぎが年々減り続け経済的に厳しくなっていく点、中東からの移民の増加でシマの統一が執りにくくなっている点など、現代マフィアの厳しい実態や、不気味なテロリストへの恐怖心なども赤裸々に描かれており、不況の風が吹き始めたアメリカにおいて、より一層のリアルさを表現できた点もヒットの要素だといえよう。

 登場人物の気持ちにシンクロすることで、人間の愚かさや空しさ、生きることの素晴らしさを感じ、その上、ストレスも発散できる不思議なドラマ『ザ・ソプラノズ~哀愁のマフィア』。飽和状態になりつつある海外ドラマの中でも、これほどまでにアドレナリンを分泌させてくれる作品はないだろう。刺激が欲しい貴女、必見の名作である。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

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