コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

嫁はフィリピン人。「ダイジョーブよ、母ちゃん」認知症の義母の失敗も笑い飛ばす、まるでコメディアン

2021/12/26 18:00
坂口鈴香(ライター)

 丸田さんはプライドが高いのだろうと押野さんは想像している。フィリピン人の嫁を受け入れられないのもそうだが、認知症が進むにつれてデイサービスやケアマネジャーとの面談も拒否するようになった。近くに住む娘の瑞枝さん(仮名・50)との関係にも影響が出てきている。

「丸田さんのご主人の法事をするときに丸田さんにも出席してもらうよう準備をしていらっしゃったのに、当日になって着物を着るのに抵抗されて、とうとう法事には出席できなかったと娘さんが嘆いていました。着付けのときに、体を触られることがどうしてもイヤだったようです」

 それからしばらくして、丸田さんは急に体調が悪くなって救急車で運ばれた。救急車が来るまでの間、慌てて実家に駆けつけた瑞枝さんが丸田さんを抱いて支えようとしても手を払いのけ、頑として触らせなかったという。ところが意外なことに、マリアさんが差し出した手は受け入れたのだ。そして救急隊の言葉にも素直に従い、病院に搬送された。

「娘さんは大きなショックを受けていらっしゃいました。マリアさんは受け入れられて、実の娘である自分は拒否されたのですから、無理はありません。ただ、丸田さんが娘さんを拒否されたのは、丸田さんのプライドだったんではないかと私は思うんです」

 元気だったころの自分を知らないフィリピン人の嫁には老いて弱った自分を見せられても、自分が育ててきた娘の前ではそれができない――それが丸田さんのプライドだったのではないかと押野さんは言う。

「第三者である私の目にはそう映りましたが、娘さんには納得できないでしょうね」

 丸田さんはその後施設に移った。コロナ禍で面会もなかなかかなわない中、マリアさんは洗濯物を届けに足しげく施設に通っている。そんな姿を見た施設の職員から介護士を目指さないかと誘われ、目下日本語を猛勉強しているという。

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2021/12/26 18:00
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