老いゆく親と、どう向き合う?

弟を溺愛する母から「もう二度と会いたくない」と怒鳴られても……毎週、実家に通う理由

2021/12/12 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 運転に過剰な自信を持ち、運転をやめようとしない母親に悩む宮下いづみさん(60)と母涼子さん(仮名・85)の話を続けよう。

母のような人間にはなりたくない

 見えてくるのが、涼子さんの異常なまでの自信とプライドの高さだ。宮下さんは「母は自分は世界一運転がうまいと思っている」と言う。『高齢ドライバーの安全心理学』(松浦常夫著・東京大学出版会)によると、高齢者は自分の運転を客観視できず、過大評価する傾向があるというが、涼子さんの過剰な自信は運転に限ったことではない。涼子さんには、コロナにもかからないという妙な自信があるようだ。

「母はこの緊急事態宣言下に、入院して眼瞼下垂の手術を受けたんです。『こんなときに受けなくてもいいじゃない。コロナにかかったらどうするの』と止める私に、『あなたが私の運転が危ないと言うからよ。瞼が落ちると視界が狭まるでしょ』と私のせいにしていました。それだけではありません。『コロナだからといって何で自粛しないといけないの』と、若いころからの趣味のブリッジをしに毎週遠くまで通っています」

 涼子さんのことを、「認知症なのかもしれない」と思うこともある。でも、宮下さんが幼いころから涼子さんはずっとこうだった。年を取ったからこうなったわけではないと思い直す。

「常に自分が第一。人の話は聞かない。感情のコントロールが効かない。弟のことをでき愛する一方、私には厳しく何をするにも常にトップを要求されてきました。母が『地球は三角』と言えば、私がそれを認めるまで言い続ける。自分の思い通りにならないと我慢ならないんです。私はずっと母のような人間にはなるまいと思って生きてきました」

 今も涼子さんは宮下さんへの要求は高い。

「母の誕生日に20万円の海外旅行をプレゼントしたのですが、『お友達はお嬢さんから100万円の旅行をプレゼントしてもらった。それなのに、あなたはたったの20万円。だから料理もおいしくなかったわ』と責められました。資産家のお友達と比べるのが間違いですよ。私は自分で稼いだお金でプレゼントしているんですから。花を贈っても『花は散るのよ。あなたは私に散れと言うのね』と怒鳴る。どんなに母に尽くしても、不満しかない。毎回こうして責められると、もう顔も見たくないと思ってしまいます」

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