コラム
『おちょやん』解説

『おちょやん』成田凌演じる一平、執筆スランプで“盗作”!? 実は「全然自分で書いてない」“名脚本家”のガッカリすぎる史実

2021/05/08 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

  まぁ、結論から言うと、ほとんど出版されていない渋谷脚本の中でも珍しく『わてらの年輪』は活字化されています。一方、藤井の『乱れ友禅』は文字になっていません。ですから、スランプで脚本を書けなくなった渋谷が、『乱れ友禅』を下敷きにして、新作を形にしたという藤井の主張に、客観的な検証手法は存在せず、なんとも言いようがないのです。

 しかし……、酔っ払った渋谷の語る“あらすじ”を、脚本にするべく文字起こしせねばならなかったという花登筺、さらに自分の脚本を下敷きに、渋谷がオリジナルキャラクターとエピソードを加え、アレンジしたものが『わてらの年輪』にすぎないと主張する藤井薫、その二人とも、渋谷によって松竹新喜劇から追放されたという事実があるのです。

 さらに、松竹芸能の社員も「みんながアイデアを出し合って(脚本を)作っていて、(それが)誰の(作品)だということになれば、普通はまとめた人の名を使います」(『渋谷天外伝』)などと、渋谷の創作スタイルが普通ではなかったことを認めています。

 こうして考えれば、渋谷天外の“盗作疑惑”、これはかなりクロに近いグレーゾーンではないか……と思ってしまう筆者でした。「いい脚本を書きたい」と渋谷は主張し、浪花千栄子を傷つけて離縁。しかし、「その結果がこれ?」と思ってしまうガッカリな逸話です。

 『おちょやん』の松島寛治なら、「どあほー!」の一言かもしれませんね。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

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最終更新:2021/05/08 17:00
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