[連載]海外ドラマの向こうガワ

ティム・バートン作品を思わせる、新スピリチュアルドラマ『プッシング・デイジー』

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『プッシング・デイジー ~恋するパイメー
カー~』/ワーナー・ホーム・ビデオ

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 年明け、安室奈美恵&ロンブー淳のお忍び旅行で、にわかに注目されるようになったアリゾナ州セドナ。西部劇のロケ地としても知られるセドナは、ネイティブ・アメリカンから「精霊が宿る」「精なる地」として崇められてきた場所であり、神への儀式を行う「特別な大地」。一帯は強い地磁気を放っており、人間の身体にも多少の変化を与え、その変化をパワーとして感じることが出来るそうだ。中には、セドナのパワースポットを巡り、病が治ったという報告もあるという。

 アメリカ人の多くは、幼い頃から日常生活を通して刷り込まれたキリスト教系の倫理観を持つ。そんな彼らにとって、スピリチュアルとは、日本人が考える「霊的」「超現象的」な意味合いとは少々異なり、キリスト教的に、とても神聖な「神からの啓示」として捉えられている。セドナも、神のメッセージを感じとることで、スピリット(魂)を浄化し、磨きをかける場所だと解釈されており、そのスピリチュアルな力を得ようと、アル・パチーノ、シャロン・ストーン、マドンナなど数多くのセレブがセカンドハウスや別荘を持つほど。神の存在は、アメリカ人にとって絶対的なものなのである。

 このように、ほとんどのアメリカ人が「信仰心」を持っているが、実は宗教をテーマとしたTVドラマは視聴率が取れないとされている。その理由は敬虔な信者である視聴者か、世俗的な視聴者か、どちらかにしか支持されないからだと言われている。しかし、同じように神の存在が見え隠れしていても、信仰心を問いかけるような重い内容ではなく、どちらかといえばSF的でもあるスピリチュアル系ドラマは比較的両者からも視聴されるようで、『トワイライトゾーン』『X-ファイル』など大成功を収めたスピリチュアル系ドラマも少なくない。

 キリスト教では、人間は死んだ後「審判の日」まで眠り続けることになっているが、「墓の下で朽ち果てながら待つ」のではなく「魂が眠るよい場所」があるのでは、と思っているアメリカ人は少なくない。臨死体験を持つ人の「光が見えた」「故人の姿が見えた」という話に興味を示すアメリカ人も多い。死者とコミュニケーションが取れる、というコンセプトのスピリチュアル・ドラマ『トゥルー・コーリング』『ゴースト~天国からのささやき~』が人気を得たのも、死後は神の導きにより、よい場所へ行けるというメッセージが大衆ウケしたからであろう。

 一定の人気を得ていたスピリチュアル系ドラマに、新しい旋風を巻き起こした作品が2007年10月にスタートした。これまでの「重く、暗い」雰囲気から抜け出し、まるでティム・バートン監督のファンタジー映画のような、カラフルで輝きのある「摩訶不思議」なスピリチャル世界を描き、大絶賛された『プッシング・デイジー 恋するパイメーカー』である。

■コメディータッチな作風に入れこまれた、人間の罪深さ

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 ドラマの主人公は、「死者に触れると、蘇らせることができる」という不思議なギフト(能力)を持つ青年。しかし、蘇った死者が1分以上生きると、ほかの誰かが代わりに死んでしまい、また、蘇らせた死者に青年が再び触れると、瞬時にして永遠の眠りにつかせてしまう、という「惨い」条件がある。青年は、ひょんなことから私立探偵に能力のことを知られてしまい「不審な死を遂げた死者から、死因を直接聞き出す」手伝いをすることに。もちろん「1分以内に蘇らせた死者に触れ、永遠の眠りを与えること」を忘れずにいたのだが、ある日、不慮の死を遂げた初恋の女性を蘇らせてしまい、愛する人がすぐ側にいるのに、二度と触れることができないというジレンマと葛藤する日々を送ることになる。

 放送開始時期が米脚本家組合のストライキと重なったため、シーズン1は予定より短くなり、当初は視聴率もイマイチであったが、死を侮辱することなくコミカルに描くことに成功した点、切ないストーリーをミュージカルのように美しく生き生きと描いている点が視聴者を惹きつけ、たちまち人気ドラマの仲間入りをした。

 番組クリエーターのブライアン・フラーは、本作品を制作する4年前、「普通の人間が死後、死神として働くハメになる」という内容のドラマ『Dead Like Me』を手がけており、奇妙なスピリチュアル・ワールドには定評があった。ジワジワと伸びた視聴率は安定したものとなり、コアなファンも獲得。日本でも2月24日にDVDがリリースされるシーズン2の内容は素晴らしいと評価され、エミー賞4部門を制覇した。

 「ありえない」世界が展開している『プッシング・デイジー  恋するパイメーカー』であるが、世の中そんなに上手くいくわけはない、人間は罪深くいものだという「現実的な」横槍を入れることも忘れていない。

 主人公の職業はパイメーカーだが、これは「蘇らせた死者に再び触れると、瞬時にして永遠の眠りを与えてしまう」という能力の条件を知ることとなった、亡き最愛の母親がよく作ってくれたフルーツ・パイの虜になったからであるし、「蘇った死者が1分以上生きると、ほかの誰かが代わりに死んでしまう」という能力の条件は、初恋の女性の父親の死によって知る。残酷な現実、悲しい世界がドラマには描かれているのだが、それを美しくコミカルに表現することにより、現世とはそういうものなのだ、与えられた運命を精一杯生きるのが人間なのだ、と押し付けがましくなく、サラリと教えてくれるのだ。

 喧騒にまみれた日常で疲れた私たちの魂を、暖かくカラフルに包んでくれるハートウォーミング・ドラマ『プッシング・デイジー  恋するパイメーカー』。癒やされたい女性たちにぜひ触れてもらいたいスピリチャル作品である。

『プッシング・デイジー ~恋するパイメーカー~ 〈ファースト・シーズン〉コレクターズ・ボックス』
1月27日発売/9,800円(税込)
発売・販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
(c)2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

プッシング・デイジー ~恋するパイメーカー~ 〈ファースト・シーズン〉コレクターズ・ボックス

久々に女子力高そうな海外ドラマです

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