崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

Netflix『D.P.-脱走兵追跡官-』に見る、韓国「徴兵制」の実態――「命令と服従」実体験を映画研究者が語る

2022/09/16 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

『D.P.-脱走兵追跡官-』兵役をめぐる韓国社会の分断

 韓国には「将軍の息子」「神の息子」、そして「百姓の息子」という言葉がある。

 部隊に入るのではなく、家から通って兵役の代わりをする「防衛兵(現在は社会服務要員)」になれるのは「将軍の息子」(入隊のための身体検査で視力や身長、体重などの基準が一般兵士の条件に至らないと判定された人が対象だが、なぜか芸能人に多い)、なんらかの理由で兵役免除になった者は「神の息子」(政治家や財閥など金持ちの息子が圧倒的に多い)、一般兵士として入隊する者は「百姓の息子」と呼ばれる。兵役の格差を「階層」の違いにたとえて分けた呼び方だ。

 兵役逃れにこの上なく厳しい韓国社会だが、誰もが「免除」になりたいという欲望をにじませている。他人の兵役逃れには容赦のないバッシングを与える一方、我が子には免除させてやりたいと願うわけだ。兵役をめぐる社会の分断もまた、韓国ならではの問題といえるだろう。

 さて、好評だった本作は、早くもシーズン2の制作が発表されている。次はどのような軍隊の現実を描き、どんなメッセージを発信してくれるだろうか。期待は膨らむばかりである。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2022/09/16 19:00
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