コラム
『おちょやん』解説

『おちょやん』杉咲花演じる千代の“鬱展開”は史実よりマシ!? ドラマより救いがない夫・渋谷の外道っぷり

2021/04/24 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

 浪花は渋谷との約20年の結婚生活をこう振り返っています。

「天外の女房という立場は補欠の立場みたいなもんでしたね。人のいやがってた役とか病気の代役ばかりやらされ、新しい衣装を着せてもらえず(略)、気兼ねせんならん(略)。お話にならん苦労を続け、二十年も主人大事になりふりかまわず働き、やっと戦後に松竹新喜劇が出けて(=出来て)、やれ安心とおもったら、あきまへん」(昭和31年11月16日、東京新聞夕刊「浪花千栄子芸談」)

 「あきまへん」というのは、夫と自分が目をかけて面倒を見てきた、九重の不倫と妊娠が発覚したという事件を指しています。夫婦関係の破綻は男女両方に責任があり、浪花の主張ばかりを見ていてはいけません。

 ところが、渋谷は元・妻である浪花への言及自体がほとんどない。これには驚かされました。渋谷の悪口を隠せない浪花に比べ、しゃべりもしない渋谷を見ていると、浪花に対する気持ちは、何も残っていなかったことがわかります。

「あれだけ技量とキャリアを持った人気女優(=浪花千栄子)を失ったのだから劇団としては大きな痛手である。私にこそ一言の文句もいわなかったが、劇団員の心中はオヤジ(=座長・渋谷天外)不信の一歩手前であったと言える」とは認めていますが、浪花への絶賛はどこか白々しいです。

 そして、浪花の退団後については

「酒井光子はじめ若手の女優がムクムクと頭をあげて、見違えるばかりの演技の上達である。劇団の責任者の妻であり、ピカ一的な存在であった浪花さんのその人気と芸に押さえつけられて伸びる機会のなかった彼女たちが、その重圧から解放されて一時(いっとき)に開花したのである。ピンチ即チャンス、ということになったのである」(渋谷の自伝『わが喜劇』)

とも言っています。結局、古株の浪花が抜けてくれたから、新しいスター女優が、それも複数育つことになって、逆によかった! と結論づけているのですから、驚いてしまいました。

 これが渋谷天外という男の本質であり、浪花千栄子が自伝『水のように』で、「よく、だましてくださいました」と皮肉を言うのもよくわかります。

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