『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』母の願い「家族一緒に」は、子の負担にもなる「ボクと父ちゃんの記憶2022後編 ~18歳の夢 家族の夢~」

2022/09/26 18:35
石徹白未亜(ライター)

『ザ・ノンフィクション』京子の思い「うちの障害の子たちが一緒に暮らせたら」

 京子は、施設に入りもう京子が誰なのかもおぼつかなくなっている佳秀との再会時、佳秀の好物であるステーキをたっぷりのせた弁当を作り、ワンピースでおめかしをしていた。

 日本の50代の既婚女性で、夫にこれほど恋愛感情を持っている人は珍しいのではないだろうか。玄関には、佳秀と京子の結婚式と思われる写真が大きく引き伸ばされて飾られていた。これは「ようやるわ」という冷やかしの意味ではない。仲が悪かったり、冷え切っている夫婦関係よりはずっと良い。

 施設に預けたら佳秀が家族のことを忘れるのでは、とためらいを見せていたのも京子だ。京子は、佳秀と施設で再会した帰り道で「全員うちの障害の子たちが一緒に暮らせたら本当に楽しんじゃないかなと思って。それぞれができる役割したらすごく楽しいかな」と話していた。

 この「全員」のあと「子たちが」と続くので、佳秀は入っていないのかもしれないが、入っているとすれば、ナレーションの調子と一致する。

『ザ・ノンフィクション』「家族一緒に」という発言に伴う負担

 林家の放送はこれで4回目になるが、佳秀と京子の間の第1子(大介にとって兄)には重い障害があり、病院で暮らしていることが初めて伝えられた。

 大介は18歳という年齢の割にしっかりしている印象で、それは父親を介護するヤングケアラーとしての日々から培われたものかと思ったが、兄の存在もあったのかもしれない。この兄の存在が明かされたことで、ずいぶん家族全体の見え方が変わってくるような気がした。

 そして京子も、家族をケアする日々だったのだろう。そのうえで「(家族)一緒に暮らせたら」と言える京子はパワフルだと思うが、その思いが今の子どもたちの負担にならないことを願う。「家族一緒に」という発言自体は「善意」なので、異論を唱えにくい。

 家族一緒に、じゃなく、大介はむしろ一人暮らしをしてのびのび過ごしてみては、と思った。

 次週は「ボクのおうちに来ませんか2~モバイルハウスと新たな家族~」。2年前に放送した、移動型の家で暮らす二人の若い男性のその後。彼らに「結婚に伴う責任」と「自由気ままな生活」を天秤にかけて決断しなければならない時が迫り……。

▼前回のモバイルハウスのレビューはこちら

 

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2022/09/26 18:35
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