芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

アカデミー賞6部門ノミネート『ミナリ』から学ぶ、韓国と移民の歴史――主人公が「韓国では暮らせなかった」事情とは何か?

2021/04/09 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

 最後に、私の大好きな詩人ファン・ジウが1983年に発表した「鳥たちもこの地を去って飛んでいく」という作品を紹介して終わりにしよう。

 軍事政権下での韓国では、映画館で本編が始まる前に必ず国歌が流れ、観客は起立してスクリーンに映る韓国国内の観光名所の映像を見なければならなかった。その映像は、鳥たちが空に向かって飛び立つ場面で終わり、それと同時に観客たちは席に着いて映画の始まりを待ったのだが、飛び立つ鳥と反対に席に座る観客の様子を、この詩人は「独裁から逃れてこの地を去りたいのに、とどまり続けることしかできない現実」の風刺として表現したのである。韓国で現在まで続くアメリカ移民の現象は、長く続いたつらい歴史が無意識に抑圧され、韓国を離れたい欲望として表れているといえるかもしれない。

 「ミナリはどこにでもよく育つ」というおばあさんの言葉通り、一度移民をしてしまえば、どうにかこうにか、韓国での暮らしよりはマシな人生が待っている――韓国人は、今でもそう信じているのではないだろうか。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

最終更新:2022/11/01 14:07
アクセスランキング

今週のTLコミックベスト5

  1. 塩対応な私の旦那様はハイスペックな幼馴染!?~トロトロに甘やかされて開発される体~
  2. 交際ゼロ日で嫁いだ先は年収5千万円のスパダリ農家~20歳、処女を弄ぶ優しい指先~
  3. お花屋さんは元ヤクザ~閉店後の店内で甘く蕩ける~
  4. 体育会系幼馴染は世界一の溺愛男子~全人類の好感度がある日見えたリケジョの私~
  5. 淫魔上司は不器用な溺愛男子~インキュバスが魅せる激甘淫夢は人外の快感~
提供:ラブチュコラ
オススメ記事
サイゾーウーマンとは
会社概要
個人情報保護方針
採用情報
月別記事一覧
著者一覧
記事・広告へのお問い合わせ
プレスリリース掲載について
株式会社サイゾー運営サイト